大文字山、3時間で満喫できる魅力とは 大阪も望める景色、地質観察に歴史探訪 でも遭難に注意!

大文字山の火床から一望する京都市内。この景色を求めて多くのハイキング客が訪れる(京都市左京区)

 五山の送り火で知られる標高465メートルの大文字山(京都市左京区)は、市民がハイキングに出掛ける身近な里山でもある。火床から眺める景色も美しいが、自然や地質の観察、歴史探索など多彩な楽しみ方が詰まっている。子どもへの環境学習を行う団体「フィールドソサイエティー」(左京区)代表で、著書「大文字山トレッキング手帖(てちょう)」がある久山喜久雄さん(65)の案内で奥深い魅力を探った。

■マグマ上昇の痕跡も、興味深い地質

 10月上旬、久山さんと銀閣寺前で待ち合わせた。鹿ケ谷まで約4キロのコースへいざ出発、と思いきや、山門の黒い敷石を指さし、「京都の地殻変動の一端です」と足を止めた。敷石は「ホルンフェルス」と呼ばれる岩石で、約9千万年前、大文字山と比叡山の間にマグマが上昇した際、高熱で堆積岩が変成したものだという。

 標高の低い部分はマグマが冷えた花こう岩が多く、登山道の中腹辺りからホルンフェルスに変わるとのこと。銀閣寺によると、敷石は周辺の山から採取したものを利用したという。花こう岩には黒雲母などの鉱物が含まれ、登山口近くの川が赤茶色なのは鉱物の酸化が原因らしい。「地質だけに注目しても非常に面白いですよ」。登る前から未知の世界にいざなわれる。

■植生、野鳥、豊かな自然

 登り始めて間もなく、樹皮がつるっと美しいリョウブが現れる。かつては新芽をご飯に混ぜて食べるなど貴重な食材だったそうだ。ムクノキの葉は漆器作りに使われ、サルトリイバラは葉でお餅を包んでいた。森と人の営みが結び付いていたことが分かる。「コケやキノコも豊富。真剣に観察し出すと先に進めません」

 標高270メートルほどにある千人塚周辺ではウリハダカエデが群生していた。「シカ害が植生に深刻な影響を与えているが、これはシカが好まない」といい、紅葉の季節には、朱や黄色に色づくという。この辺りで岩の色が白から黒に変わった。花こう岩とホルンフェルスの境目だ。

 ビィビィ。鳴き声が聞こえた。「ヤマガラだ」。双眼鏡を出して声の方向を見つめた。エナガ、シジュウカラ、コゲラ…。午後3時すぎには餌を求めて次々と鳥がやってくる。

■多様な歴史の跡、あちこちに

 1時間ほどで、京都市内の景色が一望できる火床に到着。空気が澄み、大阪市内のビル群も見えた。山科区方面が望める山頂を過ぎたころ、「如意ケ嶽城の土塁と堀ですよ」と、登山道の左右にある盛り土と細い溝を指した。応仁の乱で東軍に属した多賀高忠が築城したと伝わる城跡だそう。付近は京と近江を最短で結ぶ「如意越え」で、戦略上の要衝だった。

 平安時代にさかのぼると、ここは三井寺(大津市)の領地で、如意越え沿いには寺院が点在していたという。鹿ケ谷へ到着する直前にも、三井寺所蔵の「園城寺境内古図」(鎌倉時代)に描かれた滝や石段、寺院跡だと思われる整地部分を見ることができた。「平安期から現代まで人が常に行き来していたんです」。じっと遺構を見つめた。

 わずか3時間の行程だったが、大文字山の魅力を再発見するヒントをつかめた。過ごしやすい秋の季節。ただ登るだけでなく、五感を使って大文字山を味わってみたい。

■遭難も発生 注意忘れず

 気軽に登れる大文字山だが、それゆえに登山者の救助事案も多い。京都府警機動警ら課によると、1月から今月6日までに発生した遭難事故は7件(11人)で、府内で発生した件数の3分の1に当たる。例年10件近く発生し、ほとんどが道に迷うケースで、毎年10、11月に最も多く発生している。

 京都府山岳連盟によると、好奇心などから登山道ではないコースを歩く人もおり、登山道を外れたところに踏み跡があちこちに残っている、という。そのため慣れない登山者が、間違って入り込んでしまい、迷ったり谷筋に落ちてけがをしたりすることが多いようだ。サンダル姿など軽装で登る人も多い。

 同連盟の湯浅誠二会長は「まちから近い低山だからと軽く見ないで、初心者は登山道から外れず、十分な装備で登ってほしい」と呼び掛けている。

群生しているウリハラカエデ。鹿害から逃れ、秋には美しく紅葉する(中腹付近)
地質や植物について解説する久山さん。30年近く山と向き合ってきた(京都市左京区・銀閣寺登山口付近)

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