WTCR第3戦:混沌のなか3名の初優勝者誕生。コロネルが2016年以来の世界戦勝利を獲得

 2020年WTCR世界ツーリングカー・カップ第3戦が、10月10~11日にスロバキアリンクを舞台に争われ、好調アウディRS3 LMSのナサニエル・ベルトン(アウディRS3 LMS/コムトゥユーDHL・チーム・アウディスポーツ)が、開幕戦に続くポールポジション獲得からレース1を制し、シリーズ初優勝を達成。続くレース2はチームメイトのトム・コロネル(アウディRS3 LMS/コムトゥユーDHL・チーム・アウディスポーツ)がWTCRでの初勝利を挙げ、最終ヒートのレース3ではニッキー・キャツバーグ(ヒュンダイi30 N TCR/エングストラー・ヒュンダイN・リキモリ・レーシングチーム)が優勝し、ドラマ満載の3ヒートすべてでシリーズ初優勝者が誕生した。

 9月下旬の第2戦ニュルブルクリンクでは、共通ECUの採用免除措置にまつわる抗議でヒュンダイ・モータースポーツが参戦を見合わせるなど波乱の展開となったWTCRだが、この第3戦スロバキアに向けては4台のヒュンダイi30 N TCRが揃ってエントリー。BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセのノルベルト・ミケリスとガブリエル・タルキーニ、エングストラー・ヒュンダイN・リキモリ・レーシングチームのルカ・エングストラーとキャツバーグがプラクティスから精力的に周回を重ねた。

 しかし、ECU問題に端を発するBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)の課題は依然として戦況を支配しており、この週末もコンペンセイション・ウエイトを搭載する代わりに、共通のC-ECU(スタンダードECU/マニエッティ・マレリ製SRG141)採用の免除が認められているアウディRS3 LMSやアルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCRらが速さを見せる展開に。

 予選ではそのアウディのステアリングを握るベルトンが、アッティラ・タッシ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)がクラッシュを喫して赤旗中断となったQ2のみ「コンサバティブにいきすぎた」としてキャツバーグに最速を譲ったものの、予選Q1とQ3シュートアウトではトップタイムをマークし、開幕戦に続きふたつのポールポジションを手にした。

 夜間の降雨でダンプコンディションとなったレース1は、グリッドについた大半のマシンがフロントにスリック、リヤにウエットというFFツーリングカー特有のタイヤ選択でスタート。すると、ポールシッターのベルトンに対し、フロントロウ2番手に並んでいたキャツバーグが食い下がり、ターン1からふたつのコーナーをサイド・バイ・サイドでクリアするとターン3で首位浮上に成功する。

 今回もエンジンの性能調整は97.5%と前回から不変ながら、4000~7000回転の間で回転数に応じたブースト圧と燃料のラムダで特例措置を受けたヒュンダイi30 N TCRは、ピックアップの向上で中間加速が改善し、アウディの前へと躍り出る。

 しかしここからドライ路面に好転したレコードライン上で、リヤタイヤの摩耗に苦しんだキャツバーグがみるみるポジションを下げると、ベルトンが早々にリードを奪い返し後続に3秒差をつける悠々のクルージングでWTCR初優勝を獲得。

 2位にはタイヤマネジメントで巧者ぶりを発揮した初代WTCR王者タルキーニが入り、3位にも2017年TCRインターナショナル王者のジャン-カール・ベルネイ(アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR/チーム・ミュルサンヌ)が続くポディウムとなった。

開幕戦に続くポールポジション獲得からレース1を制したナサニエル・ベルトン(アウディRS3 LMS/Comtoyou DHL Team Audi Sport)
「スタートでは左右で濡れ具合が違ってかなりトリッキーだった。フェアなバトルができたニッキーにも感謝したい」と語った勝者ベルトン
レース1では僚友同士の勝負で遺恨を残したエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COM Münnich Motorsport)。レース2では首位を快走するも……
急きょ、ルノー・メガーヌR.S.TCRのステアリングを握ったオーレリアン・コンテ(Vuković Motorsport)は、3ヒートすべてでポイント獲得の安定感を見せた

■レース2では7番手スタートから浮上したコロネルがトップチェッカー

 その背後で熾烈なチームメイトバトルを演じたのは、FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCRのALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツ勢、エステバン・グエリエリとネストール・ジロラミで、2台は何度もコンタクトを繰り返しながら4番手争いを繰り広げると、最終的にポイントスタンディングで上位のジロラミが5番手に下がる決着に。この勝負に対し「馬鹿げているし、本当にフラストレーションが溜まる」と、不要なリスクを犯したチームメイトの態度に不満を表していたジロラミに、続くレース2でアクシデントが襲う。

 11ラップの最終周でアルファロメオのベルネイと4番手争いを繰り広げていたジロラミは、ターン2でシビックのリヤをヒットされ100km/h以上の速度でバリアにクラッシュ。29号車のシビックはボディ左サイドを大破し、バリアも大きく損傷するなどダメージが大きく、ジロラミもメディカルからそのまま地元の病院へ直行の判断が下される。

 このアクシデントを前に優勝争いにも動きがあり、オープニングで5番手発進から首位に浮上していたグエリエリが、残り3周の時点でスロバキア名物高速右コーナーでワイドランを喫し後退。同じく1周目で7番手から2番手に進出していたコロネルが代わってトップチェッカーを受け、WTCC世界ツーリングカー選手権時代に挙げた2016年以来となる世界戦優勝を達成。2位にも初表彰台のジル・マグナス(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・レーシング)が続き、3位に失意のグエリエリが入る表彰台となった。

 そして最終のレース3はポールシッターのベルトンがオープニングのトラクション競争に敗れ、代わってミケリスが主導権を握ったかに見えたが、ここでもアクシデントの引き金となったのがベルネイ。アルファロメオが現役王者のヒュンダイにヒットし、これでミケリスは14番手にまで後退すると、代わって首位に立ったのがキャツバーグだった。彼はそのままベルネイと、初戦を制したベルトンを従えて勝利を飾り、自身WTCR初優勝を獲得している。

 しかし、2位に入ったベルネイにはレース後にペナルティ裁定が下り、レース2でのイバン・ミューラー(Lynk&Co 03 TCR/シアン・レーシングLynk&Co)との接触で10秒加算と2点が剥奪され、4位から14位に降格。レース3ではオープニングのミケリスとのアクシデントで5秒加算と1点のペナルティで2位から4位へ下がることに。

 これでレース3の最終リザルトは2位にベルトン、3位にマグナスのアウディ勢が並ぶ結果となっている。続く2020年WTCRシーズン第3戦は、10月16~18日にハンガリーのハンガロリンクを舞台に争われる。

BoPの恩恵もあり速いマシンを得たジャン-カール・ベルネイ(アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR/Team Mulsanne)だが、この週末はトラブルメーカーに
レース3のスタートで主導権を握ったかに見えたノルベルト・ミケリス(ヒュンダイi30 N TCR/BRC Hyundai N LUKOIL Squadra Corse)だったが、まさかのアクシデントに沈む
ミケリスの僚友ガブリエル・タルキーニ(ヒュンダイi30 N TCR/BRC Hyundai N LUKOIL Squadra Corse)も、レース3は1コーナーで姿を消す
今季のヒュンダイ勢で最も“乗れている”ニッキー・キャツバーグ(ヒュンダイi30 N TCR/Engstler Hyundai N Liqui Moly Racing Team)が気を吐き、レース3で初優勝を達成した

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