『薬の神じゃない!』実際の事件を基にして中国で大ヒット

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 2014年に中国で実際に起きたニセ薬事件「陸勇事件」が基になっている。これは、国内で認可されていない慢性骨髄性白血病の安価なジェネリック薬をインドから密輸入して逮捕された男が、市民デモによって釈放された事件で、本作の中国での破格の大ヒットと相まって、中国医薬業界の改革へとつながった。

 上海でインドの男性向け強壮剤を販売する店主が、高価な薬が買えない白血病患者に頼まれてジェネリック薬の密輸に手を染め、患者たちと販売ネットワークを結成する。最初は金目当てに始めたことだったが…。日本でも話題となった韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』がまさにそうだったように、善良には程遠いが悪人とも言えない市井の男が、仲間と出会って改心し、社会のために尽くそうとする話は、アジアでは今、観客を感動させるトレンドなのかもしれない。

 とはいえ、どんな常套手段も、演出が伴わなければ効き目がない。その点で、これが長編デビューとなる新人監督の手腕には及第点を付けられる。演出の良し悪しが「情報をいかに操るか」で決まるとすれば、主人公を改心へと導くエピソードの緊張感も、護送される際の泣かせぶりも、脚本の力以上に情報操作の賜物であり、演出の力と言っていい。医療用マスクで、これほど感動させられるとは! すっかり術中にハマって、久々に涙腺が決壊してしまった。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:ウェン・ムーイエ

出演:シュー・ジェン、ワン・チュエンジュン、ジョウ・イーウェイ

10月16日(金)から全国順次公開

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