石原慶幸、五十嵐亮太…「谷間の世代」と呼ばれても、同世代に誇りが持てるワケ

ヤクルト・五十嵐亮太(左)と広島・石原慶幸【写真:荒川祐史】

元阪神、楽天、巨人の中谷仁氏は母校・智弁和歌山監督に

広島の石原慶幸捕手、ヤクルトの五十嵐亮太投手の引退が明らかになり、私が思い浮かべたのは同僚の石川雅規投手、阪神・能見篤史投手、ロッテ・細川亨捕手といった1979年4月2日から80年4月1日に生まれた選手たちの顔だった。また一人、同学年の選手がNPBで現役引退。寂しくもあるが、感謝もある。そして誇らしさもある。

この代は「谷間の世代」と呼ばれることが多くあった。一学年上には阿部慎之助(現巨人2軍監督)、ヤクルトやレイズなどで活躍した岩村明憲。一学年下は「松坂世代」で眩い光を放っていた。小野伸二、稲本潤一、高原直泰、遠藤保仁、中田浩二ら他競技に目を向けても世界と戦う選手が多かった。

でも、自分の口から「谷間の世代」と言ったことはなかった。阪神で20勝を挙げ、メジャーに挑戦した井川慶投手、日米でも活躍した五十嵐、歯を食いしばって、世代を引っ張る左腕・石川…彼らの活躍、苦しみを見ていれば、誇りを持てた。松坂世代に比べれば、プロ入りや活躍した選手は少なかったかもしれない。でも、しぶとく、存在感を持ってプレーしている選手が多かった。気がつけば、現役は松坂世代(松坂・和田・久保裕也)と同じ3人となっていた(10月12日現在)。

同世代を応援する気持ちは皆、持っているだろう。同じ時流の中で、喜び、もがいた。流行った曲を聞けば、当時を懐かしみ、思いにふける。話も弾む。どこの社会も同じ。“同級生”の頑張りは今でも刺激。取材現場に出た時、同い年に声をかけるケースは多くあった。いつも彼らは眩しく見えた。それは今も変わらない。

高校時代、世代ナンバー1に輝いたのは智弁和歌山だった。1997年夏の甲子園で選手権初優勝。主将だった中谷仁捕手は阪神に入団。楽天、巨人を経て、現役を引退。野球塾やタイガースジュニアを指導するなど学んだ時間を経て、母校に帰った。若き監督として、強打の智弁和歌山を復活させた。

現役時代、中谷はシーズンを通じて、レギュラーになったことはない。でも、その明るさと分析力はチームから必要とされた。主力選手は悩んだ時、ベンチにいた中谷に相談しに行った。試合に出れば、レギュラー捕手とは違うリードで目先を変え、投手を引っ張った。若手投手のヒーローインタビューで「今日は(中谷)仁さんのおかげです」とロッカーで聴くことが何よりも喜びだった。楽天時代の2009年には野村克也監督からポストシーズンで起用され、岩隈久志投手(巨人)や田中将大投手(ヤンキース)を好リード。2012年の巨人移籍後はなかなか1軍出場はなかったものの、その経験と視野の広さを巨人・原監督に認められ、2013年はWBC日本代表、侍ジャパンのブルペン捕手として帯同。投手をバックアップしていた。そんな中谷が誇りだった。

智弁和歌山と決勝を戦った平安・川口は女子野球指導者に

甲子園決勝の相手は平安(京都)だった。エース左腕・川口知哉投手の強気なマウンドも魅力的だった。当時はメディアのインタビューで「ビッグマウス」と騒がれたが、後に真相を聞くと“誘導”された質問であったことも教えてもらった。オリックスにドラフト1位で入団後はケガやイップスなどに悩まされ、2004年で現役を引退。一時は野球から離れたが、少年野球の指導から、教える楽しさを覚え、現在は女子プロ野球の指導者を務めている。

ひとまわり以上も年下の女子選手たちは、川口の凄さなんてもちろん知らない。知らないから、4球団競合になった話題がドラフトの時期に出ると、驚いたような目で選手から見られることもある。選手は彼から教えを請う。川口自身、現役時代に多くのコーチから自分に合うものも、合わないものも教えられた。時にはそれがストレスになったが、今となっては、全ての経験が糧となり、指導の引き出しが増えている。指導者として、また野球と向き合っている姿をグラウンドで見た時、なんとも言えない嬉しさがこみ上げ、また誇りに思えた。

1997年当時、甲子園では一学年下の代に怪物たちが多くプレーしていたのも知っていた。古木克明(豊田大谷→横浜)、藤川球児(高知商→阪神)…だが、3年生も素晴らしい選手がいた。名前を挙げ出したらキリがない。その他にもNPBでコーチやスカウトで残っている選手たち、少年野球で子供を教えているOBもいる。高校野球の監督も増えてきた。「昭和54年会」を少人数で作っているグループもあるが、今、不惑を迎えたことを機に集まろうという声も上がっている。

世代としてのNPBの活躍は華々しいものではなかったかもしれない。ただ、彼ら一人一人の活躍が嬉しかった。近年では活躍した選手の裏、“功労者”として名前を聞けただけでも、新しい野球の楽しみ、深みを見つけられた気がした。

現役を引退しても、野球界のために尽力している同世代がいる。石原や五十嵐もこれから後進育成のステージに入っていくだろう。しぶとく、そして背中で見せる選手を育てていってもらいたい。育てる難しさ、喜びの声を今度は聞き、伝え手として届けていきたい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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