スマホ持ち込みOKも!増える中学入試回数、背景ある熾烈な序列争いとは

中学受験に関する数字を森上教育研究所の高橋真実さん(タカさん)と森上展安さん(モリさん)に解説いただく本連載。

1月解禁の埼玉県私立中学入試まであと3か月となりました。最近、私立中学の入試回数は増加傾向にあり、第一志望校を3回受験したという受験生の話も聞かれるようになっています。そこで、今回取り上げる数字は、首都圏一都三県私立中学校の平均入試回数です。

男女御三家のように、入試は1回のみという学校はもはやごくごく少数派。ここ数年で、1回のみだった伝統校でも複数回入試に踏み切るところが続いています。一校あたりの平均入試回数が最も多いのは埼玉県で5.6回、続いて東京5.3回、神奈川4.3回。最も少ない千葉県でも4.2回となっています(2020年首都圏私立入試 森上教育研究所まとめ)。

今回の中学受験に関する数字…5回


入試回数が増える理由

<タカの目>(高橋真美)

入試回数が増える背景にはいくつかの理由があります。

一つは入試の多様化です。以前このコーナーでも取り上げたように、適性検査型入試や思考力入試、英語入試が広まっており、学校によっては、すべてのタイプの入試を行っているところもあります。都内の中学が先んじて取り組んできた算数一科入試も定着してきたことも多様化の1つです。

もう一つは、午後入試の広がりです。これは東京で顕著です。入試回数を増やして受験生増に結び付けたい学校の思惑と、一日でも早く決着させたい受験生・保護者の思いが一致し、年々増えています。

午後入試を行う学校の中には、受験生の移動時間も考慮し、開始時間に間に合わなかった場合はさらに夕方の回を設けて、受験可能とするところもあります。また、午後入試受験を喚起するため、併願が予想される学校からの移動時間を紹介する学校もあります。

受験パターンが複雑化

受験生からすると、こうした入試回数の増加は、チャンスが増えるというプラスの面があると同時に、受験パターンを決めるのが悩ましくなるという面もあります。

一人の受験生の平均出願は7回と言われています。2月1日に入試が解禁になる東京、神奈川では、1日から5日ごろまでの間にほとんどの入試が行われます。この間に、どのようなパターンで受験日時を組み込むか、判断はなかなか難しく、こうなるとやはり塾の先生のお知恵を拝借するほかはありません。

学校にしても、複数回の入試はすべて別の問題とするわけですから、作問の負荷も大変なものです。プレゼンテーション入試では、評価者によって評価にぶれがないよう、評価基準を詳細に設定する必要があり、これはこれで困難な作業です。

受験生、学校双方にとって熾烈な戦いとなる入試。これからどうなっていくのでしょうか。

受験生の本音と学校の思惑

<モリの目>(森上展安)

タカさんが取り上げた今回の数字は、学校が実施する入試の回数ですね。平均すると、入試回数は5回になるという訳です。

受験生からすると、最初の1,2回は未だ1校も合格をいただいていない受験になり、後半の2,3回は1,2校の合格をいただいてからの受験になります。従って、後半の入試では実施の受験者実数と応募時の応募者数とかなり違いが出る学校が一般的です。

つまり入試する側からすると、前半の入試で決着をつけたいのが本音です。なぜなら第一志望者による入試が行われているからです。後半は、前半で第一志望合格が叶わなかった受験生による入試になります。こちらは受験生にとってはより上位校受験の落武者の受け皿としての機能となり、学校にとっても優秀な生徒を獲得するチャンスです。

学校が伸びようとする時は後半戦の入試を増やして、こうした生徒を獲得しようと動きます。近年では、5日に入試を設けた大妻などが端的な例です。

あえて入試日程を減らす学校

対して、来年の入試では吉祥女子がこれまでの3回の入試から2回にします。同校の3回目の入試日は4日でしたから、吉祥が入試をしなくなった分、大妻には上位校受験生の落武者がより多く集まることになるでしょう。

2016年入試からは、鷗友学園女子が2日の入試をなくし1,3日だけにしました。吉祥女子の動きも全く同じで、要は前半入試だけにして第一志望者(もしくは第一志望に近い第1.5志望者も含むと言うべきか)の受験にしたいということです。数年前には、本郷が2月1日に入試を新設していますし、これらはいずれも第一志望者にシフトする動きでした。

申し上げるまでもなく、学校にとっては第一志望者が受験生の全てを占めることが理想ですが、それはいわばトップクラスの学校でなければ実現できないことです。なぜなら、入試の世界は偏差値が幅を利かせており序列が明確だからです。

トップクラスに近づくに従って入試日は前半になり、回数は限りなく1回に近づいていくことになります。逆も真なりで、中位校序列から抜け出すためには、それなりに回数を多くして受験機会を作り、上位校の落武者を拾い、しっかり教育して上位校に負けない成果を上げることが前提になります。

午後算数一科入試の戦略

品川女子を嚆矢(こうし)として、女子校が午後算数一科入試を競って導入したのはそうした努力の一つです。午後算数一科入試は、上位校の受け皿として見事にニーズに応えたので、今ではかなりの数の学校が導入しているのは周知の通りです。

ただ、その多くは2月1、2日の前半戦に設定されています、第一志望ゾーンであり、実情は第二志望ならぬ第1.5志望辺りの位置付けになるかもしれません。

午後入試は二つのタイプがあり、都市大付に代表されるような低倍率もあれば、巣鴨、世田谷に代表されるような高倍率もあります。ですから低倍率タイプは第二志望に近く、高倍率タイプは第1.5志望に近いとも言えます。

来年増えそうな入試形式は

来年は特に増えそうなのが、こうした序列による選抜ではなく、適性による検査という考え方の入試です。それらは面談を基調にしたものですが、いわばニーズのマッチングで合否が決まります。大学入試で言えばAO入試をイメージしていただくとよいでしょう。

最も分かりやすいのは女子美大付で、同校は受験生に求める第一の資質を、絵を描くことや工芸制作が好きであることとしています。もちろん、一般入試の学力試験で合否が決まりますが、それほど難しい試験ではありません。

同校では、美術・工芸系の授業が他校より多く設けられているので、好きでなければ続かないでしょう。そこを「好き」とは言っても「上手」とは言わないところが中等教育の入試ならではだと思います。小学生は「好きこそものの上手なれ」ですね。

スマホ持ち込みOKの試験も

公立一貫校の適性検査型入試を行う宝仙理数インターなども、その代表格でしょう。今春岩波ジュニア新書から『できちゃいました!フツーの学校』というタイトルで出版されましたが、同校の富士校長ら教師陣が教育内容を公開しています。

最近では、何と言っても東京女子学園が始めたスマホ持込OK入試ですね。知識・技能の部分はスマホで調べてよいから、いかに活用するか、その意欲のある子を採りたいということです。

これらの学校も複数回入試実施校ですが、まさに第一志望生の多い入試と言えましょう。今後は知識技能で選ぶための複数回入試と、適性で選ぶための複数回入試が併存していくことになるというのがモリの目の見立てです。

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