実在のニセ薬密輸事件を映画化『薬の神じゃない!』 爆発的大ヒットの笑いと気骨あふれる快作

『薬の神じゃない!』© 2020 Cine-C. and United Smiles Co., Ltd. All Rights Reserved

実際の事件を映画化した大ヒット作!

『薬の神じゃない!』という邦題は、中国語の原題『我不是药神』を直訳したものだ。内容の予測がつかず戸惑う人もいるかも知れないが、2014年に中国で起こった、ガン治療用ジェネリック医薬品をめぐる事件をもとに、コメディ要素をまぶしながら映画化した作品である。

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製作費は7500万元(約11億円)だったそうだが、興行収入は何と約31億元(約465億円)に達し、2018年の中国国内興行収入第3位に輝く結果となった。2018年秋に日本で開かれた東京・中国映画週間では、『ニセ薬じゃない!』のタイトルで上映されたのだが、このたびの公開に際して原題の直訳に戻された、というわけである。

実際の事件の本質としては「ニセ薬じゃない!」の方が近いかも知れないものの、「薬の神じゃない!」も本作のキーワード。笑いに乗せて中国の医療や医薬法の問題点を次々と明らかにしていくという、非常に気骨のあるエンタメ作品となっている。

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中国とインドがタッグを組む?

まず驚かされるのが、本作のオープニング・タイトルに鳴り響くボリウッド映画ソングだ。一瞬インド映画かと思ってしまうが、舞台は2002年の中国・上海で、下町の安ホテルというか連れ込み旅館の隣にある、小さな商店が舞台となる。その店の看板には「王子印度神油店」とあり、「インド神油」の名を冠したバイアグラもどきの商品を扱っているらしいのだが、店はさびれ、商品もほこりをかぶったまま。このショボい店の店主、程勇(チョン・ヨン)が本作の主人公である。

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このチョン、店と同じく人生もさびれっぱなし。妻には離婚され、かわいい一人息子を連れて出て行かれた上に、妻が再婚したので息子とは週一でしか会えない。老父は寝たきりで、達者なのは食欲と口だけ。商売が思わしくないため店の家賃も払えず、大家からは追い立てをくいそうになっている。さらに妻は、再婚相手と一緒に海外移住を考えていて、息子も連れて行くと言う。弁護士を挟んでの話し合いで妻に暴力を振るったら警官に引っ立てられ、警察署では妻の弟の曹(ツァオ)刑事に、「姉に手を出すな!」とキレられる。いいことは一つもない。

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そんなある日、隣の旅館のオヤジがマスクをした男を連れてやってきた。その男、呂(リュ)は病人で、インドから骨髄性白血病の治療薬を買えないか、と相談に来たという。リュは「中国で正規の薬を買うと3万7000元(約55万円)、インド製は2000元(3万円)で薬効は同じなんだ。元気なら自分で買いに行きたいぐらいだ」と言い、3万元の謝礼を提示する。チョンは謝礼前払いを承諾させてインドに飛び、この薬を作っている小さな製薬会社に赴いた。

驚いたことにインド人の社長は、「2000元は売値で、卸値は500元だ」と言うではないか。しかし、代理店でないと卸値では売れないと言う。「中国に代理店はないよ。中国では使用禁止の薬だから、買っていっても販売できないからね」という社長を説き伏せ、今回の取引は100瓶だけだが、それが1ヶ月以内に売れたら代理店と認める、という確約を取り付けて、チョンは帰国する。

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薬を見て喜ぶリュに「一緒に売りさばこう」と言うと、最初は「売ると違法になるから」と渋っていたものの最後には承諾、2人は販売戦略を立てることに。幼い娘が白血病患者で、白血病関連のネット掲示板で支持の厚い女性、思慧(スーフェイ)に加わってもらったことで、手を出そうとしなかった患者たちも次々と買いに来はじめる。やがて英語ができる劉(リウ)牧師に、インドとの交渉を電話でやってもらうようになるが、牧師も信者の患者たちを憂えていたため、代理店昇格に力を貸してくれる。やはり患者で、茶パツゆえに「黄毛」と呼ばれる若者も加わり、儲けがどんどん膨らんでいくが、スイス製の正規薬を販売している製薬会社が圧力を掛け、警察も捜査に乗り出してきて……。

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個性的な主役&脇役たち

主役のチョンを演じるのは、コメディアンとしてだけでなく、俳優としても評価が高い徐崢(シュー・ジェン)。監督やプロデユーサーとしても多くの作品を生み出している、中国映画界の人気者だ。本作も、『クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~』(2006年)等の監督・寧浩(ニン・ハオ)との共同プロデュース作品となっているが、プロデューサー業の傍ら演技も全開で、ムロ・ツヨシにますます似てきたボサボサ頭の顔で大活躍。第55回台湾金馬奨主演男優賞を獲得したほか、多くの映画賞にノミネートされた。

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また、患者リュ役の王伝君(ワン・チュエンジュン)も、第14回長春映画祭で助演男優賞を、中国監督協会の賞ではその年度の男優賞を受賞している。彼の演技では、特に後半の病み疲れた様子が鬼気迫っており、正視に耐えないほどだ。

最初の登場時にはマスクを3枚重ねで付けていて驚かされるが、ガン患者は種々の感染を恐れるため、登場する患者役はほぼ全員マスクを付けており、現在の状況下で見ると身につまされる。そのマスクが大きな効果を発揮するシーンもあって、脚本のうまさにうならされた。

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もう1人、忘れられない印象を残すのが、「黄毛」役の章宇(チャン・ユー)だ。1982年生まれとは思えない茶パツの少年顔で、『象は静かに座っている』(2018年)での口ひげのあるユー・チェン役とは別人のよう。彼もまた、本作で印象に残る演技を見せており、複数の賞の助演男優賞にノミネートされた。このチャン・ユーを見るためだけでも、本作は一見の価値があるが、脇役は全員、非常に達者である。監督の文牧野(ウェン・ムーイエ)はこれが長編第1作で、新人監督賞を軒並み受賞しており、将来が楽しみな成長株だ。

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インド人、ウソつかない?

その達者な演技者のうちに、インド人俳優も含まれる。チョンが薬を買いに行ったのはどうやらムンバイらしいのだが、ボリウッド映画界ではほとんど無名の脇役俳優ながら、製薬会社の社長役など、実にいい演技を見せている。誠実にチョンに対応し、男気を見せる社長の姿は、これがだましのテクニックに長けたインド人? とつい思ってしまうほど。まあ、インドのパートには少々いいかげんな描写もあるのだが、インド人が好意的に描かれていて、インド好きとしてはホッとする。

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インドは1991年から経済政策を転換し、この30年間に見事な経済発展を遂げたが、その3本柱となったのが、IT産業と自動車産業、そして製薬などのバイオ産業だ。製薬の主力はジェネリック医薬品で、先進国のアメリカやヨーロッパ諸国への輸出も多いが、アジア・アフリカ諸国にとっては安価で手に入る、貴重な医薬品を提供する存在となっている。

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しかしながらインドと中国は、1962年の中印国境紛争が今も尾を引き、今年に入ってもラダック周辺での両国の武力衝突が続いている。また、東南アジアや南アジアにおける覇権をめぐっても牽制し合っている両国なので、本作でのインド人の公正な描写には感服してしまった。実際の事件におけるインド人たちが、そうだったのかもしれない。

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映画の元になった事件は「陸勇事件」といい、この事件と映画の公開をきっかけに、中国の医薬業界に変化が起きたという。そんな力を十分に感じることができる『薬の神じゃない!』は、現在の状況下でともすれば沈みがちになる心も癒やしてくれる、いま見るべき映画の筆頭と言えるだろう。

文:松岡環

『薬の神じゃない!』は2020年10月16日(金)より公開

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