【コラム・天風録】「私なら辞職」非難の矛先がブーメランに(2019年11月10日掲載)

 広島県議会の語り草に「男らしく」発言というのがある。2006年3月の予算特別委員会。その時のやりとりが議事録に見える。質問に立った1年生県議が「知事、男らしくなさいよ」と勝ち気に責め立てている▲当時、4期目の知事は政治資金パーティーの収入を少なく申告したかどで後援会の幹部が逮捕されていた。「公判中なので…」と濁す答弁に食い下がった末の発言だった。「私なら辞職をしています」と駄目押しまで▲そんな武勇伝を持つ元県議、自民党の河井案里参院議員の身辺が公選法に絡む疑惑の数々できな臭い。非難の矛先がブーメランとなって返ってきたようだ。攻守所を変えた途端、雲隠れの術とはあれれ、見苦しいではありませんか▲とはいえ党の総裁に仰ぐ安倍晋三首相にして頬かむりの術である。河井議員の夫である法相など、辞職に追い込まれた閣僚2人の任命責任は、痛感するだけらしい。責任を取るという頭が、もはやないのかもしれない▲「男らしく」に「女らしく」。鋳型にはめ込むような、そうした押し付けは偏見や嫌がらせのもとになりかねない。ただ、「人間らしく」と諭せる人が政界にいるかどうかは別の問題である。

© 株式会社中国新聞社