メダル獲得へ、エリートアカデミーで強化 ノルディックスキー複合、白馬に今夏“試験開校”

 育て、未来のメダリスト―。全日本スキー連盟(SAJ)は今夏、ノルディック複合の若手を寄宿制で鍛える「エリートアカデミー」を長野県白馬村に“試験開校”した。日本は冬季五輪で2大会連続銀メダル獲得中の渡部暁斗(北野建設)に続く選手の育成が課題。2018年平昌五輪で全3種目の金メダルを独占したドイツやオーストリアなどの強豪国ではアカデミー出身の選手が活躍している。一方、日本には有望株を集めて重点強化するシステムがない。ドイツに留学経験のある日本代表の河野孝典ヘッドコーチ(HC)は「何年かに1人発生する天才を待つのではなく、確率を上げる必要がある」とアカデミー設立の狙いを説明した。(共同通信=益吉数正)

 今回は昨季のワールドカップ(W杯)にも出場した男子の木村幸大(中大)や、女子で今年1月の冬季ユース五輪で2位に食い込んだ宮崎彩音(長野・飯山高)ら大学生と高校生の有望選手6人を選抜。地元の行政や企業の協力を得て旧民宿を寮として使用し、8月に約4週間、ジャンプやローラースキーの練習に励んだ。

試験的に“開校”されたノルディックスキー複合のエリートアカデミーで、河野孝典ヘッドコーチ(右)と話す木村幸大=8月、長野県白馬村(河野コーチ提供)

 大きなテーマは勉強と競技の両立。トップ選手になると取材を受ける機会が増えることを見据え「メディアトレーニング」として国際スキー連盟の広報担当者から英語でオンライン取材を受けたり、外国人スタッフと英会話を練習したり。栄養学や呼吸法の勉強会も実施した。

 参加選手には好評だった。日本代表の夏の合宿は従来1週間程度だったため、木村は「(技術を)ものにするのが難しかった。今回は4週間の中で段階を踏んで、自分の現状をどのように改善していくかを学んで実践できる。いつもより考えることができて、成長につながっていると感じる」と話した。

ノルウェーのリレハンメルで開かれた冬季五輪のノルディック複合団体で優勝し、金メダルを見せる(左から)河野孝典、阿部雅司、荻原健司の各選手=1994年2月24日(ロイター)

 アカデミー構想の背景には強い危機感がある。五輪で複合の日本勢は1992年アルベールビル大会、94年リレハンメル大会の団体で金メダルを獲得。個人ではリレハンメル大会で河野HCが銀を取った。しかし、その後は2014年ソチ大会で渡部暁が個人ノーマルヒルで2位に入るまで4大会も表彰台から遠ざかった。SAJによると、2018~19年シーズンの競技者登録数はアルペンが5843人なのに対し、複合はわずか250人。テレビ放送などの露出機会もアルペンやジャンプと比べて少ない。

ソチ冬季五輪のノルディックスキー複合個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得し、花束を手に笑顔の渡部暁斗=2014年2月、ソチ(共同)

 複合の存在感や強化態勢を維持するには、五輪や世界選手権などの大舞台でメダルを取り続ける必要がある。そのための方策の一つが、限られた人材を効率よく強化できる可能性があるアカデミーだ。河野HCは「強豪国に追い付くために、これでいいのかというのが出発点。今までのやり方では限界が来ている」と強調する。

 現状では、有望な高校生は首都圏の大学に進む例が多い。ジャンプ台や距離のコースを持ち、競技環境が整った白馬村を拠点として長期的な視点で強化できれば、格段に効果が高まることが期待される。今回のプログラムに一部参加した渡部暁も「(アカデミーが)あったらいいなと思っていた。強化の効率がいい。結果を出すためには合理的で、底上げにつながると思う」と話す。

長野県白馬村の白馬ジャンプ競技場=2016年11月撮影

 冬季競技ではスピードスケートも来年4月から北海道帯広市を拠点に、高校生を対象にしたアカデミーを始める計画だ。河野HCはスピードスケートの担当者やドイツのアカデミー関係者とも意見交換を行い、将来的なアカデミーのあり方の構想を練っている。

 今夏は期間限定の実験的取り組みだったが、SAJは恒常的な設置を目指している。皆川賢太郎競技本部長は「今は若年層から育てないと世界で戦うのは難しい。他の種目でもやっていきたい」と話し、アルペンやスノーボードでもアカデミーをつくる意向だ。札幌市が冬季五輪招致を目指している2030年に向け、計画的な強化が必要と考えており「エリートがステップアップするための仕組み」として、北京冬季五輪後に始めることを目指す。

 SAJはまず今回のようなトライアルを重ねていく方針。拠点を置く自治体や学校との連携が大きなポイントになり、財源や指導者の配置など、課題もたくさんある。それでも、今回参加した木村は「競技以外のことも学べるのは、合宿と違って大きい部分。競技環境は白馬の方がいい。こちらで学業と両立させることもできると思うので(アカデミーが)実現できれば、とてもうれしい」と期待した。

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