台風19号から1年 濁流にのまれた相模原のキャンプ場 犠牲者の遺志継ぐ長女

川に向かって手を合わせる高崎幸江さん(中央)ら=相模原市緑区

 昨年10月の台風19号で川が氾濫し、濁流にのまれた相模原市緑区青根の神之川キャンプ場が再興の歩みを進めている。犠牲になった経営者関戸基法(もとのり)さん=当時(82)=の遺志を継ぐのは長女の高崎幸江さん(60)。悲劇を繰り返さないとの決意の下、常連客らに支えられながら、半世紀近い歴史を刻むキャンプ場の切り盛りに奮闘している。

 「お父さんがいないのは寂しいけれど、前向きにやっていきます」-。台風19号上陸から1年となった12日、高崎さんは家族らとともに、父が愛したキャンプ場内を流れる神之川に向かって手を合わせ、そう誓った。

 キャンプ場内の管理棟で寝起きしていた関戸さんと連絡がつかなくなったのは昨年10月12日の夜。台風接近で「危ないから外に出ないで」との家族の電話に「分かっている」と答えたのが最後になった。捜索が続いたが、15日に下流の河原で遺体が発見された。重機を移動しようとして、濁流にのまれたとみられる。

 1974年にオープンし、関戸さんが手塩にかけたキャンプ場の姿は一変していた。炊事場やテントの設置スペースの一部が流され、管理棟には泥水が流れ込んでいた。

 そんな惨状を前にしても高崎さんの決意は揺るがなかった。「父が大切にしてきた場所は私が守る」。2人の弟や長男らと協力し、ことし3月に営業再開にこぎ着けた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、一時営業自粛を強いられるなど紆余(うよ)曲折があった。「目の前の仕事をするだけで、あっという間だった」。この1年を振り返る言葉に実感がこもる。

 二度と父のような悲劇を起こさないことが使命だ。「増水で危ないかもしれませんよ」-。台風や大雨が予想される日には、すべての予約客に電話で連絡するようにし、キャンプ客の安全を最優先に、来場を取りやめるよう促すこともある。営業面ではマイナスだが、「私と同じような悲しい思いをしてほしくない」と高崎さん。

 にぎわいを取り戻した夏場には、在りし日の関戸さんを慕い、多くの常連客が献花に訪れた。関戸さんの好物の貝を持参する人も。高崎さんは「私一人では何もできなかった。父のおかげで多くの人に支えてもらえた」と感謝し、「父には天国から見守っていてほしいけれど、いつまでも心配をかけてはいられない。私が頑張らないと」。秋が深まる仕事場で決意を新たにした。

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