球界に一石を投じる画期的な取り組み ポニーリーグが導入した子供を守る新ルール

USAバットが導入された「第44回 全日本選手権ポニーブロンコ大会」【写真:細野能功】

全国大会で「SUPER PONY ACTION 2020」を完全適用、その目的は…

アンダー世代の野球が、時代を映す鏡になり始めた。日本ポニーベースボール協会(ポニーリーグ)が主催する中学1年生以下の全国大会「第44回 全日本選手権ポニーブロンコ大会」が11日、東京・清瀬市で開催された。この大会では、昨年ポニーリーグが発表した画期的な取り組み「SUPER PONY ACTION 2020」が完全適用され、投球数にリミットを設定、変化球禁止、国際標準バット(USAバット)の導入、怒声罵声に対するイエローカードの掲出など、球界に一石を投じるルールに基づき、実施された。

当初は千葉・成田市で開催が予定されていたが、台風14号の影響により開会式は中止。試合は1試合のみ、会場を清瀬市内のグラウンドに移して開催された。仙台ポニーと清瀬武蔵野ポニーズによる一戦は、仙台が1-0の接戦を制して勝利。就任したての仙台・斎藤勇希監督が感激の涙を見せる場面もあった。

この大会で使用されたUSAバットは、従来の金属バットに比べて反発係数が低く、バットの性能に助けられて打球が遠くまで飛ぶことはない。木製バットと同じように、バットの芯でボールを捉えないと飛距離が出ないため、打撃技術のアップが見込まれる。仙台の斎藤監督はUSAバットについて「インパクトが全然違いました。(使いこなすのは)難しい部分もあると思いましたが、力のあるチームを相手に接戦に持ち込める。いい取り組みだと思います」と語る。

昨年発表された「SUPER PONY ACTION 2020」は、子どもたちを故障から守り、将来大きく羽ばたけるようにサポートすることを目的とする。具体的には、1日の投球数リミットを60球と設定、1日での投手・捕手の兼任を禁止、変化球の使用を禁止、USAバットの使用義務づけなどが定められている。日本高等学校野球連盟では昨年、2020年の全国大会から1週間で500球以内という球数制限を導入する方針を決めたが、まだ体が成長期にあり、より骨や筋肉が未熟な子どもたちが対象となるポニーリーグでは、もう一歩踏み込んだルール制定に踏み切った。

その背景には、ポニーリーグという団体が持つカラーもある。ポニーリーグの歴史は古く、1951年に米国で結成され、日本では1975年に協会を創立。世界では40か国以上に普及し、「Protect Our Nations Youth(国の宝である青少年の成長を守る)」という理念の下に活動している。日本では「球数制限」という言葉が持つマイナスイメージを払拭するため、積極的に投手の障害予防を図りつつ、多くの選手の中から投手としての才能を見出す取り組み「PONY SUPER PITCH」という発想の転換も提案している。

具体的には「限られた球数の中で1人でも多くの打者をアウトにすること」「仲間を信じてマウンドを譲れる心を持つこと」などを推奨。「60球しか投げられない」「途中で交代させられた」というネガティブな視点ではなく、「多くの選手に投手をする楽しみを味わってもらいたい」というポジティブな視点を持つことを呼びかけている。

時代とともに変化する指導の現場 清瀬武蔵野・八景監督「僕らも相当勉強しなければいけません」

11日の試合でも、ネット裏の電光掲示版に投球数が表示されていたが、これもポニーリーグではおなじみの光景となり始めている。指導歴が長く、これまで約500人の子どもたちを次のレベルに送り出してきた清瀬武蔵野ポニーズの八景千秋監督も、こういった取り組みに賛同する1人だ。

「うちのチームでは、高校もしくはその上のレベルで、故障が原因で野球ができなくなった選手はゼロです。今年は新たに38人が入ってきましたが、その中に故障で大学野球を断念せざるを得なかったお父さんがいます。そのお父さんは『(自分の経験もある)だからポニーにした』と。チームでも10年前から、ある大学のスポーツ医学の先生に、綿密なメディカルチェックをしてもらっています」

リーグの理念を受け、所属チームの意識も高まっているようだ。

今回は、怒声や罵声のある指導や応援を行った指導者や保護者に対してイエローカードを出す試みも導入されたが、コロナ禍の影響もあり、大きな声での支持や声援が飛ぶことはなかった。

その代わり、今の時代を象徴する場面も見られた。保護者の多くは試合中にスマートフォンを手に、アプリにスコアや成績を入力。その背景には、アンダー世代の指導現場でもデータやエビデンス(根拠・裏付け)が重視されている現状がある。八景監督は「みんながネットで情報を持つ時代。僕らも相当勉強しなければいけません」と話す。活動自粛期間中は、家庭でのトレーニングメニューを渡し、チーム方針や活動予定などはオンライン会議アプリでミーティングを行い、共有したという。

「大きな声を出してしか選手を動かせないんだったら、その指導者は能力がない、と自分で言っているようなもの。選手には裏付けをとって、しっかり説明する。そういう文化になっていると思います」と八景監督。時代の変化とともに、子どもの指導の在り方やサポートの形も変化している。「俺たちの時代は……」と、なかなか過去から抜け出せない指導者に気付きをもたらし、変わるきっかけを提供する試みが、ユース世代の野球では着々と進められていた。(細野能功 / Yoshinori Hosono)

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