新型コロナ、景気低迷が続きそうな東南アジア諸国の個別事情

新型コロナウイルスについて、第2波に対する警戒感が強まっている国と、着実に回復に向かっている国との二極化が世界的に鮮明になってきました。アジアでいえば、比較的経済正常化が目立つのが、中国、台湾、タイ、ベトナムなど。一方で、悪化が目立つのは、インドネシア、フィリピン、インドなどです。

そのなかで、景気低迷が目立つ国々を中心に、現状と見通しを考えてみたいと思います。


経済、財政ともに厳しい状況の続くインドネシア

まず、インドネシアです。同国では、2019年4月にジョコ第2期政権が発足しましたが、第1期の5年間も含めて、就任以来経済不振が続いています。

もともとインドネシアは広大な国土と豊富な人口を抱える大国で、国力を維持していくためには、最低6%以上の経済成長率を保つ必要がある、と言われていました。しかし、2014年の就任以降の期間のGDP成長率の平均は約4.93%と、前政権に比べて明らかに低い水準となっています。

直近で発表されている2020年4-6月期の実質GDP成長率は、前年同期比5.32%減と、1999年以来約21年ぶりのマイナス成長となりました。

世界的に拡散した新型コロナウイルス問題や資源需要の減少に加えて、インドネシア国内で昨年末あたりから発生した過去最悪の洪水被害も、景気悪化の一因となっています。国内外で悪材料が山積みのなかで、インドネシアは当面厳しい政策運営を余儀なくされそうです。

巨額の経済対策を実行できるか

インドネシア政府は6月、貧困層救済や中小零細企業の支援などのための経済対策として、総額約695兆ルピア(約5兆700億円)の国家経済復興プログラムを策定しました。GDPの4%超の規模で、慢性的な赤字に苦しめられているインドネシアにとっては容易に実行に移せるレベルではありません。

この復興プログラムを発表するにあたって、「財政赤字をGDP比3%以下に抑える」と定めていた従来の財政規律を緩和、2022年までの期限付きながら、赤字でも財政支出を行ないやすいように規律を改正しました。

時限的措置ではありますが、中銀の独立性が損なわれる可能性がある、と懸念する声も強まってきました。また、もともとインドネシアの政府機能は非効率で、実際直近は予算通りに執行されないケースもみられます。そのため、このたび発表した復興プログラムについても、実際に実行されかどうか不確実性が大きく、今後も紆余曲折がありそうです。

海外投資を緩和

この復興プログラムと同時に、政府は景気浮揚につなげるべく、海外から投資をする際の規制を緩和する、という法案を成立させました。10月5日の国会で強行採決しましたが、この法案成立によって、労働者の雇用が損なわれるのでは、と危惧する労働者などが反対し、大規模デモにつながっています。

長期にわたる景気低迷のなかで、国民の不満がかなり蓄積されているという側面も大きいと思われます。インドネシア経済は、当面、脆弱な財政状況、政府に対する不信感、の中で、難しい政策運営を強いられると思われます。

フィリピンでは海外出稼ぎ送金が急減

インドネシアと同様に、新型コロナウイルス禍のなかで景気悪化が目立つのが、フィリピンです。

フィリピンは、昨年まで概ね+6%前後の高成長を維持してきましたが、2020年4-6月期GDP成長率は、前年同期比16.5%減と、1981年の統計開始以来で最大の落ち込みとなりました。国内外で実施された活動制限措置の影響によって内需、外需ともに減少しており、景気を悪化させています。

また、フィリピンの民間消費に大きな影響を与えているのが、海外出稼ぎ労働者を含む在外フィリピン人からの送金です。しかし、新型コロナ禍のなかで、出稼ぎ在外フィリピン人の雇用、収入が失われるケースが増えており、送金額が大幅に減少しています。海外からの送金額は、本国で暮らす家族にとって重要な収入源となっていたため、送金額の減少によって国内消費を落ち込ませています。

東南アジア最多、30万人の感染者

9月28日には、ドゥテルテ大統領は、マニラ首都圏とその周辺州に敷いた部分的な外出・移動制限措置を10月31日まで1か月延長する、と発表しました。直近発表されている9月末時点のフィリピンの新型コロナウイルスの国内感染者数は、30万人強と、東南アジア最多となっており、政府はかなり警戒感を強めています。

マニラ首都圏は、GDPのうち、約4割が集中するフィリピン経済の中心地であるだけに、このたびの隔離措置延長の影響は大きなダメージです。インドネシアと同様に、フィリピンも当面景気低迷を余儀なくされると予想されます。

<文:市場情報部 副部長 明松真一郎>

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