投資において人の後をついていくのは正解か

以前にも株式市場でよく使われる相場格言の話をしましたが、江戸時代の米相場から伝えられる相場格言も多く、相場心理、市場参加者の心理というものはいつの世でも変わらないものだということが分かります。

そのなかでも、「人と同じことをやっていては駄目だ」というような格言が多いのですが、本当に人と同じように株を買ったり、売ったりしてはだめなのでしょうか?


思った通りにならないのが相場

新型コロナウイルスの収束がみられず、経済への影響も引き続き懸念されるなかで、株式市場は依然として堅調な地合いが続いています。米トランプ大統領も思いのほか早期に復帰しており、株式市場でも強気に上昇を見込む人も多くなっているようです。

ただ、往々にして強気になる人が多くなると相場は上がらなくなるということも多く、市場の雰囲気と相場がかみ合わないこともあるので、まだまだ注意も必要ということでしょう。

米国でも大統領選挙が近づいて、金融市場でも大統領選挙後の金融政策の方向などが気になるところです。大統領が誰になってもホントは金融政策が変わるということでもないのですが、トランプ大統領の強権的な行動を見ていると、トランプ大統領が再選されるのか、それともバイデン候補が新しい大統領となるのかで、金融政策すらも変わるのではないかと思われます。

4年前の大統領選の教訓

思えば、ちょうど4年前もヒラリー・クリントン候補になれば株価は上がり、トランプ大統領になると下がるという意見が多くみられました。そして、クリントン候補が優勢と言われて堅調な相場が続いていたのですが、実際にはトランプ候補が優勢となり、日本市場では株価が大きく下落したのです。

ただ、米国市場ではトランプ大統領が決まったということで逆に買われ、日本市場も今度は慌てて買戻す、買い直す動きとなったのです。

ここでの教訓は、未知へのリスクはとるなということなのでしょう。リスクとは、本当に誰が大統領になるのか、どちらかに思惑で賭けるということ。また、大統領が決まったからとすぐに動き出した方向に乗ってもいけないということです。

4年前の例でいえば、クリントン氏にかけて「上昇すれば儲かる」としていた人は、トランプ大統領に決まっても損することはなかったはずです。しかし、実際にはトランプ大統領になりそうだということで大きく売られました。その時点で、逆に下がれば儲かると方針を変えてしまったのかもしれません。

そうなればダブルパンチです。つまりこの時点で、「大統領に誰がなるか」というリスクを取り、さらに「誰が大統領になると株価が上がるか」というダブルでリスクを取ってしまったのです。

人の後についていけば「おいしい」思いができるのか?

それでは、すべてが決まった後、動き出した方向にすぐ乗って成功したのかも検証しなければなりません。例えば、「アベノミクス」の始まりとされる2012年暮れの日本の衆議院議員選挙では自民党が圧勝したとき。それまでの民主党から政権与党が変わったタイミングです。また、4年前の米大統領選挙は結果的には上昇の始まりであり、当初の動きに乗った人は正解だったということになります。

ただ、2009年の民主党政権発足時は、2009年8月の総選挙で民主党が圧勝したときが株価は最高値でした。その後はじり安となり、安値で低迷しました。民主党が勝ったからと買い急いだ人は損失となりました。一方で、民主党が勝ったけれど、冷静に相場を見ていた人は、良いタイミングで売ることができました。

いずれにしても、政治的な動きは大衆の心理で煽られやすいということです。ですから、今回の米大統選挙を控えて一喜一憂しそうですが、人の動きに安易についていって右往左往するより、じっくりと「その後」の動きを見て方向を見極めることが正解なのだと思います。

本来は、政権が変わったとしても何がすぐに変わるわけでもありません。先走る必要はないということです。

先走るリスクは大きい

思惑で先走りして失敗するリスクと、乗り遅れてしまうリスクを考えれば、乗り遅れたリスクは比較的容易に挽回が効きます。しかし、先走りしたリスクは取り返し難いというケースが多いのです。ただ、このようなことは相場に携わる人には必ず起こります。先走って失敗した経験を持つ投資家は多いと思います。

実際に、筆者も4年前の米大統領選挙の時は、株価上昇で利益が出るポジションを取り、下落に対するヘッジをかけていました。さらに、下落した段階でさらに下がると思い、ポジションを組み替え、大きな損失を被りました。ただ、その後の上昇の方向はしっかりと見極め、しっかりと取り返しましたが…。

なぜ失敗したのか

つまり、クリントン氏が勝つ、上昇するという思惑でポジションを取ったということが一つの間違いでした。なぜ、クリントン氏が勝つと思ったかといえば、「そういう見方が多いから」という理由でした。また、なぜクリントン氏が大統領になれば株価が上がると思ったかと言えば、「皆がそう言っていたから」でした。だから、失敗したのです。

いずれにしても、まずどちらが勝つかしっかりと見極め、「さぁトランプ大統領になった。株価は下がるのか?」としっかりと見極める必要があったということです。

それは、人の後をついて行くということではなく、誰が大統領になるかと株価の動きは関係ない、だから大統領選挙が終わってからしっかりと考えよう、と思考が正解だったのです。

つまり、人と同じような道を歩いていくのではなく、人の行く道と違う道を歩いていれば、しっかりと相場の方向を見極められ、利益を出すことができただろうということです。

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