人も企業も選ぶ北海道㊤~変わる働き方~

けいナビ

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今回のけいナビは「人も企業も選ぶ北海道」と題し、新型コロナウイルスの影響で変わる働き方について特集する。

収入減でも満足?脱サラして夫婦で移住

ことし7月、東京から一組の夫婦が札幌に引っ越してきた。2人は静岡と長崎の出身で、北海道には縁もゆかりもない。移住先に札幌を選んだのは、夫の基さんが、観光で訪れた北海道を気に入っていたからだと言う。

ことし7月札幌に移住した大多和夫妻

決め手は新型コロナウイルス。決断から一カ月で引越した。背景にあるのは、夫の基さんの過去の経験。かつて5年ほど、海運会社の航海士をしていた。世界中を回り、一年の半分を船の上で過ごす生活。当時婚約していた春奈さんとも会えず、徐々に仕事に対する考え方が変わったという。基さんは「船に乗って、家族と会えることや陸上での当たり前の生活が幸せということに気づいた」と振り返る。

航海士の経験がプライベートを大切にする人生観につながっている

結婚を機に東京の観光ベンチャー「Funグループ」に転職したが、ことし6月、移住を理由にフリーランスの観光ガイドに転身。持ち前の語学力を生かし主に外国人の依頼を受ける。また、退職した企業からの仕事もリモートで引き受けている。基さんは「ツアーの企画や、企画したツアーを旅行サイトに載せてもらえるよう営業する仕事。リモートワークでもやりやすさは変わらない」と話す。
企業側の体制整備も進んでいる。Funグループの清水さんは「企業理念に共感してくれる人とは一緒に働きたい。英語の社内公用語化とかリモートに向けた体制構築なども進めているので、今も大多和さんと仕事ができている」と話す。

企業側もリモートで働ける体制を整える流れが加速している

基さんの妻、春奈さんはことし会社をやめ、フリーランスとして独立していた。しかしその矢先のコロナ禍で、仕事のイベントが軒並みなくなった。春奈さんは「移住するとなったときに札幌にも求人があるので、働こうと思えば働けるが、それだと場所に依存した働き方しかできなくなってしまう。そうではなくて自分の体とインターネット環境があれば働けるというのを作りたかった」と、移住後もリモートで働ける仕事を模索。新たな稼ぎ先をYouTubeに求め、婚活のアドバイス動画などを制作している。

住む場所に縛られない働き方を目指すという

東京では、職場に近い都心で家賃20万円の暮らし。札幌では、休みに近場で観光できる環境に。収入面では、世帯収入は900万円から600万円に減ったというが、家賃も3分の1になったという。基さんは「東京では1LDKだったのが2LDKになって、スーパーは近くにあり、おいしい食材もいっぱい置いている。収入は下がったが生活レベルは上がったという実感がある」と話す。

地方移住の機運 コロナ禍で地方にチャンス?

内閣府の調査では、都心部の若者を中心に地方移住への関心が高まっているという結果が出た。自治体は、こうした動きを取り込もうと工夫している。

都心の若者を中心に地方移住への関心が高まっている

石狩のこちらの農家。この日は、収穫したダイコンの長さを揃え、箱詰めする作業。

服部こずえさん。京都出身で、JICAの青年海外協力隊の一員として、ガーナでパソコンを教えていたが、新型コロナウイルスの影響で3月に帰国。任期は10月まで残っているが、この期間に国内でできることを考え、農業を体験することにした。

そこで参加したのが、石狩市の「アグリケーション」という事業。農業と休暇をかけ合わせた造語で、夏の休暇に住み込みで、農家の生活を体験してもらう取り組みだ。週4~5日の農作業には1日5,000円程度の手当が出て、家賃や食費は農協が負担する。休みの日には、自分の仕事をしたり、観光をしたりして楽める。

受け入れている農家の須藤代表は「農業後継者もどんどん減っている中で、より多く生産者が増えるというか、興味を持ってくれる人が増えるといい」と話す。この事業で市が目指すのは、「関係人口」を増やすこと。関係人口とは、そのまちに住む「定住人口」と観光などで一時的に訪れる「交流人口」の中間に位置する層のことで、移住まではつながらなくても、まちづくりなどで継続的に石狩と関わる人のこと。

この事業は、農業だけではなく実際の生活を体験してもらうため、10日間以上の滞在が条件。服部さんは1カ月半、農協が用意したシェアハウスに住み込み、送迎も付いている。この日の夕食は、農家などからもらった石狩の食材が中心だ。

夕食は石狩の食材が中心

数週間後。石狩には「アグリケーション」への参加者が増えていた。JICAの隊員を除くと、参加者は全員大学生。北海学園大学の高谷愛梨さんは「同世代に自分がやった経験を少しでも発信できたら、みんなの農家への意識も変わると思っている」と話す。

参加者の中には、北海道とは縁もゆかりもない東京の学生も。明治大学農学部の村上晃信さんは「これから農業体験を仕掛ける側になっていく。一回参加者として体験したことが仕掛ける側になったときに生かせるのでは」と話す。

農作業がない日には、地元の人との交流や移住者を訪ねる企画も行った。石狩には移住者で作る団体があり、「移住トレーナー」として生活の相談をできる仕組みもある。石狩市企画経済部農政課の河田寛史さんは「新型コロナウイルスで都市部の人たちは自分の生活を考え直すきっかけになり、地方の農業や一次産業にも目が向いてきている。こんなときだが、地方にとってはチャンスでもあると思う」と話す。

お茶のルピシアがニセコ町へ移転

最後は企業の移転。世界のお茶を専門に販売するルピシア。国内外に140店舗以上を構える。2012年に倶知安町にレストランを、2017年に食品加工場を置いていたが、管理部門などもここに移し、ニセコを100人規模の拠点にするという。

水口会長は「東京は家賃も高いし何するにも高いし、そんなところにいる必要があるのか。通勤ラッシュで毎日電車に押し込まれて、それが人間らしいかというと人間らしくない」と話す。地方への移転を検討する中、3年前に会長がニセコに惚れ込み移住。ニセコを「おしゃれな田舎」と表現し、都市部の人でも比較的抵抗なく来られると考えた。

国際リゾートとして開発が進むニセコ

会長は1年半ほど前に移転を決断したが、課題となったのは、社員の理解だ。当時社員に希望を取ったところ、ほとんど転勤希望者はいなかったという。共働き世帯も多く、自分だけでは決められないといった要因もあったようだ。その空気を変えたのが新型コロナウイルス。社員が東京での生活を見直すきっかけとなり、転勤可能者が増えた。

水口会長は「例えば人材を確保するのに東京が有利という幻想はあった。だけど我々のような中小零細は東京にいたって優秀な人達はもっと有名な大企業に行ってしまう。本来はそんなメリットはなかった」と話す。
先月東京からニセコ町に移住した中下さん。元々転勤に抵抗はなかったが、リモートワークが中心となる働き方の変化が、さらにハードルを下げたという。中下さんは「一番近いコンビニまで歩いて30分かかるという日常の変化に驚いたが、悪い面とは思っていない。東京にいても同じ部署の人と週に一回顔を合わせるかどうかで、ニセコと東京に離れてもあまり変わらない」と話す。

先月ニセコに移住した中下さん

ルピシアは、社宅を設けるなど受け入れ環境も整え、段階的に転勤者を増やす考えだ。水口会長は「東京に住んで仕事したい人とも、折り合いをつけていかなければならない。柔軟にやるしかないと思う。全員移住だというのはありえない」と話す。

社宅などの環境も整備している

ニセコの羊蹄山麓の水を生かした新たな挑戦も。先月完成した「地ビール」の工場。

この日は製造を始めて3日目

ビールを作る社員2人は、元メインパティシエとレストランのホール担当。来月の販売開始を目指している。元々レストランのホールをしていた藤峯さんは「地元の方に認知してもらい、家庭の冷蔵庫に必ず一本入っているような感じにしたい」と話す。

元メインパティシエの矢吹彰子さん。ビール醸造責任者を務める

お茶の企業であるルピシアがビールを始めた理由について水口会長は「ビールは地場の人に親しんでもらいやすい。事業を拡大しようというよりは、本音を言えば生き残り策」と話す。

ビール工場の隣には野菜の加工場も建設中。人材を移すだけでなく、地場の食材を使った『ニセコ発』の商品開発でビジネスの成長を図る。本業のお茶も、茶葉の試験栽培を始めていて、会長は「耐えられる品種や育て方が分かってきた。北海道は茶葉の北限をとっくに越えているが、それでもできると思う」と話す。

人の価値観や働き方が変わり、企業の戦略にも変化が生まれている。来週(10月24日)の放送も、引き続き変わる働き方について特集する。
(2020年10月17日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)
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