GoTo“トラブル”、泥縄対応にあきれ声 差額稼ぎや利用制限で後手に

居酒屋チェーン大手「鳥貴族」の店舗=8日、大阪市

 政府が進める一連の需要喚起策「GoToキャンペーン」で、トラブルが相次いでいる。「イート」では制度の不備を突かれて、少額利用者による差額のポイント稼ぎが横行。1週間で見直しを余儀なくされた。「トラベル」でも、旅行会社が利用制限に踏み切った後で予算枠追加の方針を示し、元通りの条件で販売が再開されるなど泥縄式の対応が際立つ。需要回復に期待をかける飲食業界や観光地からは、目玉政策で次々に露呈する不備にあきれ声が上がっている。(47NEWS編集部)

 ▽少額で差額ゲット

 「想定はしていたが、これほど少額利用者が増えるとは」。居酒屋チェーン大手「鳥貴族」の広報担当者は疲れた声で話した。

 鳥貴族は焼き鳥や釜飯などを298円(税込み327円)の均一価格で提供する。安さが売りの各店には、客席の予約だけして千円分の獲得ポイントを下回る料理を注文し、差額をゲットする利用者が押し寄せた。インターネット上では「鳥貴族マラソン」「トリキの錬金術」と、ざわめきが広がった。

 付与されるポイントは昼食なら500円分、夕食なら千円分。「GoToイート」を所管する農林水産省は8日、付与分より低い金額の飲食を対象から外すと発表。1日の事業開始から1週間で制度の見直しを迫られた。

 ▽民間の制限に疑問も

 農水省は「飲食店が何らかの対応をすると想定していた」(担当者)と説明。「民間の経済活動を行政が一律に制限するのはおかしい」(幹部)との考えもあったようだ。新型コロナで切羽詰まった飲食店を救うため、とにかく制度設計を急いだという。

 野上浩太郎農相は9日の閣議後記者会見で「結果として飲食店に混乱を生じさせたことは誠に遺憾だ。キャンペーンの趣旨も含め、さまざまな場面で丁寧に説明をしていきたい」と述べた。

「GoToトラベル」の対象に東京が追加されて初の週末を迎え、大勢の観光客でにぎわう東京・浅草の雷門=3日午後

 ▽見積もりに甘さ

 「GoToトラベル」は、旅行代金の50%相当を補助し、うち35%分を代金から割り引く。国の制度上、宿泊の場合、1人当たりの割引額の補助上限は1泊1万4千円で、利用回数に制限はない。

 ところが10月に東京発着旅行が追加された後、秋以降の予約が急増。予算枠が上限に迫ったとして、大手旅行サイトを運営する「じゃらん」や「ヤフートラベル」が宿泊割引の上限額を3500円に引き下げるなど、各社が利用制限に踏み切った。ある大手サイトの担当者は「予算枠が少なく、びっくりした。多くの方に使っていただけるよう制限せざるを得なかった」と明かす。

 旅行各社への予算割り当て、利用実績の管理といった実務はJTB、日本旅行などでつくる事務局が取り仕切り、国からは1866億円もの委託費が支払われる。大手旅行サイトの運営会社も協力団体として名を連ねており、事務局の見積もりの甘さを批判する声も。「旅行会社は事前に制限を報告していたのに、そのまま了承した」「東京追加で予約が相次ぐのは目に見えていた」などと、国の責任を問う見方もある。

 ▽政府は前のめり

 観光庁の担当者は13日の野党会合で、制限適用は事前に報告を受けていたと認め「事務局を監督する立場であり、しっかりコミュニケーションを取る」と釈明。観光庁長官は、赤羽一嘉国土交通相から「緊張感持って当たるように」と注意を受けた。

「GoToトラベル」のヒアリングで、国交省職員ら(左側)に質問する野党議員=13日、国会

 7月下旬に始まった「トラベル」は、開始直前に東京都を対象から外したことで既存予約のキャンセルが相次ぐなどの混乱が発生。その後も割引額が大きい高級旅館などに人気が集まる一方、低価格の民宿などは苦戦し、恩恵が中小業者に行き渡っていないとの不満の声もある。

 大人数を集める経済効果と感染防止は両立できるのか。政府による前のめりな事業を見つめる国民の視線は、期待とともに厳しさを増している。

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