コロナ後の「観光ビジネス」に賭ける金正恩…受け入れは2021年末か

2012年春、最高指導者の座についたばかりだった金正恩党委員長の鶴の一声で始まった馬息嶺(マシンリョン)スキー場の建設。お得意の「速度戦」を最大限に駆使、崩壊事故も山崩れも何のその、わずか8ヶ月で工事を終え、同年12月31日にオープンにこぎつけた。当局はその速さを「馬息嶺速度」と名付け、大々的に宣伝した。

一般スキーヤーがほとんどいない北朝鮮には不釣り合いにも思えるスキーリゾートだが、金正恩氏の狙いは、外国人観光客を多数誘致して、不足する外貨を稼ぎ出し、国際社会の制裁に耐え抜くところにあると言われている。

ところが、2020年の年明け早々、その計画に狂いが生じた。中国で急速に感染が拡大した新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために、国境を封鎖する措置を取り、外国人観光客の受け入れも中止した。

だが、観光業を推し進める金正恩氏の方針に揺らぎはないようだ。コロナ後の外国人観光客の受け入れ再開を目指して、国内の主要ホテルのリモデリングを指示したと、デイリーNKの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)情報筋が伝えた。

金正恩氏は5日、軍の7総局(建設部隊)指揮部に対して、「外国人観光客を主に収容しているホテルを世界的水準に合わせて現代的に再建築せよ」との指示を下した。その対象となったのは、平壌を訪れる西側諸国の観光客が主に利用する高麗ホテル、羊角島(ヤンガクト)国際ホテルに加え、中国からのツアーがよく利用する西山(ソサン)ホテル、普通江(ポトンガン)ホテル、平壌ホテルなどだ。より具体的には、次のような箇所だ。

○高麗ホテルの地下レストラン、回転展望レストラン
○普通江ホテルのホールと80客室
○羊角島国際ホテルの回転展望レストランと地下ボーリング場などのレジャー施設
○西山ホテルの30客室
○平壌ホテルのショップ

完成期日は2021年末。そのころまでにはコロナは収まっているだろうとの予想を反映したものと思われる。外国人観光客の受け入れ再開もそのころになるとの解釈も可能だ。

中朝関係が改善した2018年以降、北朝鮮を訪れる中国人観光客が急増した。受け入れキャパを超えてしまい、一時的に制限したことさえある。そのため観光客がいない間に施設を増強し、より多くの外国人観光客を受け入れることで北朝鮮のイメージアップを図ると同時に、外貨不足の打開にもつなげたいという目論見もあるのだろう。

「党の資金、外貨確保において観光産業と外国人観光客の誘致は政策的に維持するというのが党の揺るぎない方針だ」(情報筋)

指示に基づき、7総局指揮部は25旅団を中心に、海外での建設プロジェクトに参加経験のある部隊を投入し、今月13日にから事業に取り掛かるとのことで、資材に関しては、国家機関の関連部門に対して「全的に保証してやれ」との指示が下されている。

しかし、内部ではプロジェクトの先行きに懸念の声が上がっている。資材、資金、労働力のいずれも不足し、先行する建設事業も進んでいない状況なのに、さらなるプロジェクトを進めるのは無茶だというものだ。

金正恩氏自らが旗振り役となって進めてきた総合リゾート「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の建設に当たっていた主要部隊が、今年5月に撤収し、平壌総合病院の建設現場に配置換えとなった。

金正恩氏は、元山葛麻を今年の4月15日までに完成させるよう厳命していたが、未だ完成しておらず、今月10日までの完成命令を出していた平壌総合病院も、外観しか完成していないと伝えられている。

オープンにこぎつけた施設も問題山積だ。

北朝鮮は、乗馬場などを併設したスパリゾート、平安南道(ピョンアンナムド)の陽徳(ヤンドク)温泉文化休養地を今年1月にオープンさせた。当初は平壌発のツアーで賑わっていたものの、その直後のコロナの世界的蔓延で、あてにしていた中国人観光客が来なくなってしまった。

陽徳で稼ぎ出した外貨を他のプロジェクトに注ぎ込む「自転車操業」さえできなくなっているのである。

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