映画「みをつくし料理帖」松本穂香インタビュー 「一つの道にあんなに強い覚悟を持って進める人はなかなかいない」

髙田郁原作の「みをつくし料理帖」が、角川春樹監督により映画化。江戸で女料理人として活躍する主人公・澪を演じた松本穂香から、澪の役どころや、8歳の時に生き別れた幼なじみ・野江(奈緒)との友情、撮影エピソードなどを聞いた。

――本格的な時代劇は初めてかと思いますが、出演して大変だったことはありましたか?

「撮影前から所作指導をしていただき、現場にも所作を教えてくださる先生がいてくださったので、特に不安なことや大変だったことはなく心強かったです。着物を着ての歩き方も元天満一兆庵のおかみ・芳役の若村(麻由美)さんに教えていただきました」

――澪は、いちずでけなげなキャラクターですが、演じてみていかがでしたか?

「内側にとても強い意志や、好きなもの、お仕事に対する志みたいなものをしっかり持っている強い女性だなと本を読んで感じていたので、そこをしっかり演じられたらいいなという気持ちで演じていました」

――映画の冒頭で野江が旭日昇天(朝日が天に昇っていく時のように、きわめて元気で勢いのある)の相、澪は雲外蒼天(試練を乗り越えていき、努力して乗り越えれば快い青空が望める)の相といわれますが、その四字熟語を聞いた時の感想は?

「もともと、旭日昇天、雲外蒼天という四字熟語は知らなかったのですが、対照的に見える言葉だなと思いました。2人の人生が穏やかなものではないことを示している言葉ですが、それが2人を結びつける大切な言葉にもなっているのかなと 」

――もしご自身が言われるとしたら、どちらが言ってほしい言葉ですか?

「どちらも自分ではないですかね(笑)。両親を亡くして幼なじみとも生き別れている澪のように過酷な運命には生きていないので、今のところ雲外蒼天でもないし、一方、野江ちゃんもすごく大変な道を歩んでいるので…。でも、最終的に二つの言葉とも最後はいい方向に向かっているので、どちらもうれしいなと思います」

――澪に対してどんな思いを持っていらっしゃいますか?

「このお仕事をする上で、志っていうのは大事なものだと思うんです。自分の仕事と重ねた時に、澪の持っている志は、すごくすてきなものだなと思いました。一つの道にあんなに強い覚悟を持って進める人はなかなかいないと思うし、そこまでの気持ちを持てるかなと考えた時に、『澪はすごいなぁ』と尊敬するような気持ちでした」

――料理人として江戸で活躍することになる澪ですが、料理の撮影はいかがでしたか?

「私自身は料理が得意ではなく、たまにするという感じです(笑)。撮影前に料理監修で入っていただいた服部(幸應)先生の学校で練習をさせていただきました。突然女料理人になることはできないので、基本的なものから教えていただいて準備をして撮影に入ることができました」

――物語の柱となっている、澪と野江の女の友情についてはどのように感じましたか?

「お仕事をする中で親友の存在は頑張る力になったりするので、友情は大事だなと感じています。野江ちゃんと澪の関係は、時代も違うので全然今とは違うんだろうなと思います。簡単に連絡も取れない時代ですし、その中で生き別れになって死んじゃっているかもしれない相手を思い続けている。お互いを友情でも恋愛でも関係なく、そんなに人を思えることはすごいなと思います」

――映画のポスターになっているシーンがとてもすてきですが、どのように撮影されたのでしょうか?

「野江ちゃんと澪が写ってるシーンは、それぞれ全く違う日に違う場所で撮っているんです。ですが、その場にいてほしいっていう監督の演出があったので、野江ちゃんのシーンの時は澪は映らないけど、扮装をして立たせてもらって、逆に澪のシーンの時は野江ちゃんは手しか映らないんですが、奈緒さんがいてくださって…。私としてはすごくありがたかったです。より一層、澪の気持ちが理解できる時間になりました」

――物語の中で火事のシーンがありましたが、実際の火を使って撮影されたのでしょうか?

「全体が燃えているわけではなかったんですが、結構な火を使っていました。火の力ってすごいなと。目の前で燃えているのを見ると、感情がどんどん変化していって。最初は大事なものが全部燃やされていく衝撃、次に雨の中で燃えているのをつる家の店主・種市(石坂浩二)さんと見るシーンは、たぶん私自身は感じたことのないような絶望なんだろうなと。なんかもう“無”というか…。あのシーンは澪の気持ちにいろんな段階があったんだと思います」

――火事の後、あさひ太夫(野江)から文をもらったシーンがとても印象的でしたが、演じていかがでしたか?

「生きているか死んじゃっているか分からない大切な親友が生きていたと分かるシーンで。私自身にはもちろんそういう経験もないので、とにかく想像を膨らませて…。澪にとっては大きな出来事なので、家で想像していました。家で想像していた100%の出来ではないと思うんですが、OKが出たのでよかったなと思っています(笑)」

――澪が料理人ということで、料理にまつわるエピソードが数多く登場しますが、ご自身の心に残ったエピソードを教えてください。

「あさひ太夫に渡すために作ったお弁当です。お弁当のシーンは澪が1回絶望を感じてから、ずっと思い続けていた野江ちゃんが生きているということが分かり、そこからまた気持ちを切り替えて頑張っていくぞという強い気持ちを込めて作ったお弁当なんです。ここから澪の中で何かが変わっていったのかなと思います」

――物語の中には、御膳奉行・小松原こと小野寺数馬(窪塚洋介)と町医者・永田源斉(小関裕太)という気になる存在の2人がいますが、澪にとってそれぞれどういう存在だと思いますか?

「小松原さんは澪の料理を面白いと言ってくれた人。私自身もうまいとか下手と言われるよりも、面白いと言われた方が何か心が動くと思うので、澪にとってそういう言葉をくれる存在は、すごく大きく、ひかれていくんだろうなと思います。源斉先生はいつも味方でいてくれるような心強い協力者。澪はただ自分の道を進んでいたら、そういう人が周りに集まってくれていて、そういう人たちがいるから頑張れるっていう存在の1人なんだろうなと思います」

――それでは、源斉を演じた小関さん、小松原を演じた窪塚さんと共演していかがでしたか?

「小関さんはすごく穏やかな方。同世代の男性の中でもあまりいらっしゃらないような爽やかな感じで、源斉先生のイメージにすごく近いです。いろんな人を受け入れるような優しさというか、拒まない優しさを感じました。窪塚さんはこれまでたくさんの作品を見させていただいていました。すごい方なんだろうなと思って、撮影の合間に『緊張とかされるんですか?』という素朴な質問をしたら『しないね』とおっしゃって…。やっぱりすごいなと。現場でも小松原様が堂々とした方なので、窪塚さんも同じように堂々としてらっしゃって。もうその役のイメージという感じです」

――また、コミカルなシーンで登場することが多かった戯作者・清右衛門を演じる藤井隆さんはいかがでしたか?

「藤井さんは毎回すごいプレッシャーを感じていたと思います。角川監督が『清右衛門がこの作品の中でのお笑い、お前がお笑い担当だ!』ってずっとおっしゃっていたので(笑)。面白くしなきゃというプレッシャーをたぶんすごく感じられていたと思うんですが、現場も毎回リアルな笑いに包まれていて、監督もすごく楽しそうだったので、そういうのがきっと出ているんじゃないかなと思います」

――毎回、清右衛門が発する「ふん!」というセリフを藤井さんは微妙に変えられていたように見えたのですが、それを間近で見ていていかがでしたか?

「すごい、さすがだなと思って見ていました。藤井さんとはあまりお話はしていないんですが、清右衛門の奥さん役が薬師丸(ひろ子)さんなので、とにかくすごく緊張されているのを感じてました」

――そんな清右衛門とも、あることを巡って料理対決をすることになります。

「あの段階ではもう澪はぶれない気持ちがあるんだろうなと思っていたので、気持ちをしっかりここ(心)に置いて、強い気持ちでいました」

――澪のセリフの中で印象に残っているものはありますか?

「『道は一つきり』というセリフです。これはなかなか言えるものじゃないと思いますね」

――ご自身も女優という道に真っすぐに進んでいらっしゃるのでは?

「どうですかね?(笑)。ただ、澪の気持ちはすごく強いなと思いますね。好きな人を諦めてまで進む道っていうのは、野江ちゃんの存在が大きいんだろうなと思います」

――すてきなシーンがたくさんありますが、ご自身が一番好きなシーンはどこでしょうか?

「最後のシーンです。あのシーンは、野江ちゃんを演じてくださった奈緒さんじゃないとできなかったというか、奈緒さんがいてくれてよかったなぁと思いながら演じていました。奈緒さんはとてもすてきな方で、それがお芝居にも出ていて。映画の後、ドラマでも共演させてもらったりしていて、本当に出会うことができてよかったなと思う女優さんです」

――最後に、あらためて映画の見どころをお願いします!

「何と言っても、角川監督の最後のメガホン作なので、今までの角川映画のそうそうたるキャストの方たちが出演していて、ワンシーン、ワンシーンすごく厚みのあるシーンになっているので、見逃さず見ていただきたいなと思います」

――ありがとうございました!

【プロフィール】

松本穂香(まつもと ほのか)
1997年2月5日、大阪生まれ。水瓶座。O型。2015年に主演短編映画「MY NAME」でデビュー。17年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」で青天目澄子役を演じ、話題に。18年のドラマ「この世界の片隅に」(TBS系)で主演を務め、北條すずを演じた。20年、主演アニメ映画「君は彼方」が11月27日に公開予定。

【作品情報】

映画「みをつくし料理帖」
10月16日公開

享和2年の大坂。姉妹のように仲が良かった8歳の澪(松本穂香)と野江(奈緒)だが、大坂の町を襲った大洪水で、2人の仲は引き裂かれてしまい、野江の消息は分からずじまいに。それから10年の月日がたち、江戸・神田にあるそば処「つる家」で料理人として働く澪は、初めて振る舞った料理が客からの不評を買い、悩んでいた。

原作/髙田郁 脚本/江良 至 松井香奈 角川春樹 製作・監督/角川春樹
出演/松本穂香 奈緒 若村麻由美 浅野温子 窪塚洋介 小関裕太 藤井隆/薬師丸ひろ子/石坂浩二(特別出演)/中村獅童ほか

取材・文/長谷京子

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