【F1第11戦無線レビュー(2)】「結構タフだったよ」3度目の代役参戦でもチームに貢献したヒュルケンベルグ

 ニュルブルクリンクで開催された2020年F1第11戦アイフェルGPの決勝レースは、序盤からアクシデントやトラブルの多いレースで、後半にはセーフティカーも導入された。ダニエル・リカルド(ルノー)の表彰台獲得や、3度目の代役参戦を果たしたニコ・ヒュルケンベルグ(レーシングポイント)の活躍など、話題の多いレースとなったアイフェルGPを無線とともに振り返る

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 43周目にコース脇にマシンを止めてリタイアしたランド・ノリス(マクラーレン)の車両を撤去するため、ここでセーフティーカーが導入される。しかし、この日の気温は約10度と寒く、セーフティーカーの後ろでスロー走行を余儀なくされたドライバーたちのタイヤはどんどん冷えていく。

ルイス・ハミルトン:セーフティーカーにペース上げるようにって言ってよ
メルセデス:隊列が整うまで待ってくれ
ハミルトン:このタイヤで、このスピードは遅すぎる。安全性に欠けるよ
メルセデス:伝えておく

マックス・フェルスタッペン:セーフティーカーはあんまり長くとどまらないほうがいいね
レッドブル・ホンダ:ハミルトンも同じことを言っているよ

2020年F1第11戦アイフェルGP SCの後ろを走るルイス・ハミルトン(メルセデス)&レッドブル・ホンダ

 隊列が整ったところで、周回遅れのマシンを同一周回に戻すため、セーフティーカーがバックマーカーたちを先に行かせると、フェルスタッペンがたまらず、不満を告げる。
 
フェルスタッペン:これじゃ、抜いていったほかのクルマが特をすることになるじゃないか!!

 しかし、再スタートでフェルスタッペンはなんとかポジションをキープ。その後方でも、熱いバトルが展開された。そのうちのひとつが11番手を走行していたケビン・マグヌッセン(ハース)と12番手のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)のバトル。ベッテルのプレッシャーを受けて、最終コーナー手前のシケインをショートカットしたマグヌッセン。しかし、マグヌッセンがベッテルの前でコースに復帰して、1コーナーからインフィールドセクションでバトルを再燃させると、ベッテルはたまらず無線のボタンを押す。

ベッテル:最後のセクターで飛び出したの。あれ、ペナルティでしょ
フェラーリ:報告しておく

 ダニエル・リカルド(ルノー)とセルジオ・ペレス(レーシングポイント)の間で繰り広げられていた表彰台争いは、いよいよファイナルラップに突入する。3番手を走行しているリカルドにとっては、ルノー移籍後、初表彰台がかかっていた。

ルノー:ペレスと同じラップタイムだ。ギャップは1.3秒ある
リカルド:OK、これからはもう無線を切っていいよ
ルノー:了解

 ファイナルラップもミスなく、走り切ったリカルドは、3位でチェッカーフラッグ。ルノーにとって、ワークス復活後、初表彰台となった。

リカルド:オレ、表彰台? 表彰台なの?
ルノー:そうだ、表彰台だ
シリル:表彰台だ。ありがとう(笑)
リカルド:ハハハ
ルノー:たいしたヤツだ
リカルド:表彰台を楽しもうぜ

2020年F1第11戦アイフェルGP ダニエル・リカルド(ルノー)

 そのリカルドの前、2番手を走行していたフェルスタッペンは、最後にファステストラップを叩き出し、2位でフィニッシュ。リカルドが3位でフィニッシュすると、フェルスタッペンとクリスチャン・ホーナー代表が、ルノーの表彰台を巡り、あることで盛り上がっていた。

レッドブル・ホンダ:ヘイ、やったな。ファステストラップだ
フェルスタッペン:イエス!! みんな、ファステストラップだ。レッツ・ゴー、ハハハ
レッドブル・ホンダ:P2だ。ロシアGPより素晴らしい結果だ
ホーナー:ファステストラップは、メガラップだった。それから、どうやらシリルがケツにタトゥーを入れることになったよ
フェルスタッペン:見るのが待ちきれないぜ、ハハハ
ホーナー:大きなレッドブルでも入れてやりたいね
フェルスタッペン:それは最高だね。彼も喜ぶね

 体調不良によって欠場したランス・ストロール(レーシングポイント)に代わって、急きょ土曜日の予選からぶっつけ本番で代役出場となったニコ・ヒュルケンベルグ。予選は最下位に終わったが、レースはベテランらしい卒のない走りで、荒れたレースで見事入賞を果たした。

レーシングポイント:グレート・ジョブ、ニコ。グレート・ジョブ。8位だ。
ヒュルケンベルグ:それは驚いたな。楽しいレースだったけど、結構タフだったよ。とりあえず、みんなありがとう
レーシングポイント:こちらこそ、ありがとう、ニコ。それから、今日のドライバー・オブ・ザ・デーは君だよ

2020年F1第11戦アイフェルGP ニコ・ヒュルケンベルグ(レーシングポイント)

 そのヒュルケンベルグの直後にチェッカーフラッグを受けたグロージャンもまた、粘り強い走りを披露した。スタート直後に指を痛めながらも、16番手から見事9位を獲得。今シーズン初、そして昨年のドイツGP以来のポイント獲得となった。

ハース:9位だ。すごいぞ。リスタートをうまく乗り切ったな。最高の走りだった。スタッフ全員の目が釘付けになっていたよ。本当に素晴らしい走りだった
グロージャン:イエス、イエス、イエス、イエス、イエス、イエス、イエス、イエス!! フッ、こんな気分、久しぶりだな。みんなもいい仕事をしてくれたよ。フリー走行をろく走ることもできなかったのに。ありがとう
ハース:君こそ、最高だったよ。指はだいじょうぶか?
グロージャン:じつは指はもう生き返ってたんだよ。

2020年F1第11戦アイフェルGP ロマン・グロージャン(ハース)

 このアイフェルGPが323戦目の出走となったキミ・ライコネンは、ルーベンス・バリチェロの史上最多出走記録を抜いて、単独トップに立った。しかし、本人にとってはマシンのセットアップも含めて、12位という結果に、まったく納得がいっていないようだった。

アルファロメオ:今日はあまりいい日じゃなかったけど、公式に最多出走記録を抜いたよ
ライコネン:……

 このアイフェルGPでは、もうひとり最多記録を達成したドライバーがいた。それは、優勝したハミルトン。この勝利で91勝目を手にしたハミルトンは、ミハエル・シューマッハーが持つ史上最多勝利数に並んだ。しかしハミルトンも、そしてチームもそれを話題にすることなかった。むしろ、最後にファステストラップを叩き出したレッドブルとフェルスタッペンのスピードを警戒していた。

メルセデス:ルイス、やったぞ。なんていう走りだ。すごく、すごく難しいコンディションだったけど、最高の走りだった。フェルスタッペンが1000分の6秒差でファステストラップを取った
ハミルトン:わかってるよ。彼らは速くなっているね。僕たちもプッシュし続けよう。でも、今日はこの結果を祝おう。みんなありがとう

 シューマッハーの記録に並んだハミルトン。この後も勝利を続けて、シューマッハーを抜いて単独トップに立つのか。それともこの日、リタイアしたボッタス、あるいは2位でフィニッシュしたフェルスタッペンが、待ったをかけるのか。次の戦いの舞台はポルトガルのアルガルベ・サーキットだ。

2020年F1第11戦アイフェルGP ミックがシューマッハー家を代表して、91勝達成のルイス・ハミルトン(メルセデス)を祝福、父ミハエルのヘルメットを贈る
2020年F1第11戦アイフェルGP表彰式 ルイス・ハミルトン(メルセデス)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、ダニエル・リカルド(ルノー)

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