コロナ禍を生きる北朝鮮国民のリアルなお財布事情

国際社会の制裁、相次ぐ自然災害、新型コロナウイルスの三重苦に苛まれている北朝鮮。そこに住む人々は、財布の紐を固く締めることで、この苦境をなんとか乗り切ろうとしている。

そんな実態を探るため、デイリーNKは北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に住む10世帯を対象に聞き取り調査を行った。

今年1月から9月までの累計支出額の平均は、例年なら1万2000元(約18万7000円)に達するが、今年は3割以上減少した8000元(約12万5000円)にとどまった。

リッチなトンジュ(金主、新興富裕層)ですら、支出を減らすような状況だ。

ヤミ金業を営むある一家の場合、昨年と一昨年の年間の支出額は3万元(約46万9000円)だったが、今年は1万元(約15万6000円)を下回りそうだという。

当局は今年1月、新型コロナウイルスの流入防止策として国境を閉鎖し、貿易を停止する措置を取った。密輸の取り締まりも強化し、違反者を射殺するほどの強硬策を取っている。

市場で流通する工業製品の約9割が中国製品と言われているだけあり、貿易の停止は物価の高騰に直結した。商品は入荷せず、商人は価格を釣り上げ、消費者は手を出さないという悪循環に陥っている。

結婚式や先祖を祀る祭祀(チェサ)も簡略化して行い、例年なら長い冬を乗り切るための貴重なビタミン源となるキムチを大量に漬け込むキムジャンを大々的に行うが、今年は物価高に加えて、中国からキムジャン用の白菜が入荷しないため、塩漬けの野菜を漬け込み量を増やし、費用を節約しつつ長い冬を乗り切ろうとしている。

恵山の人々は、コロナの世界的流行が収まらない限りは、合法的な貿易も、密輸も以前のように戻らないだろうと見ている。

北朝鮮は、深刻な感染症の流行拡大に非常に敏感だ。

2014年10月には、エボラウイルスが流行したことを受け、外国人の入国を禁止し、それ以前に入国した人を強制隔離する措置を取った。国境が再び開かれたのは翌年の3月になってからのことだった。

遠く離れた西アフリカでの流行にこれほど敏感に反応するだけあり、隣接する中国で広がったコロナには当局がより臆病であろうことを、北朝鮮国民も気づいているのだ。

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