【佐々木淳コラム】オンライン診療じゃなきゃだめなの?と在宅医は考える

「電話再診(電話で診察)」ができるのに、わざわざ「オンライン診療」を導入しなければいけない理由はあるのだろうか? 

普段から電話再診で事なきを得ている在宅医であれば、誰もがそう思っているのではないかと思います。

確かにビデオ通話のほうが相手の表情や顔色がわかる、患部の状況がよくわかるかもしれない。しかし、電話でもある程度の具合の悪さは推測できるし、患部のイメージが必要なら画像で送ってもらうこともできる。血圧や体温などのバイタルサインもオンライン診療でなければ共有できないというわけでは決してない。ビデオ通話アプリを使ったオンライン診療の電話再診に対する診療面の優越性って、実はそこまで大きくはないんじゃないかと個人的には思っています。

一方で、ビデオ通話アプリを利用するためにはスマホが必要。PCであれば高速インターネットの接続環境が必要。そしてアプリを操作するスキルも必要。そうなると高齢、貧困、あるいは心身の機能低下のある人はおのずとアクセスが難しくなります。通院困難で医療的に脆弱さを抱えたこのような人たちこそ、本来はオンライン診療のメリットがより大きいはずなのに、オンライン診療が大好きなのは若くて元気な人たち。ここにミスマッチが生じてしまう。

[blogcard url="https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2771681"]

**わざわざビデオ通話アプリを使わなきゃだめなの?
電話だけで十分じゃないの?
電話だけでもいいじゃない?**

とも読める論考がJAMAに掲載されました。

米国でも新型コロナのパンデミックを機に「電話訪問(電話再診)」が急増。診療所によっては診療の75%が電話再診に。ビデオ通話アプリによるオンライン診療が始まっても、電話再診の人気は衰えず、患者の満足度も高い、というものです。

特に電話再診は、高齢・貧困・人種などでオンライン診療へのアクセスが難しい人にとっては非常に重要と指摘。主治医と患者の信頼関係が構築されたプライマリケア領域のみならず、専門診療においても有用としており、たとえば心臓疾患の患者の再入院を減らすことができる、精神科では「顔の見える診察」を望まない患者もいる、産婦人科では出生前健診の半分を電話にしても患者の99%が満足している、画像を共有するための工夫をすれば眼科や皮膚科でも活用できる、などのデータが紹介されています。また米国では一部、新型コロナの臨床診断および在宅療養支援(隔離生活の指導)も電話で行われているようです。 

もちろん、予防接種や外科的処置など、対面でなければできないものもあります。重要な臓器不全の増悪徴候を早期に察知する、というのは、やはり対面でなければ難しいかもしれません。また、厳しい見通しを伝えなければいけない時などは、その場の空気を読むこと、そして必要に応じてボディタッチできる状況を作っておくためにも対面のほうが望ましいと思います。

しかし、遠隔というくくりの中では、やはりオンライン診療には電話再診よりもそこまで大きな優越性はないように感じます。もし、オンライン診療に意義があるのだとしたら、医師がモニター(つまり患者の顔)をみて診察をするようになるかもしれない、ということくらいなのではないでしょうか。

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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