メクル第495号 カンムリウミスズメの1年間の移動を記録 生息環境の保全も

烏帽子島の個体の移動例(2013年~14年)

 長崎大環境(かんきょう)科学部動物生態(せいたい)学研究室の山口典之准教授(やまぐちのりゆきじゅんきょうじゅ)(47)は、謎が多いカンムリウミスズメの生態、特に「繁殖していない時はどうしているのか?」について研究しています。福岡県の烏帽子(えぼし)島など3カ所で、位置を記録するジオロケーターという小型の機器をカンムリウミスズメの脚(あし)に着けて調査(ちょうさ)しています。

 長距離(ちょうきょり)を旅する

 回収(かいしゅう)されたデータを見ると、烏帽子島から飛び立ったある個体は、反時計回りに日本を一周していました=図=。5月ごろは九州付近から太平洋側へと旅立ち、北海道と青森県の間にある津軽海峡(つがるかいきょう)を渡(わた)って8月には日本海側へ。12月には中国の揚子江(ようすこう)の河口(かこう)沖にいました。その辺りには多くの海鳥がいたことから、豊(ゆた)かな餌場(えさば)なのだろうと考えられています。
 烏帽子島の別の個体では太平洋側だけ、日本海側だけの渡りのケースも。その違(ちが)いの要因は分かっていませんが、非(ひ)繁殖期は長い旅をしていることが分かりました。「子猫(こねこ)ほどの小さな体でも、1年をかけて相当な距離(きょり)を回遊して戻(もど)ってくる、かなりダイナミックな鳥」だと山口准教授は感じています。
 カンムリウミスズメは、どれくらい海上、空中にいるのか-。そのことを知るため、山口准教授はジオロケーターのセンサーを使って「離水(りすい)」の回数も調べているそうです。暖流と寒流がぶつかる東北の三陸沖や朝鮮半島東海域、東シナ海沖合では、その回数が多いことが分かりました。いずれも餌が豊富な場所で、海流に流されずにとどまろうとして、飛行する回数が増(ふ)えたのではないかと考えています。

 市民の力も得て

 山口准教授は、個体数を増やそうと、2年前から日本野鳥の会と一緒に人工の巣穴を作る保全活動もしています。烏帽子島ではその巣穴で一組のペアが繁殖に成功し、「カンムリウミスズメに関わった20年以上前から望んでいたことだったので、感無量だった。もっと増やせる可能性(かのうせい)がある」と話します。
 長崎市の野母崎沖には越冬(えっとう)期から繁殖期にかけて多くのカンムリウミスズメがいることが、ここ数年、市民から寄(よ)せられた情報で分かったそうです。「研究者はいつも海に出られるわけではないので、情報を頂(いただ)けるのはとてもありがたい」と言います。
 長崎県内の繁殖地は、すでに明らかになっている五島・男女群島(だんじょぐんとう)の他にも、複数存在(ふくすうそんざい)する可能性が十分あるそうです。それらの場所や個体数が分かれば、海洋開発による繁殖・生息環境(かんきょう)の破壊(はかい)といった問題を回避(かいひ)することにも役立ちます。研究者のノウハウと市民の情報力が、長崎の大切な生きものを守ることにつながるのです。
 山口准教授は「長崎の海に生きる生きものは、他の場所と比(くら)べても本当に豊か。将来(しょうらい)、地元の子どもたちから研究者が出てくれたらうれしい」とも話しています。

カンムリウミスズメの繁殖地として調査や保全活動が行われている福岡県の烏帽子島(山口准教授提供)

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