“琉球から全国行脚でファン交流”吉村真晴、和弘兄弟が目指す卓球普及の形とは

爽やかで真っ直ぐな二人だが、その表現方法は対照的だ。

兄、真晴(まはる)27歳。
弟、和弘(かずひろ)24歳。

2016年リオ五輪、男子団体で銀メダルを獲って以来、日本卓球男子にも光が当たる機会が増えてきた。
その日本銀メダルの立役者でもある吉村真晴(愛知ダイハツ/琉球アスティーダ)。TVバラエティーでの物怖じしない当意即妙なやりとりはもちろん、YouTubeでのマハルチャンネルも人気を博す。自身のキャラクターと卓球を同時に普及していく、稀有な卓球選手だ。

一方、弟の吉村和弘(東京アート/琉球アスティーダ)は兄ゆずりの勝負度胸とワールドクラスのバックハンドを武器に、2019年に世界選手権代表に初選出された有望選手だ。

今季、和弘の加入によって、Tリーグ琉球アスティーダでチームメイトとして戦うことになる二人。
「兄貴みたいにうまく笑顔を作れないんですよ」とつぶやく和弘に「楽しんでるだけだからね、俺も」と混ぜ返す真晴。

仲の良い二人の掛け合いの中に、時折真剣な表情を見せながら、卓球のトップ選手として抱える課題、今後目指すファンとの交流の形など、それぞれ語ってもらった。

真晴「あれ俺サボってるのかな?」

__――いまだ長いコロナ禍の中ではありますが、お二人ともお子さんが小さく、家族との時間は増えたのでは
吉村真晴(以下、真晴)__:そうなんですよ。最近は「今日もパパお家にいるの」って聞かれるようになってきて。嫁にも「今日どこにも行かないの」って言われるし、あれ、俺家にいちゃダメなのって(笑)。

写真:吉村真晴/撮影:伊藤圭

今までは海外に2週間遠征行って、日本に帰ってきて1週間いて、また合宿が始まってっていう形だったので、ホントに家族といる時間ってなかったんです。

自分でも最初は家にいることが不思議というか、あれ俺サボってるのかなって気持ちになるんですよね(笑)。

でも練習して家に帰ってきてるしトレーニングもやったし、ミーティングもして、新しい挑戦もして家に帰ってきたから、俺ちゃんとやってるよなって。

でも、特に卓球という競技はオフシーズンがないので、家族と一緒にいるってこんな幸せなんだなって、改めて感じることができました。

__――和弘さんはまだお子さん小さいですよね
吉村和弘(以下、和弘)__:はい。子どもが生まれたのが12月で今8ヶ月になるんですけど、毎日常に家族といるのが普通、という感覚で、今、一緒に子どもの成長を見られるのがすごく嬉しい。逆に、この先試合が増えて、海外遠征も始まって会えなくなったときに、どれだけ寂しいかって気持ちの方が強いかもしれない(笑)。

真晴:すごいよ、遠征2週間行って帰ってきたら新しい言葉覚えてるからね。

和弘:成長早いもんね。

真晴:ホントにすごい。

和弘:一度、僕が合宿で3週間会えない時があったんですけど、帰ってきたら寝返りを覚えてた。今はずっと一緒にいるんで成長が逆にあんまりわからないんですけど、それもなんか嬉しくて。

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

和弘“この野郎”って思ってました

__――今はこんなに仲の良いお二人ですが、険悪な時期ってなかったんですか。
和弘__:ありますよ、それは(笑)

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

真晴:え、あった?(笑)
和弘:中学校1年から3年までの3年間はずっと、真晴のこと“この野郎”って思ってましたね。

一番は中3ですね、僕が中学は山田(青森山田)入ってました、真晴は仙台(育英)行って野田(学園)行ってだから、普段全然会わないじゃないですか、山口と青森なんで。

でも、試合会場で会うと「久しぶり」っていきなり頭をカーンってしばかれる。いきなりですよ(笑)。

何もしてないのに、ウィーみたいな挨拶みたいな感じで頭をバチーンってやられて(笑)。僕が野田学園行っても、何かあると頭しばかれて“この野郎”って(笑)。今はもう全く無いですけど。

真晴:僕ら小学校の時からしょっちゅう喧嘩してて、相撲とか殴り合いとかやってたんですよ、そのなじみですかね(笑)。

写真:吉村真晴(左)と吉村和弘(右)/撮影:伊藤圭

__――真晴さんは和弘さんにありましたか
真晴__:うーん、和弘に対して俺がイラついた時期は、ないんですよね。

__――逆に、真晴さんが和弘さんをすごいなと思うところは
真晴__:それは元々感じてました。青森山田に行ったのもそう。僕は(仙台)育英に行ったんで、和弘も入る可能性も当然あったと思うんですけど、山田に行って、“あ、あいつ、あっちに行った”って思った。

写真:吉村真晴/撮影:伊藤圭

僕は全中(全国中学校卓球大会)とか全然勝ってなかったのに、和弘は全中で決勝行ったり、自ら山田に行ったことによって戦績を残してきて、俺と違ってあいつはちゃんと卓球のエリート街道歩んでるなって。

あとは僕自身、和弘のプレースタイルがただただ好きなので。日本人の卓球にないキレ味があるじゃないですか。おお!って、後ろのベンチでも言っちゃいそうになりますもん(笑)

写真:吉村和弘/提供:ittfworld

__――和弘さんはやっぱり兄を意識してきたんですか。
和弘__:野田に転校した理由はそうでしたね。僕は正直、中学時代は強くなりたい気持ちでやってたわけじゃなくて、青森山田で強い人いるから一緒にやらないとダメだっていう感覚で。

でも、中学で結果の出てなかった真晴が、高校入って戦績をガーンって出していく姿を見て、ああ、俺も強くなりたいって思いました。そこから始まりましたね、その意味では僕が本気で卓球に向き合ったのは、中学3年で野田学園に転校してからかもしれない。

真晴「我慢している時期にも考えることがたくさんあった」

――いよいよ今季のTリーグ開幕が11月17日。和弘さんが琉球アスティーダへの移籍を決めた理由は何だったんでしょう

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

和弘:早川社長(琉球アスティーダ代表)の存在は大きいです。僕がこれから人間的に成長していく上で早川さんから色々学びたいと思いました。

卓球競技者としては、これから成長していく色々な情報が欲しくて、アスティーダにはチュアンチーアン選手であったり朱世赫選手であったり、世界のトップで色々経験してきた選手がいるので、話を聞いてこれからの成長に繋げていきたいっていうのもあります。

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

__――今季の琉球アスティーダは戦力はもちろん、選手の個性も豊かですよね
真晴__:琉球アスティーダっていうチーム自体が新しいことに挑戦して、スポーツの最先端を行こうとしている。スポーツチームとして上場を目指しているっていうのも多分唯一の試みですし、スポーツ界としても素晴らしいことだと思います。早川さんの動きの早さや、楽しいことやっていこうよって選手が集まってるところがアスティーダの面白さですよね。

写真:勝利を喜ぶ琉球アスティーダベンチ/提供:©T.LEAGUE

選手とファンとの距離感はどんどん詰めていきたい

__――今回スポーツギフティングサービスUnlimを、卓球チームとして最も早く取り入れたのも琉球アスティーダですね
真晴__:今までは、スポーツって、見てくれてる人たちとアスリートがちょっと離れてて、もっと応援しようっていう環境が少なかったと思うんですよ。でも、このサービスを通して、より選手と応援してくれてる人たちが近くなれるといい。選手とファンとの距離感はどんどん詰めていかないとって思ってます。

応援されてる側はもちろんありがたいなって感じますし、応援してる側も、あ、応援してるからこういうことやってくれたっていうのが感じてくれやすいサービスかなと。

写真:吉村真晴(琉球アスティーダ)/提供:©T.LEAGUE

アスリートとお金

__――アスリートとお金って、僕らも扱いにくいテーマの一つでした
真晴__:アスリートはただスポーツだけやってればいいよっていう時代が長くあったので、お金のことだけじゃなく、僕がテレビ出演やyoutubeチャンネルなど、いろんな挑戦をしていくと、ネガティブな反応はあります。

でも、いまは社会の会社員も含めて、いろんな人が副業をやってくださいって言われてる時代ですよね。僕ら選手たちもアスリートっていう本業があって、違う副業としてyoutubeであったりメディア出演であったり新しいことをやっていく時代なのかなって、すごく感じてるんです。

写真:吉村真晴/撮影:伊藤圭

スポーツ選手が副業をって考えても、時間がないとか、何したら良いか分かんない、ってなる。でも、このサービスは簡単だから、例えば、直接会って一緒にイベントをやってみるとか、ファンと選手たちが一緒に触れ合える時間を作るっていうことなら、スポーツ選手は考えやすい。しかも自分の土俵でやれる。

こういう新しいことにどんどん挑戦していって、スポーツ選手がよりお金を稼げる時代が来てほしいなって思います。スポーツ選手としてすべての選手が、一生暮らしていけるお金を稼いでいるわけでは全くないので。

__――和弘さんは「アスリートとお金」についてどう考えてますか
和弘__:そうですね、今は選手としてやってますが、仮に引退した後を考えると、なんて言えばいいか…

写真:吉村真晴(左)、吉村和弘(右)/撮影:伊藤圭

言い淀む和弘に、真晴が助け舟を出す。

真晴:アスリートとお金って、なぜか汚い話みたいになっちゃうんですよね。でも、それって日本だけじゃないですか。サッカーでも本田(圭佑)さんとか色々やってるけど、日本だとネガティブな反応が出る。でも、じゃあそういう人たちが僕らのセカンドライフを保障してくれるんですかって思う。アスリートは現役のうちに自分で考えて、何かやっていかないといけないと思います。

写真:吉村真晴(左)と吉村和弘(右)

和弘:僕は、自分の子どもにスポーツ選手になってもらいたいかってまだ分かんないんですよね。

僕が、現役の時は稼いでました、でも引退したらそうでもありませんでしたっていう状況なんだとしたら、じゃあ将来、子どもにスポーツ頑張ってやってくれって強く言えないです。

僕を含めて現役アスリートが今、色々なことにチャレンジして、もちろん成功も失敗もあると思うんですけど、成功する人が一人でも多く増えることで、自分の子どもにもアスリートを目指していった方がいいんじゃないかって、僕自身が言えると思います。

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

アスリートとファンの方との交流のきっかけ作りをしたい

――真晴さんはコロナ禍直前の前回のRallysインタビューでは「全国を回って“卓球って楽しいよね”という気持ちをみんなと共有したい」という構想を語っていました。スポーツギフティングサービスで実現できるかもしれませんね。

真晴:やりたいですよね。琉球アスティーダで全国回ってエキシビジョンマッチしても面白いし、あとは選手としてだけじゃなく、人間としての自分も伝えていきたい。

卓球した後オフ会して、あのアニメ見ましたか、見た見ためっちゃ面白かったよね、みたいな話で、人と人の距離感って縮まるじゃないですか。

また会いにいくよ、また来てくれたんだねって。そういう先にアスティーダの求める、未来の子どもたちを勇気づけるっていうものがあると思うから。

写真:吉村真晴/撮影:伊藤圭

和弘:沖縄ならそれこそ海行ってBBQとか(笑)

真晴:いいねぇ。琉球アスティーダvs少人数運動会とか。

大人の本気の運動会とかもめっちゃ面白くないですか。高校生とアスティーダの体力測定対決。僕ら大したことないっすよ(笑)。

え、卓球選手大したことねえな、俺らもいけるんじゃねとか(笑)。あとはゴルフコンペですね、それはただ俺がやりたいだけか(笑)。

でも、僕らアスリートとファンの方との交流のきっかけ作りをしたいです。

写真:吉村真晴(左)、吉村和弘(右)/撮影:伊藤圭

__――やっぱりファンの方に直接会いたいものなんですね
真晴__:会いたいって言ってくれて、会うと笑顔で喜んでくれるのって、自分たちももっと頑張ろうっていうモチベーションになるんですよ。自分もエネルギーもらって、逆に自分もエネルギー与えながら、全国回りたい。やっぱり実際に会わないと分からないことはたくさんあるなあと思います。

写真:吉村真晴/撮影:伊藤圭

__――和弘さんはUnlimを使ってどんな取り組みをしたいですか
和弘__:ファンと選手が一緒になって熱い気持ちになるっていうことができたらと思ってます。実際、Tリーグが始まってから、少しずつそういう形になってきてますし。

あとは、全国には卓球をする環境が整っていない場所もあると思うので、僕らトップ選手も、少しでも卓球をする環境作りに関わっていくことで、卓球をやりたいって人たちを増やしていきたいと思います。

__――和弘さんもファンとの交流に積極的なんですね
和弘__:むしろ、みんなの前で一人で話すより、何人かまとまって一緒にラフに喋る感じの方が、僕は楽しく喋れます(笑)。

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

__――ファンの存在は支えになってますか
和弘__:はい。ファンの方が一球一球応援してくれたりとか、点数とられても「大丈夫だよ」とか、そういう掛け声を頂くだけですごく力になってます。

試合が終わった後とか始まる前とかに、一言声を掛けていただくだけでその人の顔も覚えますし、言葉は心に残りますし。

__――そういう時にとっさに対応できるものですか、抜群の対応力の兄が横にいますが。
和弘__:僕はホント苦手なんですよ、笑顔をうまく作れないんです(笑)

真晴:結構シャイなんですよ。俺と性格真逆で、ひょうきんで常にアホなことばっかり考えてるのに、そういう場面では妙に真面目で。

和弘:ファンの方に、落ち着いた感じでありがとうございますみたいな感じで言っちゃって、後で、そのファンの方が冷めちゃったかもなって反省したり。でも心から嬉しいって思ってます。

写真:吉村真晴(左)、吉村和弘(右)/撮影:伊藤圭

__――最後に今後の抱負を聞かせてください
真晴__:卓球選手として行くとこまで行きたいなと。東京は代表落ちてしまいましたけど、気持ち切り替えて、その先のパリ五輪をまた一から目指しているので、何が何でもそこに向けて自分は強くなっていく必要はあるなって感じてます。それが一番大きなビジョンです。

その先に、今のyoutubeやメディア活動などを通じて、“卓球をしている吉村真晴”に劣らない面白さを伝えていけるように、頑張っていきたいなと思ってます。

写真:吉村真晴/撮影:伊藤圭

__――和弘さんは。
和弘__:大きな目標があるのでその目標を達成するまで、達成してもですけど、もっともっと強くなって色んな人に僕のことを知ってほしいですし、琉球アスティーダのチームのことも広めていけたらなと思ってます。

__――大きな目標とは。
和弘__:言ったほうがいいですか。

真晴:控え目だな(笑)、今の自分を超えていこうよ。

和弘:わかった(笑)。2024年のパリ五輪を目指しているので、そこでしっかり代表になれる実力をつけて、日本に貢献したいと思っています。

写真:吉村和弘/撮影:伊藤圭

吉村兄弟ならではの方法で

アスリートも一人の人間だから、と吉村真晴は言う。

会えば距離も縮まるし、親近感も沸く。アスリートとファンで一緒に楽しいことやっていきましょうよ、と。

卓球という、敷居の低さが魅力のスポーツの普及に、そのアプローチは案外近道なのかもしれない。

確かに、取材者である私でさえ、この対照的で、でも爽やかなアスリート兄弟に、またすぐに会いたいと思うのだから。

写真:吉村真晴(左)、吉村和弘(右)/撮影:伊藤圭

取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

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