TikTokで話題の日本人画家、アジアのコレクター事情、化石をめぐる議論など:週刊・世界のアートニュース

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いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、10月10日〜16日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「続くコロナ禍での延期、閉鎖」「ヨーロッパでの脱植民地化の動き」「人種的マイノリティの見直しの動き」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの本」の6項目で紹介する。

ニューヨーク・フィルハーモニック本拠地のディヴィッド・ゲフィン・ホール 出典:Wikimedia Commons(Reinhold Möller)

続くコロナ禍での延期、閉鎖

◎ニューヨーク・フィルハーモニックも公演キャンセル
メトロポリタン・オペラに続いて、ニューヨーク・フィルハーモニックも来年2021年6月までのすべての公演をキャンセル。178年の歴史上最大の試練。皮肉なことに、これを機に先延ばしにされてきたホールのリノベーションが想定より早くできるかもしれないと。
https://www.nytimes.com/2020/10/13/arts/music/new-york-philharmonic-virus.html

◎公演再開を懇願
ブロードウェイやオペラ、フィルハーモニーなどが年間スケジュールをキャンセルせざるを得ないなか、Park Avenue Armory(パーク・アベニュー・アーモリー)やThe Shed(ザ・シェッド)など、席のない大型オープンスペースのシアター7館が合同で、客席を6フィート開けるなど必要措置を取ることで公演を再開させてほしいとニューヨーク州に嘆願。
https://www.nytimes.com/2020/10/12/theater/theater-reopenings-new-york.html

◎シンガポールの表現の自由に痛手
著名キュレーターのウテ・メタ・バウアーがディレクターを務めるシンガポールのアートセンター、NTU CCAがコロナの影響によるリストラでギャラリーを来年3月に閉鎖、リサーチとオンラインでの活動にシフトする。シンガポールの表現の自由にとっても大きな痛手であるとのこと。同施設があり、政府がアートを誘致してきた現代アート地区ギルマン・バラックスは他の画廊なども閉鎖が相次いでいる。
https://www.theartnewspaper.com/news/leading-singapore-art-space-to-close-in-march-2021

◎Art in Generalが閉鎖へ
39年にわたってニューヨークの若手アートシーンを盛りたててきた非営利のアートセンターArt in Generalが閉鎖を発表。コロナの影響で財政難にというのが理由としてあげられているが、アートスペースそのものは入場料無料。具体的な実情は報道からはわからないが、今年に入ってマンハッタンダウンタウンの新しいスペースに引っ越していただけに残念。
https://www.artnews.com/art-news/news/art-in-general-closing-covid-19-1234574078/

ヨーロッパでの脱植民地化の動き

◎オランダの決断
オランダの文化庁にあたる部門がコミッションしたリサーチによって、オランダは数十万点にもおよぶ美術品、宝石、文化遺産を過去に植民地支配した国に返すべきだと結論づけた。それらを所有するアムステルダム国立美術館をはじめとする数館はこれに同意しており、政府は来年初頭にこれを政策に移す意向。
https://news.artnet.com/art-world/netherlands-report-cultural-objects-restitution-1914398

◎サーミパビリオンへ名称変更
再来年に延期されたヴェネチア・ビエンナーレで、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド三国を代表するノルディック・パビリオンは先住民族サーミ人3人のアーティストを選出し、名称もサーミパビリオンに変更する。グローバルな脱植民地化の動きを受けたもの。
https://www.artnews.com/art-news/news/nordic-pavilion-changes-name-sami-2022-venice-biennale-1234573783/

◎アクティビストに有罪判決
パリのケ・ブランリ美術館の19世紀のアフリカの彫像はもともとアフリカから略奪されたものだとして、白昼に持ち出そうとしたアクティビストが逮捕された事件。その判決が出た。アクティビスト達の実刑は免れたが、25万円程度の罰金。
https://www.artnews.com/art-news/news/mwazulu-diyabanza-paris-trial-ruling-1234573853/

◎判決への批判
同じ判決に関して、美術メディアのハイパーアレルジックの記事では「ケ・ブランリ美術館で反植民地の抗議活動を行ったアクティビストに罰金刑」と報じる。実刑を免れたことではなく罰金が課せられたことを批判する論調。
https://hyperallergic.com/594764/quai-branly-museum-trial-verdict/

人種的マイノリティの見直しの動き

◎全米の美術館に大きな危機
コロナによる経済的打撃だけでなく、美術館運営の根底に無自覚的に存在していた構造的な白人至上主義の変革という2つの大きなうねりによって全米の美術館が大きな危機に直面している。グッゲンハイム美術館でのチーフキュレーターへの糾弾、フィリップ・ガストン展の延期、その他多くの美術館への抗議活動、そして美術館からの反応など一連の流れにしっかり追った必読の記事。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/museums/american-art-museums-covid-white-supremacy/2020/10/11/61094f1c-fe94-11ea-8d05-9beaaa91c71f_story.html

◎人種差別的な扱いを糾弾
アメリカ各地の美術館で組織のあり方の見直しが叫ばれる中で、ニューオリンズ美術館でも、これまでの黒人をはじめとする有色人種マイノリティ職員への人種差別的な扱いを糾弾し、抜本的な改革のために美術館をdismantle(取り壊す)せよとの文章に150人以上の作家が署名。
https://www.artforum.com/news/150-artists-arts-workers-sign-open-letter-calling-to-dismantlenoma-84214

◎黒人女性として初
シモーネ・レイが黒人女性としてはじめてヴェネチア・ビエンナーレアメリカ館の作家に選出。コミッショナーはICAボストンのキュレーター2名。22年のヴェネチアの展覧会は23年にICAボストンに巡回予定。シモーネ・レイは18年にHugo Boss賞を受賞、今年の1月にはハウザー&ワースに所属と快進撃。
https://www.artsy.net/news/artsy-editorial-simone-leigh-will-represent-united-states-2022-venice-biennale

できごと

◎約7億円の損害賠償がアーティストへ
グラフィティの聖地的な場所であったNYクイーンズ地区の5Pointzが高層ビル建設のために一夜にして白塗りにされてしまった事件で、デベロッパーが約7億円の損害賠償を21人のアーティストに支払うとする判決が最高裁で確定。裁判は7年に及んだ。
https://hyperallergic.com/593604/scotus-declines-to-review-5pointz-case-cementing-settlement-for-artists/

◎障害を持つアーティストへの助成金
フォード財団とアンドリューメロン財団が共同で、障害を持つアーティストへの助成金をスタート。20人にそれぞれ約500万円を助成。最近メディアや美術館などいろいろなところで名前を目にする、聴覚障害を持つアーティスト、クリスティーン・サン・キムも助成金を受ける一人。
https://www.artnews.com/art-news/news/disabled-artist-fellowships-ford-mellon-foundation-1234572173/

◎パフォーマンスの新境地
先日のFriezeオンラインで、じつは111時間ものパフォーマンスがInstagram TVを通じてストリームされていたそう。パフォーマンス会場の少数の観客とストリーミングのハイブリッドという新しい形式でパフォーマンスの新境地が見られたこと、またライブパフォーマンスが、退屈になりがちでメタなオンラインフェアのデジタル空間を活性化する力があることが見えて刺激的だったと振り返る記事。
https://news.artnet.com/exhibitions/frieze-live-2020-1914846

◎100歳の誕生日
11月15日になんと100歳の誕生日を迎える画家ウェイン・ティーボーを祝して、サクラメントのクロッカー美術館で個展が開かれる。じつはティーボーが若くて無名だったときに一番最初に個展を開いたのもクロッカー美術館だったとのこと。個展にはちょうど100作品が展示される。
https://observer.com/2020/10/wayne-thiebaud-100-birthday-crocker-art-museum/

◎TikTokで爆発的人気を誇る日本人画家
9月末の記事だが、日本人画家、柴崎春通の水彩画教室の動画がTikTokを通じて世界中で爆発的な人気を博しているそう。コロナの影響で、自宅でできる趣味をオンラインで探す人が急増したことも要因。インターネットの良さが詰まったストーリー。
https://news.artnet.com/art-world/japanese-bob-ross-harumichi-shibasaki-1911604

アートマーケット

◎ティラノサウルスの化石をめぐって、研究か商売か
先日のクリスティーズのイブニングセールで、アートに混じって、ティラノサウルスの全身像の化石が落札予想価格の4倍近くの33億円以上と、化石の史上最高値で落札された。購買者は匿名だが、私人である場合、研究に使われなくなるおそれがあること、そもそも化石が高額売買されるという前例ができたことで、今後化石が研究よりも商売に流れてしまうといった批判が科学者達から相次いでいる。
https://www.nationalgeographic.com/science/2020/10/stan-tyrannosaurus-rex-sold-at-auction-paleontologists-are-furious/

◎なぜ化石は高額で落札されたのか
こちらは同じティラノサウルスの化石セールについてのアートマーケット側からの分析。通常なら“地味な”自然科学セールで売られるはずの化石だが、世界中の大金持ちが集まるアートのイブニングセールに戦略的に持ち込まれることで破格の値段まで競り上がったと。また、同日行われたセール内の女性作家5人の作品の総額よりもこの化石一つのほうが7億円程度も高いとも。
https://news.artnet.com/opinion/gray-market-stan-tyrannosaurus-rex-1914817

◎ダラスのコレクター
テキサス州ダラスとアートというとピンとこないかもしれないが、もの派のアメリカでのブームのきっかけとなったラチョフスキーコレクションをはじめ、3家族が900作品300億円以上のコレクションをダラス美術館に寄贈するなど実はコレクターに勢いがある街。この記事ではさらに12組の若手コレクターを紹介している。
https://www.artnews.com/art-news/market/new-dallas-collectors-to-know-1234573840/

◎アジアのコレクター事情のまとめ
アートコレクターの層が厚くなってきているインドネシア、マレーシア、タイ、台湾のマーケットとコレクター事情のまとめ記事。本当に全世界でアートコレクターが増えていることが実感できる。
https://www.artnews.com/art-news/market/southeast-asia-taiwan-collectors-on-the-rise-1234572445/

おすすめの本

◎アートコレクター向けのハンドブック
UBSアート部門のグローバルヘッドによるアートコレクター向けハンドブックが改訂されて再出版されたとのこと。保険金がおりた後に作品が見つかったらどうなるの?コレクションはどのくらいの頻度で価格鑑定するべき?などの差し迫った疑問がある方には有用な本!
https://www.theartnewspaper.com/review/the-art-collector-s-handbook

◎バスキアと同世代のアーティスト、そしてヒップホップ
10月18日からボストン美術館で「Writing the Future Basquiat and the Hip-Hop Generation」と題したバスキアと同時代の作家達、ヒップホップを関係づける初めての大規模展覧会が開催される。2021年5月16日まで。ぜひ見たい展覧会。本展にあわせて発売される本からの抜粋が記事内で読める。
https://hyperallergic.com/589757/hip-hops-afrofuturistic-hive-mind-basquiat/