丸型デザイン「ホンダe」は“街の景色を変える”、EVとしての実力は?

ホンダにとって初めての量産ピュアEVとして登場したホンダe。その魅力と言えば、まずはスタイルでしょう。前から見ても後ろから見てもポイントとなる丸型デザインが目を引きます。ちょっぴりレトロな雰囲気とEVとしての先進性を感じさせる合わせ技のデザインは、多くのクルマに混じっても存在感を発揮します。


街の景色を変える?

2017年開催の第45回東京モーターショー2017で、ホンダeのコンセプトモデル、「ホンダ・アーバンEVコンセプト」を初めて目の当たりにしたとき「なんてキュートなんだろう」とすぐに思いました。当時、新開発されたEV専用のプラットフォームを採用し、ホンダにとって将来の量産EVモデルの技術とデザインの方向性を示す存在として日本ばかりか、世界中の人たちが注目していたクルマですが、なによりそのデザインに釘付けでした。

それから3年、アーバンEVコンセプトは「ホンダe」という、EVとしてとても分かりやすい車名とともに、ほぼコンセプトのままのスタイルで登場してくれたのです。もちろんそのデザインから「初代シビック」の香りを感じたのは私だけではないと思いますが、決して真似をしているという感じにはなりませんでした。

同時に、あるメーカーのデザイナーさんが「過去のデザイナーの真似と思われるようなことはしたくない」とお話しされていたことを思い出しました。でも、このデザインならば、真似という表現は当てはまらないと思います。ニューMINIやフィアット500と同じように「DNAの継承」として立派に成立しています。

何よりも魅力的なのはキュートな表情です。今のクルマの多くは切れ長で鋭いヘッドライトに、大きく口を開けたフロントグリルを持っていて、ある種の凶暴さを感じるのです。そんな中に、このほのぼのとした丸目と楕円の形で開いたグリルの優しい表情フロントマスクと同様に丸型コンビネーションランプを採用したリアスタイルもなんとも愛らしく見えたのです。この前後の表情を見ているだけでも本当に癒されます。

リアスタイルにもフロントマスクと同様の丸型デザインのコンボネーションライトを採用

さらにエンジンが不要なEVらしくボンネットは短めで、結果としてフィットよりも100ミリ全長は短く、対して車幅は広めという安定感のあるハッチバックスタイルです。このデザインで乗り出せば車群の中にあってもかなり目立つ存在だと思います。ひょっとしたら街の景色さえも変えるような、柔らかさを持っているデザインだと思います。

シンプルで落ち着く内装

つぎにインテリアですが、こちらもどことなく初代シビックのラウンド感あるインパネや、リビングのようなくつろぎ感あるシートなどという点では共通するにおいを感じました。それでもしっかり先進性、未来感を表現できているのです。何よりも大型ディスプレイの存在が目立ちます。

インパネには液晶モニターがずらりと並んでいます。その内訳ですがメーター部分には8.8インチ、センター部分に12.3インチが2枚、さらにサイドカメラミラーシステム用の6インチモニターが両端にあります。まさにインパネはモニターだらけ。ですが決して散漫になることなく、情報が整理されて表示されますから、見にくくは決してありません。

2枚の12.3インチ液晶モニターにはナビゲーションを始めとした情報が映し出されます

さらに感心したのはシートのシンプルなデザインです。最近ではシート表皮に至るまで凝った作りや、過剰なデザイン、煌びやかなステッチなどで飾り立てたクルマも多く見かけます。ところがホンダeのインテリアはさりげなく、ひょっとすると寂しいとか素っ気ないとも取られるかもしれませんが、ホッとするのです。

エクステリア同様に、さりげなく、安らぎを感じさせるデザインと素材感は好印象です。モニターが並んだ先進的なインパネと、シンプルなシートデザイン、そしてコンパクトなセンターコンソールに並んだ押しボタン式のシフトセレクターなど、その組み合わせは、まさに落ち着けるリビングの佇まいといえます。

ホールド性もよく、座り心地のよかったフロントシート

広さにおいても大きな不満はありません。全幅はフィットより50ミリ広いため、室内も窮屈な感じがあまりないのです。全長が短くなったとはいえ、居住性への影響はほとんど感じません。

ただ、ロングドライブを経験していないため、シートの座り心地をしっかりとチェックするまでには至っていませんが、ドライビング中に座り直したり、ポジションを変更したりする必要はありませんでした。ただし、リアシートは座面の前後長が少し短めでしたから、座り心地やロングドライブでの座り心地はよくないかもしれません。

キュートで楽しい車であるからこそ

そんなホンダeとのドライブ、実に快適です。ホンダとしては珍しい後輪駆動(FR)です。これによって前輪の切れ角が大きく確保できたため、その回転半径は軽自動車並みの4.5メートル。全長も短いため、本当に小回りがききます。実は試乗会場に道幅3.5メートルの路地裏を模したような特設の迷路コースがありました。

道幅3.5メートルの迷路を段ボールを積み上げて作り、そこを切り返し無しで走行出来る

そこで一度も切り返すことなく迷路を一筆書きで走れると言うのです。実際にチャレンジしたのですが、残念ながら一度だけ切り返しを行いました。もちろんそれはクルマのせいではなく、私自身の油断からです。

その後は市街地や高速道路を走りましたが、FRスポーツカーのような楽しさを十分に感じながらドライブ出来たのです。この点においても前輪駆動(FF)車が圧倒的に多くなった現在、後輪駆動でパワーを伝え、前輪でコーナーを切っていくというスポーツ走行ならではの気持ちよさを思い出すことが出来たことも大きな収穫です。

ちなみにモーターの最高出力は154馬力、最大トルクは315Nmで、その加速感はけっこう強烈です。スタイルだけでなく走りでも“楽しさ”を思い出させてくれる存在だったのです。

充電量や航続可能距離などの表示も視認性がいい

最後には「このキュートで、スポーティなハッチバックと共にずっと走っていたい」という気分になったのです。しかし、ここからが問題です。このホンダeの搭載されるバッテリーは35.5kWh。アドバンスの場合ですが、その航続距離はWLTCモードで259kmとなっています。初代の日産リーフが20kWhでJC08モードの航続距離は200kmでしたが、実装テストをすると100km少々というところで充電するのが安全圏でした。

ホンダeはそれ以上に厳しいモードで259kmですから、それよりは確実に走りますが、実走では200km少々という感じかもしれません。しっかりとテストしたわけではないのでなんとも言えないのですが、リーフの40kWhよりはやはり20~30kmぐらいは短いと思います。メーカーのいうところの「シティユースとして、多くのユーザーの使い方を見れば、これでその役割は果たせます」という理由も、もちろん分かります。

確かにバッテリー容量を増やせば航続距離も伸びますが、一方で車重も増して消費電力も増え、その損益分岐点が実に難しい設定となります。

なんとも悩ましい問題をEVは抱えていることは理解した上で、現在はまだ日産のディーラー頼りのようになっている急速充電インフラが気がかりです。あの道の駅やSAなどでの、殺伐とした充電待ちの状況を考えると、なるべく充電回数は減らしたいとも考えてしまうのです。

そして標準タイプが451万円、アドバンスが495万円という価格で、補助金はあるとは言え、これをセカンドカーとして考えるのはやっぱり辛いというのも本音です。何よりも、この素晴らしくキュートで楽しいクルマと一緒に、思い立ったら気軽に大きな心配もなくロングドライブを出掛けて存分に楽しみたいのです。クルマが魅力的であればあるほど、その気持ちが強くなってしまいました。

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