オンラインツアーで京都・嵯峨野の魅力を実況中継 JR西日本がアリババとバーチャル旅行イベント JR東日本もオンライン旅行に注力

嵯峨野観光鉄道イメージ 写真:いってき / PIXTA

紅葉の季節を前に古都の観光名所・嵯峨野をインターネットで発信する、中国向けの旅行プログラムが9日に実況放映されました。世界最大級のネットショッピングサイトを運営する、中国のアリババグループがJR西日本と共催した「京都バーチャル旅行イベント」では、JR西日本グループの嵯峨野観光鉄道のほか、嵐山の竹林や名刹が2時間以上にわたり生中継されました。JR西日本とアリババは昨秋、西日本エリアへの送客拡大を目指す相互連携に合意しており、今回は関西圏を対象とした初めての催しとなります。

中国の皆さん、コロナが収束したら京都へおこしやす!

京都バーチャル旅行イベントのワンシーン。スマホ視聴者向けに画面は縦長、嵯峨野トロッコ列車は「サガノ・ロマンチック・トレイン」と意訳しています。 画像提供:京都バーチャル旅行イベント事務局

コロナの今年は大きく様相が変わりましたが、中国の人たちにとって日本は最も人気のある旅行目的国です。日本国内の旅行先は東京や大阪の大都市が多いのですが、JR西日本は北陸や山陽・山陰にも足を向けてもらおうとアリババとの協業を決めました。

アリババは本国で旅行プラットフォーム「フリギー(Fliggy)」を運営し、旅行情報の提供とツアー申し込みを一元的に手掛けます。JR西日本と管内の観光関係団体はアリババとの連携で、西日本エリアの認知度を向上させ中国人旅行客を呼び込む構えです。JR西日本はウエストレールパスに観光施設入場券などをセットした電子チケットを販売するほか、観光列車を組み込んだ団体旅行商品、会員向け特典の提供などに取り組みます。

今回、本題のバーチャルツアーですが、私が最初に思ったのは果たして中国にもトロッコを使用した観光列車が存在するのかという素朴な疑問。インターネットで「中国のトロッコ列車」と検索しても出てくるのは日本の中国地方の観光列車ばかりで、どうやら中国では鉄道で観光に出掛けても、鉄道を観光資源化する発想はこれからのようです。山陽新幹線や「WEST EXPRESS銀河」より前に、「嵯峨野トロッコ号」をPRしたJR西日本はなかなか賢明といえそうですね。

2時間以上も嵯峨野から実況放送

番組MC(左)が人力車の車夫と記念撮影。画面には視聴者からのコメントが次々と表示されます。 画像提供:京都バーチャル旅行イベント事務局

途中CMなし、正味2時間10分の特別プログラムはトロッコ嵯峨駅からの中継でスタート。5両の客車をディーゼル機関車で押して運転すること(トロッコ亀岡行き)、客車には窓ありと窓なしの2タイプあること、車内には木製のいすが設置されて自然に浸れることが丁寧にリポートされました。トロッコ嵯峨駅にはD51などのSLを展示した「19世紀ホール」があり、展示車両を映すなど中国の鉄道ファンを意識した中身でした。

トロッコ嵯峨野駅からは人力車で嵐山観光に出発。駅近隣には数多くの社寺がありますが、観光地として独立しているのでなく住宅街の一角に長い歴史を持つ名刹があったりするのも、中国の方には珍しいのではないでしょうか。人力車の車夫(というのでしょうか)は簡単な中国語ならOKで、途中インスタ映えする竹林で写真撮影をサービスするなど、日本人のホスピタリティ(もてなし)もしっかり伝えました。人力車を下車した二尊院では、住職が参拝の方法などを丁寧に説明していました。

オンラインの次は列車で訪れて・JR東日本

JR東日本とヒューバーの協業イメージ 画像:JR東日本の資料から

新型コロナで自由な観光が難しくなって、注目を集めるのがオンラインツアーです。元々、旅行は目的地に行かないと魅力が分からない〝お試しの利かない商品〟という性格を持ちます。その点、オンラインツアーは「バーチャルで魅力を知ったら、次は本当の旅行で訪れてほしい」という試供品的な意味合いを持ちます。ここからはJR東日本の施策で、同社もデジタルツアーに力を入れます。

JR東日本は10月6日の深澤祐二社長の定例会見で、生活サービス事業の「DX(デジタルトランスフォーメーション)加速」の一環としてオンラインツアーに注力する方針を表明しました。生活サービス事業は駅ビルや飲食といった鉄道以外のいわゆる関連事業、DXはデジタル技術による業務・ビジネスの変革で、列車を走らせる実業を本業とするJR東日本も今後はネットビジネスの強化が欠かせないという認識です。

具体的なDX化で、ふるさと納税、デジタル地域通貨とともに挙げられたのがデジタルオンラインツアー。神奈川県鎌倉市に本社を置くスタートアップ(ベンチャー)企業のHuber.(ヒューバー)と協業します。ヒューバーは観光PRや観光案内所運営を手掛ける新興企業、JR東日本のベンチャーコンテスト・スタートアッププログラムで2017年度の優秀賞を受賞しました。JR東日本はヒューバーのバーチャルツアーで関東や東北、北信越の魅力を発信。「地域産品の販売+魅力紹介」で、国内外に管内の地方圏を売り込みます。

「おうち旅ルミネ」で佐渡島へ

ルミネのおうち旅では、参加者がボックスに入っていた地酒で乾杯。しばしのオンライン飲み会で佐渡への思いを語り合いました。 画像提供:ルミネおうち旅事務局

JR東日本のオンラインツアーをいち早く実践したのが、新宿、大宮、横浜などで駅ビルを運営するグループ企業のルミネ。ルミネは9月6日、「おうち旅ルミネmeets佐渡島」と題し、新潟県佐渡市(佐渡島)へのオンラインツアーを実施しました。

ツアー参加者は49人で、事前に佐渡の特産品を詰め込んだ「旅じたくボックス」が届きます。当日はボックスを開きながらネット放映される佐渡の郷土料理・海士町そばづくりなどに挑戦しました。ゲストは郷土芸能・鬼太鼓(おんでこ)の芸能集団「鼓童」で、勇壮な太鼓の響きが島への旅情をかき立てました。参加者はテレビ会議システムを使い、佐渡の人たちと交流しました。

バーチャルながら、参加者は「いろいろな人とお話しできてよかった。他の参加者との一体感もありすごく楽しめた。イベントが終わったら早速ガイドブックを買いに行こうと思います」と大満足。渡辺竜五佐渡市長も「コロナによるピンチの中、オンラインツアーは実際に佐渡を訪れていただく次のステップにつながる」と評価しました。

オンラインで京都に修学旅行

旅行会社もオンラインツアーに熱い視線を向けます。近畿日本ツーリストの地域子会社・近畿日本ツーリスト首都圏は、中学校向けの「リモート修学旅行」を企画しました。オンライン会議システムのZOOMを利用。奈良・薬師寺の僧侶による法話のほか、扇子、漆器、舞妓鑑賞などの伝統文化体験、京都を楽しみながら学ぶクイズ大会といったプログラムを用意します。総合司会は吉本興業の関西在住芸人が務めます。

文:上里夏生

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