400万円の物件を310万円で購入、資産5億円投資家の交渉術とは?

総資産5億円の物件を持つ不動産投資家の束田光陽さん。コロナ禍の中、今年に入り8件の物件を購入したという彼は、なぜ今の状況でも強気に物件を増やせるのでしょうか。その裏には、束田さんが口にする「どローカルのエキスパート」と「資金繰りのテクニック」が関連しています。前回に続き、束田さんに話を聞きました。


特定の物件、エリアのデータベースを頭の中に作る

――前回、川越にあるマンション(※ここでは「マネプラマンション川越」とします)のエピソードを伺いました。今年に入り、まず1室を310万円で購入。そして偶然にも隣室が400万円で売りに出されたと。

はい。それに対し、私が「隣の部屋を310万円で買っているので400万円を払う気にはなれません」と伝えたところまで話しましたね(笑)。その結果、隣室と同様、310万円で購入できたのです。

――強気の交渉が功を奏したんですね。

そうですね。ただ、やみくもに交渉してもうまくはいかないでしょう。大切なのは、自分の中に明確な基準を持つことです。今回なら、私は“マネプラマンション川越相場”を熟知しています。300万円〜500万円という値動きのレンジを理解しているからこそ、ここまで明確に交渉できるんです。

よく物件価格を考えるとき、駅から徒歩何分や築何年といった項目をチェックしますよね。でもそこは重要ではないんです。それらをふまえて、このマンションの価格相場はいくらなのか。それに対し、この売値は安いのか高いのか。明確な基準を持って今の価格を見ることが重要なんです。

――でもどうやってその基準を作るのでしょうか。

たとえばマネプラマンションのように、ひとつの物件に着目してずっと動きをチェックするのが一番簡単です。その次に、どこか一箇所にエリアを絞って、その地域の物件を徹底的に見るのもいいでしょう。たとえば私が今年購入した8件の物件のうち、4件は川越です。私は川越が大好きで、川越の相場を熟知していると自負しています(笑)。

川越駅は、山手線の池袋駅から東武東上線で30分の距離にあり、通勤に使える。以前話した「ファミリータイプ大化け戦法(※リンク貼る)」にもピッタリのエリアです。そこで、川越をターゲットにしぼり、ここで売り出される物件をくまなく見る。すると、頭の中に川越のデータベースができます。マンションの大きさやタイプによる高値・安値の相場観ですね。

――株でいえば、特定の「業種」に特化して企業を研究するような……

そうですね。川越市ならせいぜい数十件~数百件程度。それなら会社四季報に掲載されている3,000件以上の企業情報を見るより簡単です。そうやってターゲットを絞り、「どローカルのエキスパート」になるべき。すると明確な価格の基準ができて強気に交渉できます。

不況のために「現金」を準備しておく

――ちなみに今年の8件は融資を受けて購入したのでしょうか? 銀行も今は簡単に融資をしなさそうですが……

ですよね。実際、今年の8件はすべて現金で買いました。でも、これはたまたま現金があったからではないんです。むしろ、こういった不況時のために準備しておいたから。日頃からこの時期に現金が手元にあるよう戦略を練ってきたからです。

――どういうことですか?

あくまで個人的な感覚ですが、市況が上がっている時期、上げ相場のときは銀行の融資も通りやすいと言えます。その時期は、融資を積極的に活用して物件を買います。あわせて、この時期に手元の現金も増やしておきます。増やした現金はすぐに使いません。不況が来たら、融資が通りにくい時期ですから、貯めておいた現金で物件を買うのです。そのときのために日頃から手元資金には手を付けず、融資を利用することによって、現金を貯めておくのです。

――現金を貯めると言っても、どうやるのでしょうか。

それは融資におけるテクニックにも通じます。不動産投資家が融資を受けるとき、銀行は2つの数字に着目します。

1つ目が「バランスシート」。その人の資産と負債(借金)のバランスを見るもので、資産が上回っているほど銀行は融資しやすくなります。

2つ目は「キャッシュフロー」。毎月の家賃収入と借金返済のバランスです。こちらは家賃が返済を上回ることが条件です。実際は、税金や管理費などで収入はもっと少なくなるし、空室リスクもあるので。理想は、家賃収入に対する返済の割合(返済比率)が50%くらい。

今回大切なのは、バランスシートの方です。実は融資を受けて物件数を増やしていくと、だんだんバランスシートが悪くなってくるのです。

「バランスシートの修正」と「現金確保」の関係とは

――どういうことですか。

たとえば1億円の物件をフルローンで購入したとします。すると、この物件の資産は買った瞬間に低く見積もられます。不動産の資産評価は、相続税評価の手法(路線価)で計算されるので、おおむね70%ほどになるんですね。すると、借金に対して資産は低くなる。結果、融資を受けてどんどん物件を増やすと、バランスシートが悪くなり、あるとき銀行から「ちょっと厳しいですね」と融資を断られることになります。

そこで、傾き始めたバランスシートを調整する必要が出てきます。積み木をやる際、傾いてきたら土台部分を調整するように。私が調整のためによくやるのは、単純に「売却」することです。

――売却ですか。

はい。一般的に、ローンで購入して5年、10年と経てば借金はどんどん減っているはずです。一方、物件の売却価格は大きく落ちない。そこで売ってしまえば、借金は減り、さらに物件の売却額と残り借金の差額が現金で入ります。そうして、バランスシートの傾きが修正されるのです。

これは、以前お話しした1億円超えのフルローン物件を買ったときに行った手法です。またいずれ融資が受けられるように、バランスシートの修正目的で売却していくのです。

――その作業を行う中で現金を手元に確保して、不況時の物件購入に充てると…

その通りです。バランスシートの修正は、不況時に現金で物件を購入するための「準備」でもあるわけです。これをきちんとやっておくと、ある意味で“お買い得”な不況時の物件を購入できます。

たまたま現金があったから買えた、ではなく、そのときを見据えて現金を準備しておく。それが不動産投資では大切です。そして、今回出てきた「融資の活用」や「銀行との関係」も、不動産投資を拡大させるには欠かせないものです。

融資や銀行との関係については、次回詳しく伺います。

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