原発処理水は、南鳥島に海洋放出しかない|松沢成文(日本維新の会参議院議員) 福島原発の処理水の現状を放置したままでは原発の廃炉は進まず、福島の復興はありえない。政府は一刻も早く処分方法を決定し、実行しなければならない。一方で懸念されるのが風評被害の拡大だ。そこで、各方面からの反対意見を最小化し、早期に実現できる画期的な方策を緊急提言する。

衆愚政治の極み

「原発処理水は、南鳥島に運んで海洋放出すべきだ!」

3月3日、私は参議院予算委員会でこんな大胆な提案を試みたが、これが大きな反響を呼んでいる。

原発処理水とは、原廃燃料デブリを冷却する時に発生する放射能汚染水(そこに流れ込む地下水を含む)を、ALPSと呼ばれる多核種除去設備で処理した水のことだ。ほとんどの放射性物質は除去できるが、トリチウムだけは残ってしまうのでトリチウム水とも呼ばれている。

トリチウムは水とほぼ同じ性質のトリチウム水として自然界に存在しており、私たちは日常生活において水蒸気などに混じって気体状のトリチウムを吸い込んだり、水道水などにふくまれているトリチウム水を飲み込んだりしている。

この原発処理水が、福島第一原発の敷地に留まり続け、現状では120万トン、1000基のタンクが立錐の余地なく並んでいる。その姿を皆さんも報道写真などで見たことがあるだろう。このタンク用地はもはや拡張の余地がなく、いよいよ2022年夏までに最大137万トンのタンク容量は満杯となる。

この処理水の処分方法を一刻も早く決定し、処分を開始しなければ大変な事態に陥る。最終目標である廃炉を進めることができなくなるからだ。廃炉するには、放射性廃棄物の置き場や工事用の専用重機の置き場などスペースが必要で、処理水のタンクに占拠されていては、廃炉作業は実行できない。

しかしながら、この問題に対する政府の対応も混乱気味だ。2019年9月の内閣改造直前に、原田義昭環境大臣(当時)から処理水に関し、「所管を外れるが(所管は経産省)、思い切って放出して希釈する方法しかないと思っている」という発言が飛び出した。すると、後任の小泉進次郎新大臣は「発言は前大臣の個人的な所感」だと陳謝してしまう。

こうした政府高官の定まらない発言を見かねて、日本維新の会の松井一郎代表が「科学的根拠をもって、まったく自然界のレベルのものを否定する必要があるか」と述べて、大阪湾で海洋放出する意思を示し、大きな注目をあびた。

そこで、私たち日本維新の会は、日本の政党として初めて2019年の10月7日に緊急提言を行った。概略は以下のとおり。

◯ALPSの性能は向上し、トリチウム以外各核種を告示濃度まで低減することを実現している。トリチウムも、これまで全国の原発で実施してきたように希釈することによって告示濃度を満たすことができる。

◯海洋放出は世界中の原発で行われており、わが国においても運転基準に基づくトリチウム水が40年以上にわたって排出されているが、近郊の海水のトリチウム濃度は世界的な飲料水の基準を大幅に下回っており、健康への影響は確認されていない。

◯政府のALPS小委員会(専門家会議)においても、「海洋放出と水蒸気放出が可能だが、技術面、コスト面を考えると海洋放出が最も現実的だ」と提言している。

◯原子力規制委員会の更田委員長も「ALPSで処理した処理済水については、規制基準を満足する形で十分な希釈を行ったうえで、海洋放出すべきだ」と発言している。

◯以上を総合的に検討した結果、トリチウムを含む処理水は、原子炉等規制法で定める基準を満たすように処理したうえで、早期に海洋放出すべきと考える。政府の早急な決断を求める。

この日本維新の会やALPS小委員会の提言もあり、政府内でもどのように対処するか検討しているようだが、未だに処分方法すら決められていない。衆愚政治の極みである。

ここにきてようやく政府は4月から処理水の処分方法について、関係者の意見を聞く会を開催している。東京電力も少量ずつ長期間かけて海洋放出する案を提示したが、地元関係者から反発が相次いでいる。このままでは、福島第一原発の敷地から処理水があふれ出すどころか、廃炉工程に大きな支障をきたし、福島の復興も進まない。この決められない政治をいつまで続けていくのか。

風評被害を避けるため

それでは、政府が処分方法を決断できない最大の理由は何だろうか?それは風評被害の拡大である。

福島県の農業者、漁業者は、東日本大震災発生以後、放射能に汚染されている生産物を出荷しているというレッテルを貼られて苦しみ続けてきた。消費、生産、流通が縮小するなかで必死の努力を重ねて再生を図ってきた。福島沖では第一原発から10キロ圏内を除き、操業日数や漁獲規模を限定して出荷先の評価を探る試験操業が行われている。

ところが、19年の漁獲量は再開以来初めて前年を下回り3584トンに低迷し、震災前の2010年と比較して13・8%に留まっている。この状況で原発処理水の放出処分を決定し開始すれば、いくら安全性を説明したとしても、新たな風評被害が蔓延し、福島の農業と漁業は壊滅的な被害を受け崩壊してしまう。現に、福島県民世論調査では、処理水の海洋放出に対して、なんと57%が反対している。強行すれば反対運動が起こり、大混乱することになろう。この風評被害による混乱を恐れ、政府は決断できないのである。

そこで、この状況を打破するために、私の個人的な見解として、南鳥島に輸送したうえでの海洋放出を提案した。その要点を説明しよう。

まず、南鳥島は日本列島の東南方向に、東京から1950㎞、硫黄島からも1280㎞も離れた日本最東端の地として知られる絶海の孤島である。面積1・51㎢、海岸線延長6㎞の小島だが、海上自衛隊管理の1370mの滑走路もある。住民のいない無人島であるが、国交省、防衛省の職員が交代で駐在している。さらに、2010年度より停泊地を造るための岸壁工事が始まり、2022年度に完成予定である。

この太平洋に浮かぶ小島に原発処理水を運び、陸上のタンクに注水して再処理したあとに、希釈して海洋放出するというのが私の提案である。

それでは、この提案にはどんな優位性があるのだろうか。

まず第一に、風評被害による影響が極めて小さく、継続的かつ安定的な処分が可能となる。福島から2000㎞近くも離れていれば、トリチウム処理水の海洋放出による風評被害も出ないのではないか。沿岸漁業者はおらず水産物の放射性汚染被害、並びに風評被害も限りなく小さい。島周辺にはマグロを獲る遠洋漁業者が操業しているが、広大な太平洋のなかでは代替海域も広く対応可能だろう。 また、韓国など放射能汚染に過剰反応する国が反対するかもしれないが、韓国からは3000㎞近く離れ、海流の影響も全くない。そもそも自国の原発で海洋放出をしながら、日本に異議を申し立てる資格はない。

このように、福島で海洋放出するのと比べて、風評被害が極めて小さいことは明らかであり、継続的で安定的な処分が可能となるだろう。

次に、南鳥島は生活を継続的に営む住民がおらず、地域、つまり地方自治体の理解を得やすい。この島は東京都小笠原村に属するが、村にとっても住民が居住する小笠原諸島から1200㎞も離れており、無人島の南鳥島とは経済的にも繋がりが薄く、理解が得やすいだろう。

東京都も、かつて東日本大震災で発生した瓦礫処理を大阪府とともに率先して受け入れた経験があり、福島復興への貢献として理解していただけるのではないか。地域住民に被害が及ぶことは、どの自治体も受け入れにくいのが当然だが、南鳥島は他とは大きく異なる極めて稀な立地条件の下にあり、地元自治体の理解が得やすいと考えられる。

インフラ整備も輸送も可能

最後に、処分に必要なインフラ整備と処理水輸送が可能であるということだ。

現在、南鳥島では活動拠点整備事業として、水深8m延長160mの岸壁が建造中である。この岸壁に処理水を積んだ船を接岸することも可能だ。さらにその近くに、海洋放出前に処理水を一時保管するタンクや再処理施設を設置することも可能だ。国連海洋法条約とロンドン条約及び同議定書によって、原発処理水の海洋放出は陸上からしかできないことになっているので、一度タンクに水揚げして再処理したうえで、海水と希釈し海洋放出する。

処理水を運ぶにはタンカーあるいはコンテナ船が必要となるが、水である以上、コンテナに詰め込むのは不向きでタンカーで運ぶしかないだろう。仮に、最大貯蔵量137万トンの処理水を30万トン級の大型タンカーで運べば5往復で輸送できる。この場合は、島の近海で停泊してホースでタンクにポンプアップすることになろう。

一方、現在建造中の岸壁に着岸できる5000トン級の小型タンカーを使うのであれば、単純計算で300往復程度必要となる。もちろん、複数の船を使えば往復回数を減らすことができる。一方で、処理水は廃炉が完了するまで発生するので、その分の回数は増えることも付け加えておく。

このように、福島第一原発処理水のタンカーによる南鳥島への海上輸送と南鳥島でのタンクへの水揚げ、そして再処理したうえで希釈しての海上放出という提案は決して実現不可能ではないと思われる。

とはいっても、立ちはだかる課題もいくつかある。まず、原子力規制委員会が、トリチウム処理水のタンカーによる海上輸送を認可するのかという問題だ。ただこの問題については、すでに放射性廃棄物の海上輸送が行われており、また、前述のとおりALPS小委員会が海洋放出に前向きなので不可能ではないだろう。

次にコストの問題だ。原発処理水の処分費用は、設置運営者である東京電力が責任をもつのが原則である。遠隔地に海上輸送しての海洋放出という一大計画なので、試算するのは難しいだろうがかなりのコストが予想される。しかし、福島第一原発での保存対策や風評被害対策には、どれくらいのコストがかかるかも想像できない。さらに、処理水処分の遅れによる廃炉工程全体への影響ははかりしれず、そのコストは天文学的な数字となろう。早期解決を優先したうえで、コストパフォーマンスを比較すれば、南鳥島提案が優位に立つと考える。

ただ処分方法は最終的には国が決定し、国策として推進してきた原発のトラブルを解決することは国益上必要不可欠である以上、国の支援も当然検討すべきであろう。

担当大臣の官僚答弁

以上が福島原発処理水の南鳥島への海上輸送による海洋放出の提案である。

参議院予算委員会における私のこの提案に対し、担当の梶山弘志経済産業大臣からは、次のような答弁が返ってきた。

「南鳥島への処理水を移送することについては、大量の液体放射性廃棄物を海上移送した前例がないために、長距離運搬する方法の検討やそれに関する原子力規制委員会の許認可により時間を要するものと考えております。政府としては、風評被害対策も含めて、今後、地元を始めとした関係者の御意見も伺った上で、ALPS処理水の取扱いについて責任を持って結論を出してまいりたいと考えております」

なんと無味乾燥で悠長な官僚答弁だろう。要するに、前例がないし、時間もかかりそうで、なかなか難しいと言いたいのであろう。政治家としての解決に向けての意欲が全く感じられない。

改めて申し上げるが、福島原発の処理水の現状を放置したままでは原発の廃炉は進まず、福島の復興はありえない。政府は一刻も早く処分方法を決定し、実行しなければならない。私のこの提案は各方面からの反対意見を最小化し、早期に実現できる画期的な方策だと確信している。

もとより、私は研究者ではなく政治家なので、問題解決のための大方針を提案した。

この問題に詳しい方や利害関係者の皆さんのご意見ご批判を賜れれば有難い。反論や異論がある方には、批判するだけでなく是非とも早期解決への代案を示していただきたい。そうした議論を活性化させ、衆知を集めて国難を乗り切らなければならない。(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)

松沢成文

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