「俺は電子メールは見ない主義」という部長クラスも 1990年代、IT化で激変した日本の職場

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IT化で急激に変わった職場

前回の記事では、現在50代以上の昭和型上司のデジタルへの恐怖はWindows95が引き起こしたものであることや紙への並々ならぬこだわりはそのトラウマによる反動であることをご紹介しました。(前回はこちら)

今回は、題して“電子メールの悲哀”です。業務効率化が叫ばれて久しいですが、我々昭和のおじさんが若かりし頃は「業務効率化」という言葉はなかったのかというとそんなことはなく、当時から“テクノロジーを活用して業務効率化をする”という必要性が叫ばれていました。

業務効率化を謳う「Windows95」は「一太郎」や「ロータス123」などのワープロソフト(当時は”ソフト”と言っていました。アプリという言葉はまだない時代です。)にはない機能や「見た目」(インターフェイスという言葉もなかったかと思います)を兼ね備えていました。

日本の技術が世界一だと思っていた中で、米国からやってきた「Windows95」はとてもセンセーショナルで、これで一気に間接業務がなくなり連日深夜にまで及ぶサービス残業がなくなるかと誰もが思いました。そこに満を持して登場したのが電子メールです。

ファクスで送られてきたものを普通紙にコピーする、という仕事があった

電子メール以前はどうしていたのか? 今更ですが、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。電子メール以前、我々は電話とファクスを使い分けていました。基本は電話ですが、記録を残したり、急ぎではない案件にはファクスを使うというルールがあり、ファクスの送付状のフォーマットを各社揃えていたものです。

ファクスの感熱紙については想像もロール状になって印字されてくるため見づらいという欠点があり、それを女性事務員が普通のコピー用紙にコピーをして上司が見やすいようにするという業務もありました。ファクスが普通用紙で印字されないために、普通のコピー用紙にコピーをするという時代はその後も長く続きました。今考えるとペーパーレスという意識はなかったかもしれません。コピー用紙の追加、ファクシミリ用紙(感熱紙)の交換という重大な業務もありました。今のようにネットで注文し即配達してくれるようなサービスはもちろんなく、品切れすると大事件でした。

それに加えて登場したのが電子メールです。何しろ、感熱紙もコピー用紙も送付状も不要という今までの不便さを全て解消するモノだったのです。1997年には、私の勤めていた企業にも電子メールが導入され、電子メール第1号(通)を人事部員が全員見守る中で送信し、200メートル離れた先の受信者に確認すべく全員で走って行って受信トレイを確認したことを今でもはっきりと覚えています。これは凄い時代がやってきたと確信しました。(文:People Trees代表 東野 敦)

「俺はメールは見ない主義」と部下にチェックさせる部長たち

しかしながら当時20代だった我々に立ちはだかったのが当時の50代以上の方々でした。口頭で電子メールを打つことを指示し、タイピングをさせてくれる方はまだマシで、人差し指でキーボードを打ちメール1通打つのに午前中を費やす人、そもそも電子メールを「俺は見ない」という男気を見せているつもりの人など、様々な人が現れ、折角のデジタルテクノロジーをどんどん形骸化させる圧力がかかってきたのです。

代表的な圧力を紹介しましょう。

(1)電子メールを失礼な方法だと断罪する圧
(2)俺はメールは見ない主義なので、部下が受信トレイを1日2回開け、メールが来ていたらプリントアウトしてホンモノの「受信トレイ」にコピー用紙を入れろ、という圧(当時の部長級はほぼそんな指示でした)
(3)電子メールの宛先の順番には絶対にこだわれという圧
(4)電子メールなのに書状と同じ文面(拝啓~季節の挨拶~敬具)を要求する圧
(5)電子メールを送ったら送った旨ファクシミリを送り確認するという圧

こうして、様々な電子メール利用上のマナーが生まれました。

私や周辺の同僚が最も苦労していたのは(3)の電子メールの宛先の序列です。大企業にお勤めの方には理解いただけるかもしれませんが、当時は今よりも役員の数が多く、部長も多い時代でした。

例えば100人いる役員~部長全員に電子メールを送ろうとすると、同じ部長の肩書でも誰の年齢が上か、どちらが先に部長に昇格したのか、そもそも同期だったら格上はどちらかなど、地道な情報収集を続け、オリジナルの社内序列表を当時の人事部員はこぞって創り上げていました。

その作業だけであっという間に夜が更け、朝が来ていたのです。時には序列を間違えて上司に怒られたりもしましたが、電子メールの送信ボタンを押した後の達成感はものすごいものでした。その苦労に嫌気がさして、ファクシミリの方が早いとか、電話で済ませたいと思った同僚もいました。その残党が今でも電話を業務で使い続け、ファクシミリで受発注を行っています。

電子メールを通じて昭和のおじさんが学んだこと

以上の事例を踏まえ、当時の我々が電子メールの導入時に学んだことはただ一つ、「デジタルテクノロジーの導入は必ずしも業務効率化にはならない」ということなのです。だから昭和のおじさんはDXには慎重な姿勢を崩しません。当たり前です。

「このアプリを入れたら〇〇が△△分削減され、業務効率化につながります」と提案を受けても電子メール導入時のトラウマがある昭和のおじさんは「ホントに?」と懐疑的になってしまいます。昭和のおじさんに?Ⅹ施策を提案する際は是非、「ホントにそうなること」を証明し、運用で変なルールを作らないことを約束すれば承認してくれます。

これを笑いながら見てる若い皆さんの会社でもSlackやWebミーティングなどで変なルールありませんか?? きっと思い当たるところがあるのではないでしょうか。それでは、今回のまとめです。

・昭和のおじさんは電子メールというデジタルテクノロジー導入がトラウマになっている
・よってDXは「分からない」のではなく「やりたくない」というのが本音
・便利なテクノロジーに変な社内ルールを作ってその良さを消すのは抵抗勢力の常套手段

【東野 敦】
SUBARU・本田技研工業・江崎グリコにおいて人事を担当。主に海外進出や現地法人・国内グループ会社の人事部門の支援を行い、担当した国は20か国以上に上る。2019年にPeople Trees合同会社を設立。大手企業の副業メンバーを束ね、企業の経営者と共に志の溢れる人・組織を作るべく奔走中。【企業サイト:https://peopletrees.co.jp/