消費によって日本の産業、技術を守る。さわかみ投信株式会社代表・澤上龍氏が語る我々がすべきお金の使い方とは

日本の産業や技術の中には次の時代へと残していくべき素晴らしいものがいくつもあります。しかし、残念ながらそれらの中には時代とともに失われていってしまうものもあります。そんな産業、技術、文化を守るために、私たち一人ひとりができることはあるのでしょうか。

今回は、投資を通じて日本の産業を育て、面白い世の中を作っていくことを理念とする「さわかみ投信株式会社」代表取締役社長・澤上龍さんにお話を伺いました。

さわかみ投信株式会社代表・澤上龍さん

澤上龍さんは、さわかみ投信株式会社の投資信託事業をはじめ、様々な事業で世の中に残していくべき企業や文化、産業を支え、「かっこいいお金の使い方」をして日本を盛り上げていくことを使命として活動しています。

さわかみ投信株式会社:https://www.sawakami.co.jp

今回は澤上さんに、日本の産業や技術を守るために私たちに何ができるのかということについて語っていただきました。

「ファッションを例にとって言えば、今は昔よりも、持つ物・着る物へのこだわりが薄くなっているじゃないですか。言い方を変えれば、所有する文化から皆でシェアしたり着回す流れです。再利用自体は環境に対しては良いことなのですよ。ファストファッションのように買って捨てるよりは。しかし、それによって綿家さんや生地屋さん、縫製屋さんなどの職人さんが厳しくなっていることを誰も考えない。現代では、生産が減る、つまり消費も減るという意味では環境にプラスなんだけど、その一方で産業が消えつつあるという点は考えていない。それで苦しんだり廃業する人もいるのです。」

「伝統工芸もそうです。生活にはそんなに必要がない。例えば広島の熊野筆。習字の筆は、ほとんどが中国産です。もともと筆の技術ってすごいのですが、需要は学校用途が大半なので、それならと使い捨ての安いものを買うのです。そうなると工芸技術は”伝統”という名しか残らず、いずれ社会から失われてしまう。自然淘汰と言えばそうですが、何とかしたいですよね。以前、熊野筆の工房を訪れた時、ある人が化粧筆として使い始めたことで、その機能が再び日の目を浴びたと聞きました。しかし、同じことが他の伝統工芸品にも起こるとは限らないのです。日本刀となる玉鋼を作る技術も、保存協会などの頑張りがなければなくなってしまうかもしれません」

澤上さんは、いま日本にある産業、技術を守っていくためには、そこで作られている商品を消費することで、需要を生み出し、継続して仕事を行えるようにしなければならないと語りました。また、産業を守るためどこにお金を使うかは投資も消費も考え方は同じと語ります。

「”自分だけが満足すればよい”という考えが産業を潰しているのです。消費一つとってもそれが誰に繋がっているのかを考えていかなければいけません。投資も消費もお金の使い方という考えは一緒です。フェアトレードもそうですよね。スターバックスの。『その地域の産業を守るために、適正な値段でも買おうよ』というのがフェアトレードですよね。産業を守ることは、未来の自分の消費を守ることと同じ。相手が潰れてしまっては、買いたくても買えなくなりますからね。」

「投資で言うと、自己の利益を追求するのは当たり前のことでしょうが、それが行き過ぎると投資をする相手の企業の負担となってしまいます。企業は、未来に向けて事業を育成しようとしていても、投資家が目先の利益を求めた場合、それが叶わなくなるのです。すると結局、その企業が提供するサービスや物が買えなくなる可能性も。だから投資では企業を応援する姿勢が大切なのです。消費も同じです。応援する要素をもって消費を行えば、結果その企業の未来に残せることに繋がるのです」

「投資」という行為をしていない多くの人たちにも、守るべき価値のある企業、文化、技術を「消費」によって支えることができる。澤上さんの言葉に今まで自分の中に無かった考え方に気づかされる方も多いのではないでしょうか。

「例えば、日本でシャツを作れる企業が何社あるか知っていますか?ちゃんと事業としてそれなりの規模で作っているのは数社もないのです。みんな国産シャツは高くて買わないのですよ。中国製、バングラディッシュ製のほうが安いから。ハイブランドでさえ、生産は人件費の低いところへやってしまう。日本の繊維産業はそれで衰退してしまったのです。デニム製品が岡山に少し残っていて、それはみんなが守っているのですよ。ハイブランドも岡山産ならということで使っていて、みんなが安いものしか買わなくなったら、岡山のデニム産業は消えてしまいます」

「産業を守るということは、地域、延いては日本の元気さを守ることと考えてほしいですね。あまりに日本、日本と言い過ぎるとトランプ大統領のようになってしまいますが…。コロナ禍で生産が分断された時、当たり前の物が手に入りにくい状況となりましたが、そういった最低限の強さを維持するためにも、日本が生きていないといけないと思うのです」

安ければそれでいいという考え方ではなく、自分が使ったお金によって世の中にどういう影響があるのか、そこまで考えて消費をすべきだと澤上さんは語ります。

「そういった考えを広めていく人はカッコ悪かったらダメなのです。ポリシーを持って生きている人が広めていかないと。『その製品を選んだ理由は?』と聞かれたら、『流行だから。』ではなく、その人なりのこだわりを伝えて欲しい。しかし、あまりやり過ぎると原理主義になってしまいますし、値段が高すぎたら消費が続きません。ちょっとした意識を持った消費は、できる範囲で良いと思います」

今回、澤上さんが語ったことを聞いて、明日からの自分のお金の使い方について、もっと深く考えるようになる方が増えるのではないでしょうか。安いから買う、ではなく、その産業、文化、技術を守りたいから買う。これこそ「かっこいいお金の使い方」だと思います。

© マガジンサミット