【コロナ禍のアメリカ】注目されるUberの現状と今後の展望

 新型コロナウイルスの影響により外食産業が落ち込む中、宅配産業が大きく伸びたことは周知の事実だろう。そんな波を作り出した企業の一つであり、日本でもすっかり身近となったUber(ウーバー)に、今回は注目したい。

Uberの現状

 まずは、Uberの足元の業績を見てみよう。2020年8月発表の決算報告によると、第2四半期の利用総額は102億ドルであり、前年同期比で35%減少している。売上は29%減の22億4100万ドル、純損失は66%改善されて17億7,500万ドルであった。減収の要因はUber本業の配車サービスの利用が大きく落ち込んだことである。モビリティの収益は前期比で67%減、一方デリバリーによる収益は103%増であったと発表している。これにより初めてデリバリー収益がモビリティ収益を上回った。

 コロナ禍で世界的に外出が控えられる中、デリバリー市場は大きく伸び、2020年8月の米国全体のデリバリー市場も前年比158%拡大していることを踏まえると、当然の結果と言えるだろう。

Uberの強み

 デリバリーにおいては、依然、最大手DoorDashに大きく差を付けられているUberは、今後どのようにして差別化を図っていくのだろうか。現在持つUberの強みとして以下三点を挙げてみた。

①優れたUX

 UX(User experience)とは、サービスを通じたユーザー経験のことを指す。Uberのアプリは、ユーザー、ドライバーどちらにとってもシンプルで使いやすいデザインとなっている。特にドライバーの現在地や到着時間が分かることはユーザーからすれば嬉しい機能だろう。またドライバーに対するレビュー機能も、ユーザーからすれば、安心して利用するための大切な要素となっているかもしれない。 

②ルート検索エンジンGurafu(グラフ)

 Uberは配車サービス開始当時、OSRM(Open Source Routing Machine)を含むいくつかの経路検索エンジンを用いて、経路や予想到着時間を算出していた。しかし、ドライバーとユーザーのマッチングに時間がかかる、交通渋滞等の影響によりドライバーが正確な時間に到着しないといった問題が多発していた。そこでUberは、リアルタイムの交通状況を加味した経路検索や予想到着時間の算出ができ、自社のサービス提供に特化した独自のルート検索エンジンを開発した。以下のリンク先にあるのは、以前のシステムとGurafuの到着予想時間と実際の到着時間のばらつきを比較したものであるが、改善されていることがよく分かる。

③ダイナミック・プライシング

 ダイナミック・プライシングとは商品やサービスの需給に応じて価格を変動させる仕組みのことである。Uber Eatsにおける配達員のコントロールを考えてみよう。ランチやディナー等の利用者が増える時間帯や、雨で配達員が少ない日には、どうしても配達員が不足してしまう。そこで一回あたりの配達に対する報酬額を上げることで配達員の稼働数を確保している。また時間だけでなく、エリアによっても注文状況を考慮し、報酬額を変動させている。Uberの強みは、この最適化をリアルタイムで自動で変動させる仕組みを持っていることである。

 Uberが目指す世界

 上記のような強みを見てみると、Uberは単なる配車・宅配企業ではなく、その実態はIT企業だということがよく分かる。そんなUberは今後どのような未来を思い描いているのだろうか。

 現在Uberのサービスは、世界10,000以上の都市で利用できるが、それでもなお世界における全交通の1%未満にしかアプローチができていない。そんな中、近年注目されているのは他の企業との提携である。シェアスクーターのLimeやシェアサイクルのJUMP Bikesといった企業だけでなく、コロラド州デンバーの公共交通機関等とも提携をしている。Uberが交通の手段は問わず、交通そのものに目を向けているのは間違いないだろう。

 以前、CEOのDara Khosrowshahiはサンフランシスコで開催されたTechCrunchDisruptで“交通機関のAmazon”を目指すと語っている。この発言の真意は分からないが、もしそれが実現すれば、Uberのサービスは交通インフラの核となり、人やモノの移動という莫大なデータが集積されるようになるだろう。そこから生まれる新たな巨大な市場も作り出されるかもしれない。“Uber Effect”という言葉が世界中で使われる日々は果たして来るのだろうか。

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