皆さんは”Unicorn”をご存知だろうか。
一般の方々にとっては、白い体毛をまとった伝説の一角獣を想像する方も多いだろうが、ことスタートアップを取り巻く世界では、その伝説性に倣って非常に稀有なスタートアップ企業をさす言葉として使われる。さらに説明を重ねると、未上場ながらスタートアップ業界の投資家から、そのサービスや将来性を高く評価され、評価額が10億ドルを超えるスタートアップ企業のことである。
将来的に社会に対して大きなインパクトを与える可能性が高いことから、スタートアップやその起業家にとって大きな名誉であるとともに、スタートアップを通じた経済的な価値の創出を目指す世界各国・各都市もまた、ユニコーン企業の数を一つの指標として、有機的なスタートアップの創出環境(スタートアップ・エコシステム)の整備を急速に進めている。
2013年にシリコンバレーの投資家Aileen Leeが、ユニコーンという概念をTechCrunchにて初めて紹介した。当時はFacebookやTwitterなど、シリコンバレーに居をおく企業を中心に39社がユニコーンとして紹介されたが、現在では、世界各国に500近いユニコーン企業があるとされ、その数は年々増え続けている。
本記事では、アメリカ・中国に続くスタートアップ・エコシステムの中でも、国家が大きな支援をおこなうフランスにおける、ユニコーン数の拡大を目指す国家と、それに異議を唱える起業家の議論を取り上げたSifted EUの記事を紹介したい。
ユニコーン数ってそんなに大事?
フランスのスタートアップ・エコシステムには、エマニュエル・マクロンのリーダーシップが大きく寄与している。
投資銀行・経済大臣の経歴をもつ現大統領は、就任以降スタートアップ関連の支援を急速に進め、ヨーロッパではイギリスに続く第二のスタートアップ大国の座をドイツと争っている。
9月14日、マクロン大統領が国内の起業家100人以上を招き、自身が推進するデジタル経済への70億ユーロの支援策を報告するとともに、フランスのエコシステムの発展を、自国発のユニコーン数を踏まえてこう自賛した。
“A year ago we set a goal to create 25 unicorns, and we’ve created 13,”
「1年前に(フランス国内で)25のユニコーンを創るという目標を掲げたが、すでに13のユニコーンを創出している。」
それに対して、参加した起業家はこのように異論を唱えた。
”Who cares?”
「誰が(ユニコーンの数なんて)気にするんだ?」
要するに、スタートアップの企業家が望んでいるのは、国からの資金提供に基づいた企業への高評価ではなく、実際にEU圏内でビジネスをする機会や迅速にグローバルに展開する仕組みなのだ。ここにフランス国家の意向との齟齬がみられる。
エコシステムに対するパラダイムシフトの機運
筆者はこのトピックには、以下の2つの気付きと機運を内包していると考えている。
起業家が目指すゴール
スタートアップを創立した起業家の目標は、あくまで自社のサービスやプロダクトを通じて収益を上げ、世界に対して大きなインパクトを与えることであり、投資家による評価を通じて「ユニコーン」になることではない。特にコロナの影響下で世界全体の経済が停滞している中で、起業家にとっては投資家から経営資金を調達すること以上に、継続的に収益をあげる仕組みを作ることが必要だと感じているようだ。
スタートアップ・エコシステムのあり方
世界中の優秀な起業家を自国に誘致し、ユニコーン企業として成長させることを目指している各国のスタートアップ・エコシステムにとって、ユニコーンの輩出自体が目的となってはいけないことを本件は暗示しているのではないだろうか。
これまでにないビジネスで収益を上げる、世界に対して大きなインパクトを与える、というスタートアップが目指す方向性を再度確認し、それをエコシステムがサポートするという原点に立ち返る必要性をこのトピックは気づかせてくれているのではないだろうか。