ETCR:コペンハーゲンでローンチイベントが開催。ヒュンダイはファルフスが開発を担当

 TCR規定を活用したフルエレクトリック・ツーリングカー選手権『PURE ETCR(ピュアETCR)』が、10月9日にデンマークの首都コペンハーゲンで壮大なお披露目イベントを開催し、改めてヒュンダイ・モータースポーツがシリーズへの参戦を正式に表明。その開発ドライバーにはアウグスト・ファルフスの起用が発表されたほか、シリーズで使用される“Energy Station(エナジーステーション)”が初公開された。また、2021年に初年度を迎えるシーズンには、同市の誇る伝統のイベントがカレンダー入りすることもアナウンスされた。

 現地金曜夜に開催されたこの“グランド・リベイル”は、世界的に壮麗な建築物として知られるコペンハーゲンの市庁舎前広場で催され、世界初のフル電動ツーリングカー選手権ピュアETCRのコンセプトと、2025年までに総取引量での“カーボンニュートラル”都市宣言をしている同市のビジョン共有を強調する演出がなされた。

 そんな同市で長年にわたって開催されてきた伝統のモータースポーツ・イベント“Copenhagen Historic Grand Prix(コペンハーゲン・ヒストリック・グランプリ/CHGP)”が、改めて2021年のピュアETCRカレンダーに名を連ねることも発表され、CHGPのCEOを務める元F1ドライバーのジャック・ネルマンとともにイベントに出席したシリーズディレクターのチェビー・ガヴォリからは、初年度は全6戦であることも公表された。

 これに従い、2021年5月から8月にかけてヨーロッパで4戦を開催し、10月から11月には欧州域外でのグローバル戦を2度実現させたいとの意向が示された。ちなみにこの2戦は「航空輸送なし」とのシリーズの哲学に沿い、海上輸送で実現可能な地域が優先的にセレクションされるという。

 また、イベントに先立ちイギリスでシェイクダウンを実施した『ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR』のシリーズ正式参戦もアナウンスされ、初年度からスペイン・セアトの『クプラ e-Racer』やイタリアのロメオ・フェラーリ製『アルファロメオ・ジュリアETCR』との直接対決実現も確認されている。

 そのテスター兼開発ドライバー就任が決まったアウグスト・ファルフスは、コペンハーゲンの中心街でヴェロスターN ETCRのステアリングを握りデモンストレーション走行を披露し、これが初公開となるピュアETCR用エナジーステーションへ。各レースカーのバッテリー電力を1時間以内に10~90%にする急速充電機能のお披露目も担当した。

 すでに本格的なテスト走行を開始しているファルフスは、そのドライビングに関して「文字どおり、新しいことを学んでいる最中だ」と語り、WTCC世界ツーリングカー選手権やDTMドイツ・ツーリングカー選手権、そしてLM-GTEマシンなどの豊富な経験を持ってしても、この新たな電気自動車でのレースは「ここまでのキャリアとおなじぐらい大きな課題」であり、基本さえも「再学習する必要がある」と話した。

デンマークの首都コペンハーゲンの中心街でヴェロスターN ETCRのデモンストレーション走行を披露したアウグスト・ファルフス
これが初公開となるピュアETCR用エナジーステーション。グッドイヤーやタグホイヤーのシリーズ公式パートナー就任も改めてアナウンスされた

■「ピュアETCRのマシンはエンジン車両とはまったく異なる乗り物」とファルフス

「このマシンでのファーストラップは本当に奇妙な感じだったよ」と続けるファルフス。

「スピード感はあまり得られなかったけれど、ドライバーという人種はつねに限界に挑戦しようと試みるものだ。ブレーキング時には通常のICE(内燃機関)のようにエンジンブレーキがないから非常にユニークな感覚で、僕自身にとっては大きなチャレンジになると感じた」

「スローラップを経てすぐアタック周回に入ったが、ブレーキの掛け方がまったく異なることもあって、最初のコーナーでは文字どおりタイヤを4本ともフルロックさせた。僕はフルブレーキのペダル操作をする準備ができていたけど、その必要はないんだ。つまり、ドライビングの基本から学び直す必要がある。ピュアETCRのマシンはエンジン車両とはまったく異なる乗り物だと理解したよ」

 ロックさせてしまうと電力を回収する回生ブレーキの効率が落ちてしまう上に、充電時間を長く取ることも難しくなる。ワンメイク供給のグッドイヤータイヤを最大限活用することで、そのブレーキングゾーンを長く取れば立ち上がりで強力なトルクを発生する率も高まるため、競技には従来とは異なる次元の勝負が求められるとファルフス。

「タイヤ管理を最適化し、セットアップで適切な妥協点を見つけることが重要だ。必ずしも全体で最高のパッケージではなくても、それは可能になる。300kWで走ったときと、500kWで走ったときではクルマの性格から速さまで、すべての次元が違ってくる」

「もし、周囲をコンクリートウォールに囲まれた市街地サーキットでレースをするなら、新しいブレーキングの方法について真剣に学ぶ必要があるだろう。勝負に勝つためのパワーは、そのブレーキング方法で決まるからね。これは大いなる挑戦だ」

「タイヤの開発に関しては現時点では進行中のプロセスで、最適な管理方法に関しても学んでいる最中だ。初年度はクルマのパフォーマンスに100%集中するのは困難で、最高の平均的なセットアップを見つけ出すことができたチームが成功を収めるだろうね」

 2021年のピュアETCR本格始動に向け、プレシーズンと位置付ける2020年は、この後11月14~15日にイタリアのアドリア・インターナショナルレースウェイで引き続きテストイベントを開催し、その現場では新たなドライバーや参戦マニュファクチャラーの続報が見込まれている。

ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCRのテスター兼開発ドライバー就任が決まったアウグスト・ファルフス
この後11月14〜15日にイタリアのアドリア・インターナショナルレースウェイで引き続きプレイベントを開催する予定だ

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