ヒット曲皆無!記憶に残る名曲を収録したオムニバス「ジュエル・バラッズ」 2005年 10月19日 オムニバスアルバム「名曲発掘!ジュエル・バラッズ」がリリースされた日

最初は全く売れなかったオムニバス「名曲発掘!ジュエル・バラッズ」

今から15年前の10月19日、オムニバスアルバム『名曲発掘!ジュエル・バラッズ』が発売されました。本作は、80年代を中心に70年代後半から90年代前半までの、ヒットチャートの上位に入らずとも、ファンに愛されてきた、いわば “記憶のヒット” となった女性ボーカルのバラードを16曲セレクトした企画盤です。ジャケットは、ノエビア・コスメティック・ルネッサンス・シリーズの美人画でおなじみの鶴田一郎のイラストが使われています。

本CDあるいは、収録曲のいくつかを聴いていただければお分かりのように、本CDは、1曲1曲にとても重要なメッセージが込められていたり、また切々と歌われていたり、とてもBGMには向かない、だけど大切に何度も聴かれてきたようなラインナップになっているかと思います。

実は、本作の企画や選曲は筆者が手掛けましたが、初回出荷枚数約200枚という凄まじく低い売上げでした(苦笑)。2000年代になって、10万枚以上を売り上げるオムニバスアルバムが次々と発売され、店頭でも大量に陳列されていたにもかかわらず、惨憺たるスタートに。なぜ、こんな企画盤を作ったのか、言い訳をさせてください。

ありきたりの選曲ではつまらない、イイ曲は他にも沢山ある!

私は1997年から2004年ごろまで、音楽専門の広告代理店に勤務し、アーティストをヒットさせるためのプランニングやマーケティングの手伝いをしていました。そのうち、仕事にとどまらない楽曲に関するデータ(いわゆるムダ知識)が買われ、オムニバスアルバムの選曲も勧められて、2003年に化粧品ソング集の先陣を切った『コスメティック・ルネッサンス~ノエビアCMヒッツ!』とデュエットソングを集めた『WITH YOU~LOVE DUET COLLECTION』を企画。その結果、ともに3~5万枚のそこそこヒットとなりました。

しかし、当時は30万枚から50万枚とその何倍もヒットしているオムニバスアルバムもありました。ただ、それらの選曲を見ると、例えば『ジュエル・バラッズ』収録のアーティストなら、今井美樹「PRIDE」、岩崎宏美「聖母たちのララバイ」、岩崎良美「タッチ」、工藤静香「慟哭」、本田美奈子「1986年のマリリン」、石川ひとみ「まちぶせ」など、当時ヒットした楽曲ばかり。

確かに、それも良い曲だけど…、ヒットしたけれど…「他にもイイ曲が沢山あるのになぁ」と思っていました。あと、音楽好きの友人に「オムニバスって、ありきたりの選曲でつまんないCDばかりだよね」と、方々から言われたことも、もっと面白いオムニバスアルバムを作りたいと思うキッカケにもなりました。

記憶のヒット! 石川ひとみ、工藤静香、中島みゆき、松原みき、尾崎亜美…

そこで、あえてオリコンTOP10ヒットを外し、ファンの人に愛されていたり、またはアーティストがライヴで好んで歌っていたりする歌、あるいは石川ひとみ「恋」のように、彼女の明るいパブリックイメージとは異なる絶唱系の歌や、工藤静香「そのあとは雨の中」のように、彼女の派手なイメージとは異なるしっとり系の歌など、“記録” のヒットではなく、“記憶” のヒットを16曲セレクトしました。分かりやすさと言えば、かろうじて女性アーティスト限定、バラード限定と統一する程度… という、実にマニアックなCDを企画しました。今考えたら、こんなヒットの法則から外れまくったオムニバスを出させてくれたメーカーさんには感謝しかありません(笑)。

その結果、冒頭のように、当時としてはありえない低い売上げから始まったのですが、“いらない子などいない” というメッセージを含んだ中島みゆきの「誕生」(オリコン最高13位)や、今やシティポップの代表的な存在感を示す松原みきの「真夜中のドア」(オリコン最高28位)、尾崎亜美「蒼夜曲 セレナーデ」(チャートインせず)など、それぞれのファンの方が、自身のブログや掲示板等で推薦してくださったことで、ネット通販ではじわじわと売れていきました。

さらに、発売から3週間たった11月6日に、本田美奈子.さんが逝去された影響で、彼女の歌唱力が再評価されアイドル時代のベスト盤やクラシカル・クロスオーバーの作品のセールスが急上昇。特に、後半の30秒にもわたる超絶ロングトーンが聴きどころである1994年発売の「つばさ」(オリコン最高60位)が話題となりました。

私自身、この「つばさ」には並々ならぬ思い入れがあり、既存のどのCDよりもこのロングトーンがクリアに聞こえるようなリマスタリングを施した結果、それが評判となり、ネット通販のAmazonで総合50位前後、オムニバス部門1位のセールスが1か月近く続き、なんとか累計5,000枚の売上げとなりました。

時代はストリーミングへ、音楽の聴き方は大きく変わっているけれど…

あれから15年が経ち、同じメーカーから、今度はCDではなく音楽配信の選曲を任せてもらうことになり、2020年10月にプレイリスト『【おとラボ】~名曲発掘!一人で聴きたい昭和女性ポップス』が公開されました。これは、当時の反省を踏まえ、同じ年代の女性アーティストの楽曲でありつつ、オリコンTOP10ヒット曲であろうとなかろうと、今でも配信やカラオケ、ライヴなどで支持されている楽曲を集めてみました(とはいえ、オリコン1位曲はあえて外しました)。これをキッカケに、より深掘りしていく若いリスナーや、懐かしくて再び音楽を聴くようになるリアルタイム世代のリスナーが増えればいいなと思います。

あれから時代はCDからダウンロード、ストリーミングへと、音楽の聴き方は大きく変わっていますが、どんな時代であれ、音楽が心を潤すような世の中であってほしいし、そのお手伝いをしていたいなと思います。

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Album Data
■ 名曲発掘!ジュエル・バラッズ
■ リリース日:2005年10月19日
■ 収録曲
1. 誕生 / 中島みゆき
2. 半袖 / 今井美樹
3. 真夜中のドア / 松原みき
4. 予感(リニューアル・ヴァージョン) / 中森明菜
5. 蒼夜曲 セレナーデ(シングル・ヴァージョン) / 尾崎亜美
6. そばにおいて / 岩崎宏美
7. 恋ほど素敵なショーはない / 岩崎良美
8. 恋の女のストーリー / 高樹澪
9. 恋 / 石川ひとみ
10. 眠り姫 / 斉藤由貴
11. そのあとは雨の中 / 工藤静香
12. カントリーガール(アルバム・ヴァージョン) / 谷山浩子
13. 織江の唄 / 山崎ハコ
14. はぐれ鳥 / 研ナオコ
15. つばさ / 本田美奈子
16. 美し都~がんばろや We Love KOBE~ / 平松愛理

カタリベ: 臼井孝

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