『旅愁』若き女性監督の才能に期待が溢れる長編デビュー作

 第20回〈TAMA NEW WAVE〉でグランプリ、男優賞を獲得した本作は中国人女性監督の呉沁遥(ゴ・シンヨウ)監督の完全オリジナル作品です。呉監督は、1992年生まれ、2015年に来日しました。カンヌ映画祭でエキュメニック新人賞を受賞したこともある万田邦敏監督に師事して映画を学び、本作が記念すべき長編処女作となりました。

 日本で、民泊を営む中国人の青年・李風が出会ったアーティストの王洋。同居生活を営むうち、性別を超えて惹かれ合うようになります。それでも思いを告げることもできないまま、少しだけ距離が縮まったところに、王洋の元カノが日本にやってきて穏やかだった日々のバランスが微妙にずれていってしまいます。男性ふたりと女性ひとりの揺れ動く心情がとても細やかに描かれます。

 キャストは3人とも演技経験のない若者だったそうですが、男優賞を受賞しただけあって、カメラを意識しているようにはとても思えないナチュラルな演技に驚かされました。彼らの会話もどこまでも自然体で、性別も関係なく、他者との繋がり方に苦悩する姿がにすっと入ってきました。監督が持っている繊細なセンスはここからどんな成長をしていくのかとても楽しみです。

10月24日から全国公開

監督:呉沁遥

出演:朱賀、王一博、呉味子

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