NICT、人とロボットの協調活動を実現する非接触エレベーター移動支援システムを開発

ニューノーマル時代の駅構内、オフィス、病院やホテルでは、様々な業種のロボット(警備・清掃・案内ロボットのほか、消毒作業ロボット、非接触でモノの運搬や飲料等の自動販売を行うロボット等)が広く活躍することが期待されている。このような構内や建造物内で、より広範にロボットが各種サービスを展開するためには、フロア間の移動が欠かせない。しかし、従来の方法では管理センターからの集中管理制御による停止・行き先指定・扉の開閉等が可能なエレベーターを備えることを必須としており、移動しようとするロボットは管理センターと携帯電話回線等を使って通信し、現在地と行き先等を指定することでエレベーターの遠隔制御を依頼する必要があった。したがって、ロボットによるエレベーター利用時間中はエレベーターが管理センターによる集中管理制御下となり、同一エレベーターを人と共用することが困難だった。国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT)ソーシャルICTシステム研究室は、免許不要IoT無線通信規格Wi-SUNと近距離無線通信技術BLE等を組み合わせて用いることで、自律移動型ロボットをフロア移動に必要なエレベーター前まで誘導し、非接触でエレベーターの呼出しと行き先フロアの指定を可能とするエレベーター移動支援システムを開発し、NICT構内における実証実験に成功した。同システムは、既設エレベーターの制御システムに改修を行う必要がなく、BLEによる通信機能及びモーターによるボタン押下機構を備える小型のIoTボタン押下デバイス「WiWi-Finger」をエレベーターの内外ボタン部分に設置するだけで、自律移動型ロボットによるフロアをまたいだ移動が可能となる。WiWi-Fingerは、ロボット側のBLE通信モジュールからボタン押下コマンドを受信するとボタン押下機構により物理的にボタンを押下し、一定時間経過後に自動的にボタンを離す。ロボット側のBLE通信モジュールは、BLEペアリングと呼ぶ1対1通信のコネクションを特定のWiWi-Fingerとのみ確立するため、複数の行き先フロアボタンに各々異なるWiWi-Fingerを設置しても、行き先フロアに対応したWiWi-Fingerだけをボタン押下することができる。

また、同システムはIoT向け無線通信規格Wi-SUNを用いた通信機能をWiWi-Fingerに搭載することで、同一フロアの自律移動型ロボットやWi-SUN機能付きスマートフォンを携帯した人等にエレベーターの位置を知らせてスムーズに誘導するほか、エレベーターをロボット専用に切り換えるなどのセンター制御を必要とせず、人とロボットがエレベーターを共用することができる。同システムを用いた実証実験では、食品・飲料等の自動販売やデリバリーを行うサービスロボットを想定し、3階で待機中の自律移動型ロボットが注文情報を受信し、途中にエレベーター乗降を経て、4階の配送先まで移動するシナリオを想定した検証を行った。

WiWi-Fingerはロボットがフロア間移動で用いるエレベーターの内外ボタンに取り付けており、フロア移動を行おうとする自律移動型ロボットにはWi-SUN通信モジュールとBLE通信モジュールを搭載している。Wi-SUN通信モジュールは、比較的遠方(~数百メートル)からのナビゲーション情報やリクエスト情報を受信し、そこからWiWi-Fingerと通信可能なエリア(周辺数メートル内)の情報を抽出して、ロボットをエレベーターまで誘導する。ロボットがエレベーター前に到着すると、BLE通信モジュールを使ってWiWi-Fingerにエレベーターボタンの押下を指示し、エレベーターボタンの操作が非接触で可能となる仕組みだ。なお、実証実験では、NICTが別途開発したNFCとWi-SUNを統合的に活用する小型のIoTメッセージ通知デバイス「WiWi-Assistant」を使って、遠方に待機中の自律移動型ロボットを呼び出す方法で実験を実施した。具体的には、サービスロボットによる飲料等の非接触デリバリーサービスを想定し、NFCリーダー機能を備えるWiWi-Assistantを、別途用意したNFCタグにかざして、搬送依頼を行う商品情報と搬送先の位置情報等を読み取る。WiWi-Assistantが備える「発信ボタン」を押下することで、この情報がWi-SUNを用いて広く周辺に発信され、周辺に待機するロボットに依頼内容が通知される仕組みになっている。実証実験におけるロボットのエレベーター移動の流れは、以下の通り。

1. 3階で待機中のロボットは、4階配送先にあるWiWi-AssistantからWi-SUNで発信された注文情報を受信して3階エレベーター乗り場の詳細位置を把握し、その乗り口付近を第1目的地として自律走行を始める。
2. ロボットは、エレベーター前に到着後、エレベーター外部に設置したWiWi-Fingerに呼出しボタン(昇るボタン)押下を指示し、エレベーターを呼び出す。この時、ロボットは周辺の人や同乗しようとするエレベーター利用者に聞こえるように「ボタンを押します♪」と音声を発話する。
3. エレベーターが到着し、扉が開くとエレベーターに乗り込む。この時、エレベーター内の中央の位置を第2目的地として設定してあり、ロボットは扉を障害物として認識するため、扉が閉まった状態では静止状態を維持し、扉が開いたタイミングでエレベーターに乗り込む。
4. エレベーターに乗り込んだロボットは、まず、行き先フロアの4階ボタンに設置したWiWi-Fingerにボタン押下コマンドを送信し、4階ボタンを押下する。並行して、自律走行に必要な内部地図を現在の3階地図から行き先フロアの4階地図に自動切替する。この時、開始姿勢を扉向きと設定することで、ロボットがエレベーター移動中に180度方向転換する動作を実現している。
5. 行き先フロアの4階に到着し、エレベーターの扉が開くと、ロボットはエレベーターを降りる。乗り込む時と同様に、エレベーター正面の外側の位置を第3目的地として設定することで、エレベーターの扉が開いたタイミングでエレベーターから降りる動作を実現している。

実証実験で使用したロボットは、LiDARと呼ばれるセンサーを使って常に周辺の障害物等との距離を計測し、障害物を回避しながら自律的に移動することができる。自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術(SLAM: Simultaneous Localization and Mapping)を採用した地図自動作成機能を備えており、リアルタイムに自らの周辺環境の変化も捉えた地図を更新しながら現在地を推定し、目的地点に向かうことができる。

また、今回ロボット向けにエレベーター連携制御部とBLE通信モジュールを新たに開発し、ロボット駆動制御部と連携動作可能な構成でロボットに実装した。具体的には、Wi-SUN通信モジュールが受信したナビゲーション情報をロボット駆動制御部がエレベーター前の位置座標に変換し目的地座標として設定することで、ロボットがエレベーター前への自律移動を開始する。エレベーター前に到達したことを検知したロボット制御部は、次にエレベーター連携制御部に対してWiWi-Fingerによるエレベーターボタン操作を指示する。エレベーター連携制御部はこの指示に基づき、BLE通信モジュールを介してWiWi-Fingerを駆動する仕組みになっている。BLE通信モジュールは、USBケーブルでロボット制御部と接続できる構造と、WiWi-FingerとのBLE接続の確立やボタン操作に関わる入力インタフェースを備えているため、このBLE通信モジュールを取り付けることで、今回使用したロボット以外の様々な業種のロボットに対してエレベーター移動支援を提供することができる。

目下、BLEのみでなくWi-SUNによる情報発信機能も集積搭載した小型のIoTボタン押下デバイス(WiWiFinger2)を開発中である。これをエレベーターのボタン等に設置すれば、例えば異なるフロアへの移動を必要とするロボットが、周辺のアクセス可能なエレベーターの有無や詳細位置をIoTボタン押下デバイスからWi-SUNを活用して直接教えてもらうことも可能になる見通しだ。NICTは今後、株式会社JR東日本商事及びアンドロボティクス株式会社と共同で構内や屋外での実証実験を実施する予定だ。https://www.youtube.com/watch?v=xqUT7ToMGhA&feature;=emb_logo

© 株式会社アールジーン