コロナ禍で加速!美容、歯科、居酒屋、多様な分野で拡大続くBtoB EC事業、注目の4社

EC市場の拡大が続いています。新型コロナウイルスの影響を受けた巣ごもり消費の盛り上がりから、BtoC EC市場に脚光が当たりがちですが、BtoBの世界でもEC市場が拡大する兆しをみせています。これまで、中小事業者でも利用が容易で、専門的な商品を扱う「スモールBtoB EC」市場では、電話やFAX、対面型営業など既存形態による取引が大半を占め、EC化は遅れていました。

コロナ禍において、取引のマッチング機会減少や在宅勤務の重要性の高まりなどを通じて、多くの事業者が業務フローの見直しを迫られています。こうした状況はECの活用を検討するきっかけになるとみられ、EC利用率上昇に弾みがつく可能性が高いと考えられます。

一方、供給者側でも、販売チャネルとしてECの活用を進めざるを得ない市場構造変化が起きています。これらの観点から、スモールBtoB EC関連企業は業績拡大、株価再評価の好機を迎えているといえるでしょう。


EC化が進んでいなかった分野

経済産業省の統計によれば、日本のBtoC ECの市場規模は、2019年に前年比7.7%増の19.4兆円、物販分野のEC化率は6.8%となりました。一方、BtoB ECの市場規模は、前年比2.5%増の353兆円、EC化率は31.7%でした。

BtoCと比べて、市場規模は約18倍、EC化率は4.7倍と、市場形成が進んでいるようにみえます。ただし、BtoB EC市場の多くは、既存の取引を行う上での業務負担の低減や効率化を目的としたものになっています。具体的にはEDI(Electronic Data Interchange、企業間の取引情報を専用回線で接続し、電子化した仕組み)による取引がBtoB ECにおいて大きなウェイトを占めています。

EDIをはじめとするクローズドなECは、あくまで大手事業者の効率化が目的で、取引条件などを公開しない点でも大口事業者の継続取引に適していますが、小口取引やスポット取引には不向きです。

したがって、中小事業者が取引主体となる傾向にあるスモールBtoBの世界では、BtoB EC市場全体と比較して、EC化率が低水準に留まっている可能性が高く、裏を返せば、今後のEC市場拡大余地が大きいということでもあります。

変わらざるを得ない卸売業

BtoBの物販業、すなわち卸売業は、物流費や人件費などのコスト上昇への対応として、EC化を志向せざるを得ない環境にさらされています。

中小卸売事業者はコスト削減余地に限界があるため、販売価格を下げることができず、顧客へ価格メリットを提供できません。このため、中小の卸売事業者と取引する顧客は、ECサイトから購入することに価格面でのデメリットがなく、EC利用のハードルは低いといえます。

他方、大手卸売事業者でも、一部のよほど資金体力が豊富な事業者を除き、省力化・無人化などへの大規模投資が難しく、中小同様にコスト削減に限界があります。結果として、顧客への訪問頻度をさげる、あるいは対応エリアを絞る、といったデリバリーのサービスレベルを落とすことでコスト削減を図る事業者が出てきています。

従来のサービスを受けられない顧客は、ここでも発注やデリバリーにメリットのあるECサイトを利用するインセンティブが働きます。EC卸にとって、コストアップは、シェア拡大のチャンスでもあるのです。

コロナ禍で調達手段を見直し

BtoB取引における主要なマッチング機会となる展示会のほとんどは、コロナ禍で中止や延期を余儀なくされました。また、受発注に活用される電話やFAXは、従業員の在宅勤務の推進において障壁となりました。こういった商談機会の減少や業務フローの見直しを行わざるを得ない環境下で、多くの事業者はECの活用を検討するきっかけを得たといえます。

本来、買い手の事業者にとって、ECは時間や場所を問わず利用可能で、業務の効率化に資するというメリットを有する調達手段です。既存のマッチングや調達手段が機能不全に陥る中で、ECの活用が進み、前述のとおり卸売業の業界構造変化が続いていることも後押しし、業界におけるEC活用は不可逆なトレンドとして定着する可能性が高いとみられます。

EC化が遅れていたスモールBtoB ECの分野でも、売り手、買い手ともにECの利用動機が強まっている今、新たな業種への広がりを通じて、本格的な成長に入ったと考えられます。

BtoB EC関連で存在感を増す4企業

いちよし経済研究所では、スモールBtoB EC関連企業として、ラクーンホールディングス(3031、東1)、ビューティガレージ(3180、東1)、ミクリード(東マ、7687)、歯愛メデイカル(3540、JQ)に注目します。

ラクーンホールディングスは、BtoB仕入れサイト「スーパーデリバリー」を運営しています。衣料品・服飾雑貨領域において、幅広い取扱商品を有しており、正規の卸値流通を担保する独自の仕組みに強みを持っています。コロナ禍における事業者の調達経路の見直しや、ECサイト開設数の増加を背景に、購入会員数、出展企業数、スーパーデリバリーの流通額の増加が連鎖する好循環が生まれ、中長期的な高成長が見込めると考えます。

美容、歯科医院、居酒屋向けECサイトも

ビューティガレージ、歯愛メディカル、およびミクリードは、売り手、買い手ともに中小零細事業者が主体となる市場構造に属することから、スモールBtoB EC市場拡大の恩恵を全面に受けることが想定される企業です。

ビューティガレージは美容室など美容サロン向けの美容商材の販売を手掛ける美容ディーラー、歯愛メディカルは歯科医院向けの業務用品のEC・通信販売事業者、ミクリードは居酒屋向けの業務用食材卸事業者です。

コロナ禍で、顧客側の業界、美容院、歯医者、居酒屋はいずれも大変な苦戦を強いられましたが、この3社の業績はこれらの業界の落ち込みに比べると影響は軽微に留まりました。ここに、ECという販売チャネルを持つ優位性が顕在化したといえるでしょう。

これらの企業の販売チャネルを利用した顧客は、その高い利便性から、今後利用が定着することが期待されます、コロナ禍における、一過性の特需ということではなく、業界のパラダイムシフトに対応した中長期の成長が期待されます。

<文:企業調査部 倉橋延巨、甲斐友美子>

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