【レースフォーカス】ヤマハ不在の表彰台。中上貴晶のインディペンデントライダー、トップフィニッシュ/MotoGP第11戦

 ヤマハライダーがひとりもいないMotoGP第11戦アラゴンGPの表彰台は、容易に想像できないものだった。週末を通じて好調だったヤマハ勢。しかし、それぞれ違う理由でポジションを落としていった。

 また、モーターランド・アラゴンで強いと見られていたホンダ勢はアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が2位表彰台を獲得。中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)も5位でインディペンデントチームのライダーとしてトップでレースを終えた。一方、フロントロウスタートのカル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)にはトラブルが発生していた。

■クアルタラロを襲ったタイヤの空気圧トラブル

2020年MotoGP第11戦アラゴンGP ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)

 ヤマハライダーのうち、最上位でフィニッシュしたのはマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)だった。ビニャーレスは2番手からスタートし、レース序盤はトップを走った。

 今回のスタートがよほど会心の出来だったらしい。レース後の取材で「いいスタートだったよね!」と、オンライン越しに集まったジャーナリストに向けて拍手を求めるほどだった。ビニャーレスはスタートを課題にしており、最近ではホールショット・デバイスを除いた電子制御を使用せずにスタートする方法を練習している、ともコメントしていた。今回は電子制御を使ったというが、ともあれ、ビニャーレスとしては満足のいくスタートだったようだ。

 しかし8周目以降、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)やミル、A.マルケスに交わされた。ビニャーレスはヤマハライダーのなかで唯一、フロントにソフトタイヤを選択していた。しかし問題はフロント側ではなかったという。

「フロントに選んだソフトタイヤには自信があったよ。問題はリヤタイヤだった。5周、6周後、リヤタイヤの左側のグリップが大きく低下してしまった」

 そしてまた、スズキのペースはビニャーレスにとって驚きのものだった。リンスは10番手スタート。そしてリンスがビニャーレスを交わしたのは、8周目だ。5、6周目あたりからリヤタイヤのグリップが落ち始めたとはいえ、まだレース序盤のこの周回数でリンスがすぐ後方に迫っているとは想定外だったようだ。

「ファビオを交わして、その差をコントロールしようとしていたんだ。でも突然、リンスとの差が“0.1秒”って表示された。『どういうことだ!?』って思ったよ。よく理解できなかった。でも、リンスが僕を交わして、すぐに今日は彼らの方が速いってわかったんだ」

 ビニャーレスが4位でフィニッシュを果たした一方、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)はまさかのノーポイントレースとなっていた。

 クアルタラロはフリー走行3回目に大きなクラッシュを喫した。担架でグラベルから運び出され、メディカルセンターで検査を受けたが骨折などの大きな怪我はなく、午後に行われた予選では最速タイムを叩き出してポールポジションを獲得。自らの走りで転倒による懸念を払しょくした。

 しかし、レースではこれまでになかった問題が発生する。3番手を走行していた序盤から、6周目以降はどんどん後方のライダーに交わされ、まさかの18位でチェッカーを受けた。何か起こった事は想像に難くない。そしてその“何か”は、クアルタラロがレース後の取材のなかで語ったところによれば、フロントタイヤの空気圧だったという。

「(フロントにミディアムタイヤという)選択は正しかった。序盤の3周は完ぺきだったんだからね。本当にフィーリングがよくて、すべて問題なかった。問題は3周目からだったんだ。通常よりもはるかに(フロントタイヤの)空気圧が高かった。完全に制御不能だった。すべてが繊細になって、ブレーキも、旋回も、バイクを傾けることもできなかった」

 フリー走行3回目での転倒の影響については「問題なかった」ときっぱり。落胆があったのだろう、「いつもなら、バイクについて何か非難はしたくないんだ。でも、今日は普通じゃない状況だった」と“いつもとは違う”コメントをこぼしていた。

 クアルタラロがまさかのノーポイントに終わったことで、チャンピオンシップのランキングトップはアラゴンGPで3位を獲得したジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)が浮上した。その差はいまだわずか、6ポイントである。

 そしてフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)は、4番グリッドから1コーナーにトップで飛び込んだ。モルビデリはラインを外してしまい、しかし3番手につけていた。ただ、その後はビニャーレス同様に、リンスやミル、A.マルケス、そして最終ラップには中上に交わされて6位でフィニッシュした。

「たぶん、フロントにミディアムタイヤではレース序盤に戦うのは難しかった」と言う。その後はペースを取り戻したが、すでにトップ集団は離れていた。上昇した路面温度とタイヤ選択がかみ合わなかったようだ。

「残念だ。レースは少し暖かくなって、それがバランスやレベルを少し違ったものにした。僕は、今日は僕とマーベリック、ファビオのレースになるだろうと思っていたんだ。でもそうではなく、スズキとホンダのレースになった。それは暖かくなったコンディションがスズキ、ホンダに有利に働き、僕たちは少し、苦しむことになったからなんだ」

 それぞれの理由で表彰台を逃したヤマハの3ライダー。同地モーターランド・アラゴンで再び開催の次戦で、溜飲を下げたいところだろう。

■5位の中上「次戦のキーポイントはレース序盤」

 ホンダ勢はA.マルケスが2戦連続の表彰台を獲得。そして、中上も5位で、インディペンデントチームのライダーとしてトップでフィニッシュした。

 中上は7番グリッドからスタートし、レース序盤にはジャック・ミラー(プラマック・レーシング)を交わして終盤にはモルビデリの後方で6番手を走行。最終ラップの最終コーナーで、モルビデリをオーバーテイクした。

2020年MotoGP第11戦アラゴンGP 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)

「フランコの前でフィニッシュできてうれしいです。バイクをホールドするのが難しかったけれど、全力でプッシュしました。最終ラップの最終コーナーでは、『よし、これが最後のチャンスだ』と。常にインサイドにラインをとることができていたから、彼をオーバーテイクできたんです」

 モルビデリも「レース終盤、そしてコースの後半でタカは僕よりも速かったよ」と認めた。ただ、レースではタイヤマネジメントが難しかったという。中上は、フロントにミディアムタイヤ、リヤにソフトタイヤを選択。その選択は間違っていなかったが、レース終盤のペースを考える必要があった。

「最終コーナーではタイヤの左側はスピンが増えていって、簡単にオーバーヒートしてしまいます。レース序盤から、タイヤをうまくセーブしようとしていました。いつもレース終盤について考えています。でも、ペースをキープするのは難しかったですね」

 レース終盤に向けてマネジメントした序盤のペースは、同時にひとつの“キーポイント”にもなりえるようだ。次戦に向けた改善点を聞くと、中上は「スタートから5周くらいでしょうか。もう少し、攻めないといけません。レース序盤のパフォーマンスが足りていないので」と言う。表彰台は、近いはずだ。

 そんなホンダライダーにあって、クラッチローは決勝レースで苦戦を強いられた。予選で3番手を獲得し、2019年第3戦アメリカズGP以来のフロントロウ獲得。ただ、バイクにトラブルが発生した。フロントロウのふたりが技術的な問題で後退を余儀なくされたわけである。

「残念ながら、今日はウオームアップラップで問題が発生した。クラッチが滑っていたんだ。バックストレートで6速にシフトアップしたら、回転数がものすごく上がって、クラッチが滑っているんだとわかった。スペアバイクに交換するためにピットに戻るところだった」

 クラッチローはオープニングラップで11番手にポジションダウン。その後、6周目あたりから調子が戻り、攻められるようになったという。少しずつポジションを上げていき、クラッチローは8位でフィニッシュした。

 ともあれ、A.マルケスの表彰台、中上の5位、クラッチローは決勝レースではトラブルに見舞われたが、予選ではフロントロウを獲得……と、全体的に見ればホンダとして上々のアラゴンGPだったと言えるのではないだろうか。ホンダが得意とするモーターランド・アラゴンでのレースがもう1戦続く。どんな躍進を見せるだろうか。

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