長大大学院で除染研究 清掃素材開発に生かす 総合ビル管理会社、嶽本会長

てこの原理で絞る「ウィングモップ」を持つ嶽本さん。博士となり、今後さらに開発を進める=長崎市、ウィング

 長崎市赤迫3丁目の総合ビル管理会社「ウィング」代表取締役会長の嶽本剛平(たかひら)さん(74)は、長崎大大学院医歯薬学総合研究科で12年間学び、9月に博士(医学)の学位を取得した。放射能に汚染された家屋内をどう効果的に除染するかを研究。そこで考案した比較実験の方法を今後、一般的な清掃素材の開発に生かしていく。

 研究は2011年の福島原発事故を踏まえ、家屋内の除染に適した清掃素材や方法を探った。拭き取る場所の硬さや清掃素材の種類、含ませる水分量を変えてセシウム137の残存率を比較。から拭きは約90%が残り、水を20%以上含ませると残存率は約40~30%に下がった。清掃素材による差は小さく、含水量は湿る程度で十分。家庭用洗剤や研磨剤、吸着面積の広いモップを使えばより高い除染効果が期待できる。一般的な素材でも日常的に掃除することが帰還した住民の防護や不安低減に寄与する-と考察した。
 嶽本さんは1984年にウィングを設立。長崎大学病院で清掃を請け負い、院内感染対策の研究を始めた。長崎大工学部と共同開発した「ウィングモップ」は特殊スポンジで床のちりやほこりを舞い上げずに拭き取れる。てこの原理を使った付属の絞り器は軽い力で扱えて手を汚さず、乾燥が早い分、細菌が増殖しにくい特長がある。
 経営の傍ら大学院に進んだのは、事業拡大や営業力強化のため。生まれつき視力が弱く、細かい実験作業や参考文献の読み込みに苦労したが、「困難を乗り越えて何かを発見した時の喜びは大きい」。4年前に社長を引き継いだ次男の幸次さん(47)は「父は人と違う視点を持ち、時に突拍子もないことをする」と笑う。英語論文を読むためカナダに1カ月留学することも、大学院進学も相談されなかったという。
 嶽本さんは今後、大学院で考え出した比較実験方法を応用し、院内感染を防ぐ新しいモップの開発を目指す。「まだまだ調べたいことがたくさんある。スタートに立ったばかり」と意欲を見せている。

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