大阪都構想の是非を全国の皆さんに裏事情も含め解説します。 (歴史家・評論家 八幡和郎)

世論調査では賛成派の勝利だが…?

大阪都構想の是非をめぐる大阪市民による住民投票が11月1日に行われる。維新にとっては、2015年5月17日の投票で49.6%の賛成という僅差で敗れた戦いの雪辱戦である。

前回は、世論調査では、10%ほど反対が多いということだったが、結果は僅差だった。今回は、前回反対だった公明党(20%程度の票を持っている)が賛成に回ったし、世論調査でも5~10%ほど賛成が上回っているので常識的には賛成派の勝ちであると考えられる。

大阪維新の会Facebookより

私の意見は、前回の住民投票のときと意見は変わらない。府と市と二重行政は紛れもない事実だが、本来は、地方制度全体の再検討の中で解決すべき問題であろうと思うし、橋下徹氏が知事になったときも、道州制をめざすということだった。ただ、反対派が言うように、大阪市がなくなったらたいへんというのも説得力がない。

東京都知事選挙に立候補した宇都宮健児氏が14日にツイッターに投稿し、大阪都構想について「住民に近い自治体の権限と財源を強化するということは地方自治の原則である。大阪市を廃止して大阪市の権限と財源を大阪府に吸い上げる『大阪都構想』は、地方自治の原理・原則に反する愚行であると言わねばならない」と言っているが、それなら、東京都知事に立候補したとき、東京府に戻し23区を廃止して東京市を復活させると公約するべきであった。

そして、前回の時との比較で言えば、道州制などについての議論が低調になって実現性が薄くなり、府と市との実質的な一体化も進んでいるので、大阪都構想を実現するほうに合理性が増えたと思う。大阪府と大阪市の知事と市長が別々の党派になってしまうと名古屋のようになってしまう。

政令指定都市は非論理的な妥協の産物

そもそも、大都市と都道府県や道州の関係は、世界中どこでも悩ましい。そこで、中国や韓国では大都市圏を特別市にして省や道から切り離している。重慶特別市は四川省から独立しているし、釜山特別市も慶尚南道から切り離されている。

日本でも大都市が都道府県から独立する動きはあり、1947年制定の地方自治法に「特別市」が定められ、都道府県から独立できるようになった。しかし、周辺市町村の反対があって凍結され、1956年に「特別市」の条項は削除し、かわりに、政令指定都市の制度ができた。都道府県には留まるが、多くの権限を都道府県から譲られるという妥協の産物だった。

このために、都道府県知事と政令指定都市の二重行政の弊害はたしかに甚だしい。私は、制度としては、都道府県と市町村でなく、道州と人口20~30万以上の基礎自治体の二段階の制度にあらため、さらに、基礎自治体の連合のようなものを併用するのがいいのでないかと思っている。

そして、こういう大きな改革は、国家的に決断すべき問題だと思う。しかし、それが簡単にできそうもないなかで、大阪都のような考え方があってもいいし、それが大きな変革の呼び水になる期待もできないわけでない。

誰がなぜ反対しているのか

自由民主党 大阪府支部連合会Facebookより

それではなぜ、大阪市存続に異常に執着する人がいるのかといえば、結局は利権とか人事にかかわる問題である。まず、ここで理解しておくべきなのは、大阪市役所というのが、日本の地方自治体としては東京都をしのぐほどの名門だということだ。

大阪市長というのが知事の兼任だったり、名誉職だった時代もあるが、1913年就任の池上四郎(秋篠宮紀子妃殿下の曾祖父)から2007年退任の關淳一まで12人はいずれも市役所内部からの昇格だった。

とくに、池上氏の跡を継いだ關一は名市長として知られ、御堂筋や地下鉄網など近代都市として世界最先端の成果を上げた。この時代には関東大震災があったこともあり、大阪は人口でも東京を抜き、文字通り日本一の大都市だった。

そして、京都帝国大学などを卒業した優秀な職員が入庁し、とくに土木などでは東京大学なら建設省、京都大学なら大阪市役所が最高の就職先だったりした。

戦後も大阪市役所は高い能力を維持し、意欲的な都市建設を進めていた。ところが、社会福祉などで手厚いと言うよりは甘い制度運用をしたり、職員の待遇がよくなりすぎたりした。さらに、バブル期に巨大な投資をしてこれが大失敗になった。そして、2008年の五輪も有力と一時は言われたが北京に惨敗した。

いわば大企業病で沈没したのである。橋下徹氏が大阪府知事になったのは2008年だったが、その前の年に就任していた平松邦夫市長は抵抗勢力としての立場を取って、2011年の市長選挙で橋下徹知事が鞍替え立候補したのに惨敗した。

こういう経緯のなかで、大阪市政を旧勢力が奪還してもいいことがあまりあるとも思えず、むしろ、大阪府政を握ることをめざして頑張った方がいいのではないかと言う気もする。

維新は利権を狙っているというし、それは間違いでないかもしれないが、自民や立憲民主党、共産党も利権維持を図っているだけだ。

大阪都構想反対派は、大阪市の財源が府に取られて市民が損するというが、東京都で23区の住民が損しているとも思えない。二重行政の解消など合併しなくてもできるというが、府と市が対立する政治勢力に占められたら膠着するのは否定できない。

合併にはコストがかかって節約にならないというが、普通、自治体も企業も合併したらコストは下がるのが普通で、やり方の問題であるし、さし当たっては合併コストが生じるとしてもさほど長くない期間に元が取れるのが普通だから説得力がない。

今回の投票では、前回、反対だった公明党がこんどは賛成に回っている。もちろん、大阪府内の公明党候補が与党統一候補になっているところに維新が対立候補を立てつと行って脅したということもあったが、昨年のダブル選挙で吉村・松井が圧勝して民意は明らかだし、区役所は既存のもので間に合わせ新築はしないとか、10年間は府から区に特別交付金を出すという約束も取り付けているから、公明党の態度変更にはいちおうの理屈がある。

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