シーズン終盤の主役へと躍り出たスズキ勢/MotoGP第11戦アラゴンGPレビュー

 MotoGP第11戦アラゴンGPではアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)が今シーズン初優勝を達成。ここまでの11戦で8人目のウイナーとなった。

 MotoGPクラス参戦4シーズン目のリンスは、昨年、2勝を上げてランキング4位を獲得。今年はチャンピオン候補の一人に上げられていた。開幕前のテストでも好調だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、MotoGP第1戦カタールGPでMotoGPクラスは開催中止。シーズン再開となった7月の第2戦スペインGPのQ2セッション終盤のアタックラップ中に転倒した際に右肩を強打。右肩と上腕骨をつなぐ関節部分のヒビが入り、関節部の腱の部分破傷、筋肉にもダメージを受け、スペインGPの欠場を余儀なくされる。

 翌週の第3戦アンダルシアGPで復帰したリンスだったが、その後も右肩のケガの影響や転倒により、勝てないレースが続いた。その間にチームメイトのジョアン・ミルが、MotoGPクラス2年目のシーズンで急成長。優勝こそないものの、表彰台争いの常連となっていた。

 リンスは第8戦エミリア・ロマーニャGPで今季初表彰台となる3位に入賞したが、このレースでもミルが2位で先着していた。アラゴンGPの前戦フランスGPでは、ウエットコンディションの中、トップ争いに加わり、転倒リタイアに終わったものの、リンスはアラゴンGPに向けて前向きなコメントを残していた。

 そうして迎えたアラゴンGPでは、4戦ぶりに予選Q2に進出。4列目10番グリッドを獲得する。

「FP4の流れに満足している。とにかくレースペースに集中して走行したお陰で、マシンのフィーリングをうまくつかむことができた。Q2のタイムアタックはあまりうまくいかなかったが、10番手グリッドはさほど悪くない。もともとGSX-RRとこのサーキットの相性はよいけど、決勝でもうちょっとだけ気温が上がってくれたらさらによいパフォーマンスが発揮できると思っている」

 Q2を終えてこう語っていたリンス。例年より約1カ月遅れの開催となり、気温、路面温度共に低いコンディションでの開催となった今年のアラゴンGPだったが、スズキ勢はそうしたコンディションにうまくマシンを合わせ込んだ。

 決勝ではリンスが好スタートを決め、1周目には4番手に浮上。3周目にファステストラップを記録、8周目にトップに立つと、後続とのリードを広げ、トップを独走。終盤には追い上げてきたアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とのトップ争いとなるが、リンスはアレックス・マルケスを抑え込み、トップでチェッカーを受けた。

2020年MotoGP第11戦アラゴンGP アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)

「今シーズンは序盤のケガで色々なことがうまくいかなくて苦しい思いをし、そこから立ち直るためにチームも自分も本当に努力してきた。だからその努力が実った今日はなんとも言えない気分だ。正直10番手グリッドから優勝できるなんて思っていなかったが、前のライダーを追い上げているときにマシンのフィーリングもかなりよかったし、無理せずギャップを縮めていくことができたから、レース中はかなりリラックスしていた。終盤にアレックス・マルケスとジョアンが迫ってきたときにはさすがに焦ったしプレッシャーが押し寄せて、とにかく落ち着こうと自分に言い聞かせながら走った。来週末にこれをもう一度再現するのはかなり難しいと思うけど、もちろんまた全力で戦う。とにかくこうやってまた表彰台の真ん中に立つことができて最高な気分だ」とリンス。

 ミルも3位に入賞。スズキはエミリア・ロマーニャGPに続いて、今シーズン2回目のダブル表彰台を獲得。ミルはこのレースを終えてランキングトップに浮上。チーム・スズキ・エクスターも、チームランキングのトップに浮上した。

2020年MotoGP第11戦アラゴンGP アレックス・リンス、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)

「毎週末チームと共に戦略を立て、努力を続けてきていることが着々と形になってチャンピオンシップでトップに立てたなんて本当にうれしい。とはいえまだ残り4戦あるし、この先何が起こるかだれにも予想はできないから、これで喜んではいけないのもわかっている。でも、とにかくこの瞬間、トップに立てたことは素晴らしいことだと思う。今日の決勝は序盤のペースがよかったし、終盤までそのペースを維持することができていたから正直もっと上の順位をねらっていた」

「でも最後の数周になってフロントタイヤのグリップが落ち、ペースを維持することができなくなってしまった。リヤは全く問題なかったから頑張ってプッシュすることも可能だったが、チャンピオンシップのことを考えてリスクは負わず3位で終えることを選んだ。同じサーキットで来週もレースが続くから、テルエルGPではもちろん今日以上の順位をねらう」とミル。

 11戦で8人のウイナーが誕生した混戦の今シーズン。リンスの復活により、スズキ勢がシーズン終盤の主役へと躍り出た。スズキにとって、2000年のケニー・ロバーツ・ジュニア以来となる最高峰クラスチャンピオン獲得なるか。

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