乳がん闘病中もおしゃれを 山鹿市の45歳看護師、自身の経験生かし専門店

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乳がんケア用品のセレクトショップを開いている西口富士乃さん。自身の経験から闘病中でもおしゃれを楽しみ、前向きに過ごす生活を提案する=山鹿市

 乳がんの手術後もおしゃれを楽しめるようにと、熊本県山鹿市の看護師西口富士乃さん(45)が、ケア用品のセレクトショップを同市で開いている。自身も乳がんを経験し、乳房の摘出や抗がん剤治療に伴う脱毛といった外見の変化に苦しんだ。闘病中でも前向きに過ごせる下着や帽子などを提案し、「全ての女性を笑顔にしたい」と意気込む。

 西口さんは2003年の結婚前から胸にしこりがあり、定期的に検査を受けていた。結婚後は子ども3人の妊娠と出産が続いたこともあり怠っていたが、11年1月、親友の看護師に勧められて乳がん検査を受けた。

 「がん細胞が検出されました」。心の準備もないまま告知を受けたが、医療従事者としての自意識が勝り、気丈に、あっけらかんと振る舞った。心配した医師に「大丈夫ですか」と声を掛けられたとたんに泣き崩れ、その後の記憶がないという。

 入院に備えて前開きのワンピースを何軒も探したが、おしゃれなものが見つからない。病院の売店で購入したおむつやT字帯などの「術前セット」、味気ないベージュ色の下着に気持ちが沈んだ。「着る服で、さらに病人になった気分だった」と振り返る。

 子どもたちは当時、娘が6歳と5歳、長男はまだ2歳。再発のリスクを避けるためちゅうちょせず左乳房の全摘出手術を選択したが、術後の胸を見てがくぜんとした。

 看護師としてがん患者にも接してきたが、自身で経験すると全く違った。抗がん剤治療で頭髪だけでなくまつげや眉毛も抜け、人相も変わった。「うつ状態になり、生きているのが苦しかった。外見の変化がこうも人の心を壊すのかと実感した」

 転機は検査を勧めた親友と行った大手下着メーカー。乳がん患者用のブラジャーはおしゃれなデザインで、着けるだけで気分が高揚した。乳房があった頃の自分を取り戻し、自然と笑顔になれた。術後から思い描いていた「自分だったら欲しいもの」を扱う店のイメージが膨らんだ。

 手術から1年後に職場復帰。希望して緩和ケア病棟を担当し、毎週火曜は乳腺外来で乳がん患者らを看護してきた。3年前にいったん退職してパート勤務に切り替え、開店準備を進めてきた。

 告知を受けた日と同じ今年1月19日、セレクトショップ「AIM」をオープン。「いかにもケア用品という店にはしたくなかった」という言葉通り、下着や帽子、前開きのワンピースなどは、どれもおしゃれで華やか。今では病気とは関係のない客が多いという。

 午前中は病院で働き、午後から店に立つハードな日々だが、店をやっていて良かったと思える瞬間がある。がん闘病後、職場復帰を機に時折訪れる女性は来る度にきれいになり、おしゃべりを楽しんで帰る。「来週からまた頑張れます」と言う女性の笑顔が、西口さんを支える。

 「きれいな物を身に着けると女性はそれだけでわくわくするもの。全ての女性が安心できる場所でありたい」。自身が困難を経験したからこそ、心からそう思う。(福井一基)