コロナに立ち向かう卓球場は今【特集・卓球の再開を考える(3)】

新型コロナウィルスに翻弄された2020年の卓球界を振り返り、「卓球再開」の実態に迫る本企画。第3回となる今回はいわゆる「町の卓球場」の現状に迫る。

ステイホーム期間を経て運営を再開した卓球場は、コロナにどう立ち向かっているのか?

「個人レッスンのみ」からの営業再開

都内の人気卓球スクール「クニヒロ卓球」(荻窪・代々木の2店舗)が営業を再開したのは5月26日。緊急事態宣言解除の翌日だ。「営業再開に向け、生徒さんに安心して来てもらうために出来る工夫は全てしました」と国広哲弥氏(クニヒロ卓球代表)は語る。

写真:プレーヤー同士の飛沫防止対策のために透明なパーテーションを設置した/提供:クニヒロ卓球

まず空気清浄機と空間除菌を8台と、全ての台にパーテーションを設置するなどの設備投資を進めた。また卓球台やボールを含む室内全体を消毒している様子をYoutubeにアップするなど目に見える形でコロナ対策を徹底した。

また再開当初はコーチ1名が生徒1名を指導する「個人レッスン」のみの営業とし、室内が密になる状況を避けたほか、コーチにはレッスン中もマスクの着用を義務付けた。

それでも6月頃までは「まだ怖い」「家族の反対にあってまだ行けない」という生徒も多かったが、9月頃より徐々に客足は戻りつつあるという。

台数減に顧客離れ。それでも、、、

東京・西蒲田に位置する東京テーブルテニスクラブ(以下、TTC)は卓球台12台を並べる都内最大級の卓球場だ。TTCが営業を再開したのは5月7日。当初の緊急事態宣言が4月7日〜5月6日と設定されていたため、早々に独自の運営ガイドラインを設け、ホームページで告知をした。その後、緊急事態宣言は5月25日まで延長されたが、徹底した安全対策をし、「当初の予定通りに営業再開する」という意思決定をした。

写真:今やボールの消毒も日課となった/提供:東京テーブルテニスクラブ

公開したガイドラインには、入退出の管理や各所の消毒、換気の徹底に加え「体調の異変、咳や風邪の症状が見受けられた場合には、ご退場をお願いしております」と慎重を期した文言も並ぶ。

写真:独自のガイドライン。「コロナ対策」を重視している店舗であることが伺える/提供:東京テーブルテニスクラブ

5月時点で「どのようなコロナ対策を行っているか」について詳細を公表している卓球施設はさほど多くない中で、TTCは積極的にコロナ対策についての情報を発信した。

「以前卓球場で感染者が出たニュースによって、世間一般の卓球のイメージがどうしても室内でやる、密になりやすい状況でやるというイメージがあるので気をつけながらやらなきゃいけないと頭にありました。他の卓球場の動向にもかなり目を配っていましたね。同業他社が再開の目処が立たないようだったらこちらも考えなきゃいけないと頭にありました」とスタッフの高橋氏(TTC)。

一方で経営には大きな影響が続く。12台設置という卓球台数の多さが売りのTTCも現在は台の間隔を空けるために2台減らし、10台での運営を強いられているため、稼働率ビジネスである卓球場としてはその分売上が下がってしまう。

また、人気の使い放題プラン「フリーパス」(レッスン以外の時間に自由に卓球台を使えるプラン)も、定員をコントロール出来ずに3密を招くリスクがあることから、約1ヶ月程度運用をストップしていた。

だがお客さんが卓球場に足を運ぶことがなくなった状況でも、スタッフがこまめにお客さんと連絡を取り合っていた。このマメなフォローの効果もあり、徐々に客足は戻りつつあるという。早期に営業を再開し、自ら情報発信をし続けたことで卓球愛好家の信頼を得られたようだ。

クラウドファンディングでの資金調達に成功した話題の卓球場は今

写真:卓球広場Linkの関口裕太さん(左)と宇佐美さん/撮影:ラリーズ編集部

昨年8月、JR山手線の円のちょうど真ん中に位置する飯田橋エリアに卓球広場Linkはオープンした。

卓球愛好家の関口裕太氏と宇佐美氏が、クラウドファンディングで約170万円を集めてオープンした卓球場は、新型コロナの影響を大きく受けた。

「営業中止によって、それまで来ていたお客さんの半分くらいがもう来なくなってしまいました。特にサラリーマンで会社帰りに来て下さっていた層がほぼ居なくなってしまった。最近は近くに住む子供たちの入会者が増えたおかげでなんとか成り立っています」(宇佐美氏)

ただ、変化への対応スピードも早い。存続支援のクラウドファンディングで更なる資金調達を行いつつ、ニーズが確実にあるジュニア層の集客を強化中だ。10月にはオープン1周年を記念して、小学生以下を対象とした大会も主催した。

「定員を60人に絞って募集をしたところ、コロナ禍ということもありキャンセルも相次いで最終的には50名ほどの参加となりました。試合以外の待ち時間や応援時は必ずマスクを着用するお願いをし、卓球台も15台のうち3台を予備として使用するなどコロナ前とは違う景色でした」(宇佐美氏)と開催の苦労を覗かせた。

写真:小学生向け卓球大会の様子/提供:卓球広場Link

それでも大会開催による手応えもあったようだ。「他のクラブのお子さんたちとなかなか試合する機会がないと思い、1周年の恩返しの意味を込めて大会を主催しました。コロナ感染予防をしながら、短時間での開催となりましたが、日頃の成果を発揮して楽しんでくださった方がほとんどで、大変うれしかったです。引率の保護者様や指導者様のおかげで、大きなトラブルなく無事でき、感謝の気持ちでいっぱいです」(関口氏)

ただ、卓球広場Linkの挑戦はここに留まらない。宇佐美氏はジュニア世代が卓球練習の前後で勉強も出来る教育プログラムを開発中だという。一方の関口氏はTリーグ琉球アスティーダ東京支部の応援団長に任命されるなど、その積極的な企画・発信力でコロナ禍においても存在感を示している。

今回はコロナ禍の苦しい経営環境に立ち向かう卓球場の今をお届けした。地域の卓球愛好家に支えられ、今日も全国の卓球場でラリーが続いている。

次回は「卓球台の新型コロナウィルス対策」についてお届けする。

企画協力:慶応義塾大学卓球部
文:松尾仁史

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