憲法遵守の精神、防衛にこそ徹底教育を

 北澤俊美元防衛大臣(参議院議員)が「安倍政権以来、自民党は憲法を守らず、政治を私物化する『立憲ハザード』を引き起こしている」と赤旗日曜版インタビュー(10月11日号)で警鐘を鳴らし「憲法や歴史を尊重し敬意を持つ姿勢がまるでない」と危惧した。「集団的自衛権の行使は明らかに憲法違反だ」とも断じたうえで「菅義偉総理も安倍内閣で官房長官として支えてきた共犯の責任は免れない」と指摘した。

 その安倍晋三総理の下で、3度にわたる定年延長で昨年4月退官した河野克俊前統合幕僚長はジャーナリスト・斉藤勝久氏のインタビューに「安倍氏は自衛隊の地位を高めた大恩人」と持ち上げ「平時から米軍の軍艦や軍用機を守ることができるようになったことで、米軍関係者から『日本は変わった』と感謝されました。安倍総理は日米同盟の深化にも大きく貢献された」と破格の評価をしている。

 直近では菅内閣の下、9月18日に防衛大臣政務官に就任した松川るい氏との同月4日の自民党「CafeSta」対談で、松川氏が憲法前文を取り上げ「(平和を愛する)諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した、ってバカじゃないのって話ですよ」と国会議員として許されない『憲法軽視発言』にも、河野氏は「小学生に教えられますかって話ですよ。ここはねえ、何としても変えてほしい」と返答。これに松川氏は「私も同じですよ」と二人が握手を交わした。この光景は異様だ。

 河野氏は昨年まで自衛隊運用に関する軍事専門家として防衛大臣の補佐を一元的に行う最重要職にあった。松川氏は現在、防衛大臣政務官の要職に就いている。こうした立場のふたりが、憲法文言の歴史的重み、意義、精神を重んじて、防衛という課題に取組む姿勢を原点にしなければならないのに、こうも軽々に扱うことが許されるのか、防衛省・そして自衛隊という組織に、憲法がどのように浸透しているのか、危うさを感じざるを得ない。

 同様に憲法に対する姿勢に危惧する案件が幹部自衛官を養成する教育訓練機関「防衛大学校」の校長も務めた西原正・平和・安全保障研究所理事長の寄稿文にも表れている。防衛省や自衛隊活動を報じる専門週刊紙「朝雲」の9月10日号に寄稿した「複雑化する国際情勢における日米同盟の役割と展望」の一文。

 西原氏は「これまでの外交の弱点は、外交を支える防衛力(相手に対する威嚇力)の不足にあった」と論じ「自衛権の範囲を柔軟に解釈することで、外交力を効果的に伸ばすことができる。日本は『普通の国』に近づくことを怖れるべきではない」と論じている。

敵基地攻撃能力保有を自衛権の範囲を柔軟に解釈することで正当性を持たせ、外交交渉力と抑止力を高めることができるとの視点の論理だと、筆者は受け止めており、危険を感じる。

 憲法9条は「武力による威嚇、武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」としている。実力部隊や装備力を背景に威嚇を持って外交交渉することは許されない。憲法が許容しているのは「自衛のための必要最小限度の実力保持である」(政府見解・令和2年版防衛白書)。敵基地攻撃能力の保有は専守防衛の国是を逸脱するものと言わざるを得ない。

 安倍政権は憲法9条の「解釈改憲」を閣議決定で実施し、そのもとに安保関連法制を一括成立させてきた。政権交代が実現すれば原点に立ち返り、見直す必要があるだろう。北澤元防衛大臣はインタビューで「自衛隊については精強な部隊が必要と考えている。しかし、専守防衛は憲法9条から導かれた政治的遺産。絶対に踏み外さないように、と防衛省幹部会議などで言ってきた」と語る。自民党元幹事長の古賀誠氏も「9条は世界遺産」と、いかに日本の平和憲法を象徴する条項かを表現する。

 防衛という国家の安全保障を担当する分野のトップ層が、憲法を軽視する姿勢は絶対にあってはならない。憲法遵守の精神は防衛分野にこそ、徹底教育をされるべきものといえよう。(編集担当:森高龍二)

防衛という国家の安全保障を担当する分野のトップ層が、憲法を軽視する姿勢は絶対にあってはならない

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