退職金がなく老後資金作りに焦る36歳「支出を限界まで絞って投資に回したい」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、36歳、会社員の男性。会社に退職金制度がないため老後資金のために投資を始めたという相談者。老後が不安なため、支出をできるだけ絞って投資に回したいといいますが…。家計再生コンサルタントの横山光昭氏がお答えします。

もっと投資にお金を回したいと思っています。投資のために、支出をさらに削りたいのですが、どのように絞るとよいでしょうか。現在も結構がんばっているのですが、まだ絞りたいです。

自分が勤める会社は退職金制度がなく、自力で人よりも多く老後資金を作らなくてはいけません。今まではあまり貯金しようとも思わず、ほとんど貯めていませんでした。ですが、年金が減るとか、老後破綻などの話を聞くうちにだんだんと将来が不安に思え、老後資金を今からしっかり作らなくてはと思ったのです。

そのため1年ほど前からiDeCoを始めています。貯金よりもかなり利回りがよく、効率が良いと感じました。このままいけば貯金をするよりも、投資で老後資金がしっかりできるのではないかと自信が持てたのです。

iDeCoだけでは金額が少ないと思い、つみたてNISAも始めました。が、それでも足りないように感じ、普通の積立投資やもしています。毎月の積立額は何とかひねり出して10万円ほどです。

この投資資金を出すために、スーツや靴の新調や散髪など身なりに関しては、ボーナス支給の時まで我慢する覚悟をもってやっています。食費はランチまたは夕食を摂らない日を決め、節約しています。飲み会なども参加しません。とにかく徹底して削っているつもりですが、まだやれるところがあると思うのです。

どこに注目して支出を削減すべきでしょうか。アドバイスをお願いします。

【相談者プロフィール】

・男性、36歳、会社員、独身

・毎月の手取り収入:29万3,000円

・年間の手取りボーナス:約69万円

・貯金:約20万円

・投資:iDeCo約29万円、つみたてNISA約14万円、積立投資約19万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:9万2,000 円(賃貸)

・食費:2万7,000 円

・水道光熱費:1万4,000 円

・通信費:9,000 円(スマホ代。ネット回線はマンションについている)

・生命保険:7,000 円

・日用品代:6,000 円

・交通費:6,000 円

・被服費:5,000 円

・交際費:0 円

・iDeCo:2万3,000 円

・つみたてNISA:3万3,000 円

・積立投資:4万5,000 円

・その他:2万6,000 円


横山:投資にお金を回したいのですね。ですがその前にご自身の生活がきちんとできているのか、万が一の時のための生活防衛資金ができているのかということが気になります。将来のために頑張ることも必要ですが、今の大切な時期を犠牲にしすぎる必要もないと思うからです。投資額を増やすことだけを考えるより、どうすれば将来の資金を作りながら今の生活を充実させられるのかも、考えていきましょう。

投資をする前に大切な条件がクリアできているか

相談のなかで、気になったことが3つあります。それは
・貯金が少ないこと
・仕事に必要な要件(学習や身なりなど)が保てているのか
・仕事に必要な他社との交流、情報交換ができているのか
ということです。

将来のために投資に取り組むことは、大変良いことです。ですが、投資に充てるお金の工面ばかりを考えていてはいけません。将来を生きる前に「今」を生きているのですから、今の暮らしを充実させ、良いものにしていかないと人生もったいない。また、収入がきちんとあることも投資を継続していく条件になりますから、今ある収入の中で何とか投資額を増やしていくと考えるよりは、仕事面がうまくいき、収入を増やして投資額を増やしていこうとも考えられるはずです。

まだお若いのですから現状だけで固まらず、進化した自分を目指すことも、自己投資という投資の一つです。投資は資産形成に有効なものですが、取り組む姿勢について、改めて考えてみましょう。

お金を貯めるには順番がある

今まで貯金をしてこなかったのに、急に将来が不安になり投資でお金を貯めようと考えたようですが、この「お金を貯める」ということには順番があります。この順番を守らないと生活のどこかにしわ寄せが来て、必要な時にお金を出せないことが起こり得ます。

貯蓄は「使う」「貯める」「増やす」という順番で作ります。

「使う」貯金は毎月増減するもので、安定した生活を送るためのお金です。毎月の生活費の1.5か月分が目安です。このお金をすべて使って暮らすのではなく、イレギュラーな支出があった時に賄えるよう、0.5か月分のゆとりを持たせています。安定して1.5か月分以上のお金がここに貯まるようなら、次の「貯める」貯金に移します。

「貯める」貯金は生活防衛資金となるものです。失業や病気やけがなどによる休職などに備えるためのもので、以前は数カ月で生活が立ち直ることを想定し「6カ月分」を準備することを勧めてていました。ですが今年のコロナ騒動で、なかなか生活が立ち直らないケースが多かったこともあり、最近では会社員の方は1年分ほど、自営業の方は2年分以上を目安に持ちましょうと勧めています。

いよいよ「増やす」貯金へ

この貯めるをクリアできたらようやく「増やす」貯金です。ここには5年以上などしばらく使わないお金を貯める場所です。老後資金作りの投資などが含まれます。

相談者さんの場合は、全てを通り越していきなり「増やす」から始めているので、生活が窮屈になっています。今はお金が増えることに楽しみを感じているので苦痛を感じないのかもしれませんが、増やすお金を作るために生活を切り詰めすぎると、健康を害したり、社会的な信用が落ちてしまったりする可能性があります。ですので当面は投資を最優先するよりも、「今」と「近い将来」にも備えるように意識して貯金を作ることがよいでしょう。

投資は並走でゆっくりと

とはいえ、投資をあきらめることはありません。衣食住に関してきちんと支出し、自分という資本を強化させていく。残るお金で使う、貯める貯金を作り上げる金額を確保できたら、それ以外を投資に充てる。そういう計画でもいいでしょう。貯金額は一度にできるものではありませんから、毎月いくら積み立てて貯金すると決め、まずは足元を固めるのです。

今の暮らし方をみると、iDeCoやつみたてNISAは継続するけれど、それ以外の課税口座でさらに投資されている部分を貯金にまずは回し、貯金を作るというやり方でもいいように感じます。そして、ボーナスの残りを毎月にならしたり、昇給していく中で投資額を徐々に増やしていければ最強です。自分という資本を、強い資金にしていくのです。また、一時的な利回りの良さなどに一喜一憂する必要はありません。積立投資は長期的に投資をしていくものですから、良いときもあれば悪いときもあって当たり前。それよりも継続することが大切です。長く続ければ続けるほど、複利の効果でお金を膨らませ、資産形成ができます。そういう意味では貯金が出来上がる前から始められる、貯金と並走させた投資はやる価値があります。

これからご結婚するかもしれませんし、転職することもあるかもしれません。人生何が起こるかわかりませんが、投資を並走させつつも貯金の順番を守り、現金が持てるようになると、何が起きても対応していくことが可能になります。まずは強い環境で自分を作り、強い家計を作り、強い投資をする。それが安心した老後になることでしょう。

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