九州新幹線長崎ルート 長崎・佐賀両新聞 社長対談

「従来とは違う対応が必要」「長崎、国、JRが新提案を」

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長崎新聞社の徳永社長(右)、佐賀新聞社の中尾社長=長崎市、長崎新聞社

 九州新幹線長崎ルート新鳥栖-武雄温泉間の整備方式を巡る議論が熱を帯びている。「この機を逃せばフル規格が実現しない」と危機感を強める長崎県と、「在来線を利用することが前提で、フル規格は受け入れられない」とする佐賀県の主張が対立している。両県の地方紙合同企画で、長崎新聞社の徳永英彦社長(61)と佐賀新聞社の中尾清一郎社長(60)が、普段あまりふれることのない隣県の思いや現状、事態打開の糸口について語り合った。


 <徳永> 九州新幹線長崎ルートは長崎-武雄温泉間が2022年秋に暫定開業するが、その先の武雄温泉-新鳥栖間がどうなるか全く読めない。この状況が長く続けば、佐賀と長崎両県民の感情的な対立に発展するのではないかと心配している。地方紙同士、客観的な立場で話し合い、好転させるきっかけを探りたい。
 <中尾> 言われる通り。もともとは同じ肥前の国。江戸時代の長崎警備も鍋島藩が担ってきた。佐賀県民の長崎に対する親近感は長崎県民が思う以上だ。その上で新幹線を巡っては、佐賀は長崎のことも考えてぎりぎりの判断を積み重ねてきた。地域を二分する議論の末、肥前山口-諫早間の上下分離に合意した。新鳥栖-武雄温泉間にはフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)を導入し、もともと在来線を利用するのが着工の前提だったのに、突然断念され「フル規格をのめ」と言われても不信感を抱くしかない。
 <徳永> 言われることはよく分かる。現在の事態を招いた原因は国のFGT開発の失敗だ。そこから一気にフル規格に流れ、地元である佐賀の立場に配慮したのかというと足りなかったと思う。長崎にしても事情はあったにせよ、反省する必要がある。
 <中尾> 長崎には佐賀が感情的になってごねていると誤解してほしくない。冷静に考えてもフル規格には問題が多い。フル規格と特急と選択肢が二つに増えるわけでなく、佐賀-博多間を1日約90本走る特急がなくなり、新幹線に置き換わる。時間短縮効果が少ない上に運賃がアップし、不便になるのは佐世保市民も同じではないか。佐世保-博多間の特急がなくなり、武雄温泉駅でリレー(対面乗り換え)方式で乗り換えなければならない可能性がある。

五つの整備方式の比較検討

 <徳永> 佐賀県の山口祥義知事が言う過去の経緯や手続き論は圧倒的に正しい。FGTの前提が崩れたので元に戻り時間をかけて議論すべきとの主張も正しい。ただ、行政も民間もそうだが、何かを先に進めようとする際に時間軸の設定は必要だ。長崎ルートは50年かかった事業だから、これから10年議論しようというのは時間軸があまりに広すぎる。一定時間を区切り、言いたいことを言い合い、折り合わなければストップすればいい。その協議に乗ってもらえないかと思う。長崎県の中村法道知事が協議を申し入れても、「新しい提案がないならば会う必要はない」と応じられない。本意が分からないので、手の打ちようがない。
 <中尾> これまでの経緯を知らずに発言だけを聞くと取り付く島もないように見えるが、フル規格について協議のステージを上げるヒントは山口知事の言葉から読み取れる。「国、JR九州、長崎県はフル規格を求めることはあれど、何か具体的な提案があっただろうか」と疑問を呈し、「新しい提案があれば会って話を聞く」とも明言している。具体的な提案をしてくださいというサインと見るべきではないか。

九州新幹線長崎ルートの経緯

 <徳永> それは例えば、佐賀県の財政負担を減らすことや並行在来線を今のまま残すことに踏み込んで提案すべきということか。
 <中尾> その通りだが、山口知事は国の責任であるFGT断念に関し、「佐賀から打開策を提案すべきものだと思わない」とフル規格に同意するための条件提示はしていない。物事を動かしたいのなら、長崎、国、JR九州の側から新しい提案をすべきでは。
 <徳永> 財政負担の軽減は佐賀の立場から言いにくいのは分かるので、長崎県知事の方から伝える手がある。事態の責任が国にある以上、長崎も一緒になって「おかしい」という声を上げなければならない。両県知事が話をし、佐賀には長崎を使ってほしい。
 <中尾> 佐賀が求めるのはシンプルで、三つあると考える。まず国はFGT断念について国交相なりが公式に県民に謝罪のメッセージを出すこと。そして普通、謝ったのならば対案を出すものだ。沿線距離に応じて地元が負担する現在の財源スキーム(枠組み)は見直すべきではないか。国が仮定を置いて試算した実質負担額660億円も佐賀にはとても重いが、新幹線の建設費は当初の想定より上振れすることが常態化している。二つ目は財政負担の軽減と、後に上振れしないという保証だ。三つ目が佐賀にとって大切な在来線特急の利便性を佐世保線も含めて維持するというJR九州の確約だ。

財源スキーム

 <徳永> 国の失策で事業が行き詰まった前例のないケースなので、従来とは違う対応が必要。国交省も「佐賀との協議で整備方式の選択にある程度のめどが付けば、財政当局やJR九州など関係者と調整し、具体的な提案ができないか考えたい」と財源スキームの変更をにおわせているが、官僚だからそれ以上は言えない。最後は政治で判断しなければならないが、佐賀が「フルは駄目」と言うので、具体的な提案をするのが難しい。「フルはいいが条件次第」という雰囲気が見えてくれば。現状は提案したら乗ってくるのかさえ見えない。このまま新鳥栖-武雄温泉がフル規格でつながらなければ、長崎ルートは典型的な「無駄な公共事業」になってしまう。
 <中尾> 事態を打開するには長崎と国、JR九州から新しい提案をするのが現実的というのが、地元新聞社としての推測だ。むしろボールはフル規格で整備したい側にあるのでは。佐賀がごねているから長崎の夢である新幹線が頓挫していると思われるのは非常に残念で、そんなことがあるわけがない。佐賀が受け入れ難い現状を、長崎県民にも自分のこととして考えてもらえないだろうか。
 <徳永> フル規格を推進している長崎と、受け入れられない佐賀が対立しているような構図は、国の責任をあいまいにしかねず、両県にとって好ましい状況ではない。