【大学野球】最速156キロにダル級SNS発信力? ドラ1候補の苫小牧駒大・伊藤大海を徹底解剖

苫小牧駒大・伊藤大海【写真:石川加奈子】

10種類にも及ぶ多彩な変化球、ストレートは最速156キロ…

2020年プロ野球ドラフト会議が26日に行われる。苫小牧駒大の伊藤大海投手(4年、駒大苫小牧)には、過去に例のない北海道の大学から1位指名の期待がかかる。侍ジャパン大学代表でクローザーも務めた156キロ右腕の魅力に迫る。

◯ボール

最速156キロを誇る直球には力がある。回転数は2300を超えるが、伊藤は「回転数が多いから速くなるわけではないんです。しっかり縦に回転しているか。向きと傾きを重視しています」と語る。確認手段は遠投で、ブルペンでの投球は週1回程度。「遠投で(相手の)胸元に収まれば、(ホームベースまでの)18.44(メートル)はオモチャ」と笑う。

「小さい頃からキャッチボールをしっかりやってきて、高校時代もコントロールに困ったことはないです」と制球力の高さにつながっている。今秋の北海道六大学リーグではプレーオフも含め6試合38回1/3を投げて、四死球は9個だった。

変化球も多彩だ。主体とするスライダー、カットボール、カーブ、スプリットのほか、チェンジアップ、ナックルカーブ、ツーシーム、フォークも操る。スライダーは縦と横の2種類、チェンジアップもサークルチェンジと直球の握りに近い高速チェンジアップの2種類。細分化すると合計10種類にも及ぶ。

ボールを操る能力の高さは、ボールの中心にあるコルクを意識するという独特の感性から生まれているのかもしれない。「小さい頃から中心をイメージして投げてきました。何でも芯で捉えることは大事ですから」と伊藤は言う。

昨冬の大学日本代表候補合宿で伊藤とキャッチボールをした星槎道都大の河村説人投手(4年、白樺学園)は「見たことのないボールが来て、捕るのが怖かったです。リリースがほかの人と違って、バチンという感じ。回転数がすごくて、本人に冗談交じりで『8回伸びている』と言ったほど。マンガみたいでした」と証言する。

日本ハムの白井康勝スカウトは「魅力はストレートの強さと変化球の多彩さ。これだけ変化球があるので、先発、後ろ、どちらでも面白い」と即戦力として高く評価している。

苫小牧駒大・伊藤大海【写真:石川加奈子】

駒大を1年秋で退学し、苫小牧駒大へと入学し直す異色の経歴

◯人間性

信じた道を突き進み、妥協を許さない。駒大を1年秋で退学すると、将来のプロ入りのため肉体改造に着手した。当時85キロあった体重を計画的に10か月かけて10キロ落とし、そこからトレーニングで6キロ増量。理想の体を作り上げ、フォームも一から見直した。

翌春入学した苫小牧駒大では規定により1年間公式戦に出場できなかったが、その期間も打撃投手を務めながら打者の反応を見て、変化球を磨くなど時間を無駄にしなかった。

自身の持ち味について伊藤は「気持ちの部分で相手に引けを取らないところ。スピードや変化球が注目される部分だと思いますが、それ以上に自分が大事にしてきた野球に取り組む姿勢をこれからも大事にしたいと思っています」と語っている。

気持ちの強さは大きなセールスポイントだ。「元々負けず嫌い」という性格に加え、自ら苦労を買った経験が生きているのだろう。テレビカメラやスカウトが大挙するほど燃える。「そういうことを楽しめるタイプなので、それは自分の強みでもあると思っています」と大舞台で力を発揮できる精神力を持っている。

気迫を前面に出した投球スタイルは、駒大苫小牧の先輩にあたる田中将大投手(ヤンキース)に重なる。実は伊藤が高校2年春の甲子園出場時に付けていた背番号は、田中が高校時代最初に付けた「15」。“マー君2世”と期待されていた。「(当時の)茶木(圭介)部長から『気持ちの強い選手だった』と聞いていました。駒苫のエースとして、気持ちの部分では負けてはいけないと思ってプレーしていました」と偉大な大先輩の背中を追いかけて過ごした高校生活だった。

もう1人、伊藤が影響を受けたプロ野球選手がいる。同じ鹿部町出身で、脳腫瘍を乗り越えたカムバック賞を受賞した故・盛田幸妃氏だ。小学生の時、地元で開催された野球教室に参加した。「体が大きいという印象でした。その頃からプロになりたいと思っていたのですが、身近にプロがいたことで、(プロの世界が)遠いという感覚にはならなかったです。田中さんもそうですが、節目、節目でプロへの気持ちを感じ取れる機会があって、心の支えになりましたし、刺激をもらいました。そういう巡り合わせが良かったと思います」と伊藤は振り返る。

ツイッターとYouTubeを活用して情報発信にも積極的

◯発信力

ツイッターとYouTubeを活用して、自身の経験やトレーニング方法、技術論を伝えている。きっかけは“浪人時代”にあった。母校の駒大苫小牧で練習を手伝いながらトレーニングに励んでいると、後輩たちから質問されることが多かった。「自分のためになりましたね。引き出しが増えました」と考えていることを表現する力が身についた。「自分が高校生の時には、自分が思っていることを言葉にする力がなくて、違った解釈をされることもあったので、言葉の表現は大事だと思います」と語る。

高校生と会話を重ねるうちに、自らの経験や考えていること、取り組んでいることを「自分だけのものにするのはもったいない」と思うようになった。「少なからず材料にして取り組んでくれるならやってみよう」と昨オフからツイッターを始め、今年3月からはYouTubeチャンネルを開設した。

情報発信でのお手本は、ダルビッシュ有投手(カブス)だ。子供の頃から大好きで「ピッチャーになりたいと思ったのもダルビッシュ選手に憧れがあったから」と打ち明ける。今でも「野球人としての取り組みは真似していけたらなと思います」と尊敬の眼差しを注ぐ。

SNSで技術論を展開する際には、小・中学生を意識しているという。「ダルビッシュ選手は現役のプロや大学生、高校生向け。僕はもう少し掘り下げて、中学生、小学生にいけたらなと思っています。今はどの世代にも(情報が)届きやすい。この環境を利用しない手はないですし、今の小・中学生が将来のプロ野球につながれば、意味があるのかなと思います」。野球少年が激減する中、野球人口拡大まで念頭においた活動だ。

小学生の弟に感想を聞いて「分かりにくい」と“ダメ出し”されると反省し、小学生でも分かるような説明を心がけている。「自分の技術を話す機会はそんなにないので楽しいです。コメントも見ますよ。『ためになる』と言われたらうれしいです」と屈託なく笑う。プロ野球選手になっても、球団の許可があれば継続したい考えだ。

グラウンド内外で様々な経験を積んできたタフな23歳。どの球団から指名されるのか、目が離せない。

【動画】雰囲気のあるマウンドさばき ドラフト1位候補、苫小牧駒大・伊藤の実際の映像

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(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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