『帝国の島 琉球・尖閣に対する植民地主義と闘う』 東アジアの近代「知」に対峙

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 今日(こんにち)の世界は洋の東西を問わずに、過去の被害が呼びもどされ、歴史認識の問題が新たな紛争の火種となっている。いわば歴史の政治化によって「過去」が紛争化させられているのである。
 トランプ米大統領は例外国家「アメリカ」を見事に体現する。それは20世紀の覇者として君臨した帝国の末路のゆく先とその断末魔のように見える。コロナ禍で加速するアメリカ社会の分断、内破する人種・格差・性差の断層をこれほど見事に摘出した稀有(けう)な大統領である。民主主義が瓦解(がかい)するだけでなく、国際秩序をけん引したアメリカの落日は、既視感を大きく揺さぶっている。
 東アジア世界にあっては中国の大国化を横目ににらみながら、戦後75年を境目に朝鮮戦争の終結が現実味を帯び、米朝「和解」が俎上(そじょう)にのることで日米安保体制の揺らぎも不可避となった。揺らぐ世界にあって沖縄の歴史意識は常に日本/世界と沖縄との連鎖とその関係性のなかに置かれている。本書は、東アジアの近代「知」の形成に対峙(たいじ)し、琉球・尖閣に対する植民地主義と闘う著者の矜恃(きょうじ)が開陳されている。
 本書の具体的な叙述の始まりは、「近代」の知の構造とその根源に埋め込まれた植民地主義があることを明確に問うことにある。それは心底から絞りだされる叫びにも似て鬼気迫るものがある。著者の一連の著作から感じるのは、琉球民族としてのアイデンティティーを見据えることをやめない真摯(しんし)なまなざしと自覚的な個の情念ともいえる。
 今年、日本政府は「領土・主権展示館」をリニューアルすれば、中国も「尖閣デジタル博物館」をネット上に開設したように、尖閣諸島の帰属をめぐる問題はまさに歴史の政治化によって「過去」が紛争化させられている。この対立軸に埋め込まれた沖縄のあらがいは、幾重にも重層化した形で生活の中に刻印されていることを解き明かすのが本書である。帝国日本によって奪われた海洋空間のなかの沖縄の姿に目を凝らすことが求められている。そのためには『越境広場』7号(2020年)特集「島嶼(とうしょ)の政治性」もあわせて併読することを薦めたい。
 (佐藤幸男・政治学者、富山大学名誉教授)
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 まつしま・やすかつ 龍谷大学経済学部教授。琉球独立を目指す研究や運動で活躍。近作に編著の『琉球人遺骨は訴える 京大よ、還せ』(耕文社)、『談論風発 琉球独立を考える』(明石書店)。ほかにも『琉球独立宣言』(講談社)など著書多数。