【社会人野球】甲子園沸かせた富山の“逸材左腕”の紆余曲折 怪我と挫折乗り越えて迎える運命の日

Honda鈴鹿・森田駿哉【写真:福岡吉央】

富山商、法大でも話題になった151キロ左腕・森田駿哉投手

森田駿哉投手。その名前を聞けば、アマチュア野球ファンの心は揺さぶれるのではないだろうか。富山商では北陸のドクターKとして話題を集め、甲子園で2勝を挙げ、ベスト16に進出。侍ジャパン高校代表にも選出された。法大を経て、Honda鈴鹿に入社。ドラフト指名解禁となる社会人2年目の今年、ドラフト候補に名を連ねる。23歳になった最速151キロ左腕は今、どんな心境でいるのか。

森田が投手を本格的に始めたのは高校生になってから。中学までは外野手も兼任だった。富山商で投手としてのイロハを学んだ森田は、高3の夏、甲子園に出場。日大鶴ヶ丘(西東京)を2-0で完封し、続く関西(岡山)戦でも1失点で完投。3回戦の日本文理(新潟)戦で5-6で敗れた、7回1失点と安定感を見せ、高校日本代表にも選出された。そしてU-18W杯では韓国戦で8回1/3、無失点の成績を収めた。

「富山にはプロを目指しているような選手はいなかったし、甲子園に出る前から大学に進学する予定だった。プロを目指すのは大学で実績を残してからでもいいと思っていたので、甲子園では集中して投げられました。富山では敵はいなかったけど、高校ジャパンでは、自分よりも凄い選手たちがいて、プロに行く選手は考え方も野球に取り組む意識も違うんだというのを肌で感じることができました」

高校日本代表には、後にプロ入りし、活躍する智弁学園の岡本和真(現巨人)、前橋育英の高橋光成(現西武)、春江工の栗原陵矢(現ソフトバンク)、横浜の浅間大基(現日本ハム)、日本文理の飯塚悟史(現DeNA)、大阪桐蔭の香月一也(現巨人)ら、錚々たるメンバーがいた。

大学進学時にはプロ志望届は提出せず。1年春は試合にも登板したが、その後、左肘を痛め、試合から遠ざかる。そして2年冬に左肘を手術。肘頭の部分にボルトを入れたことで、ようやく痛みから解放された。

「大学時代は1つの挫折というか、肘が治ってからも、今まで出ていた結果がなかなか出なかった。もっと野球のことを考えないといけないし、自分の体も自分自身で気をつけないとダメなんだなと考えさせられた」

Honda鈴鹿では恵まれた環境…3人の元プロのコーチからの指導

その後、4年春にリーグ戦にも復帰。だが、勝ち星は1年春に挙げた1勝に終わった。「ダメ元で」プロ志望届も出したが、ドラフトでは指名されず。復活をかけてHonda鈴鹿に進んだ。そして社会人では、1発勝負の重みや責任感を感じながらプレーするようになったという。

「社会人野球は独特な1発勝負があり、1球に対する重みが違う。人も少ないのでケガもできない。お金を頂いて野球をするようになったのが学生と一番違うところで、責任が問われる。過程よりも結果で見られるというのを強く感じています」

Honda鈴鹿には3人の元プロのコーチがいる。捕手として大洋、横浜、西武でプレーした今久留主成幸コーチ、投手としてダイエー、ソフトバンクでプレーした岡本克道コーチ、内野手として近鉄でプレーした武藤孝司コーチだ。森田は恵まれた環境で指導者たちの教えに指導に耳を傾け、プロ入りに近づくために練習に励んできた。

「今久留主さんからは投げる時の腕の位置、岡本さんはメンタル面について、武藤さんは野手目線で打者の心理や投げる時のテンポについて、教えてもらっています」

直球の最速は151キロ。森田はより速い球を投げるために、これまでは少しでも上の位置から投げようと、オーバースローを続けてきた。だが、昨冬参加した台湾でのアジア・ウインターリーグで腕の位置を少し下げ、しっくりくるフォームにたどり着いた。

「速い球を投げるために上から投げていたのを、気持ち斜めの位置にしたのが一番大きい。スピードを出したいがために、自然とそういう動きになっていた。でも、ウインターリーグの時にたまたま腕が自然と下がっていて、今久留主さんからも『それがいい、それがずっと言いたかったことなんだよ』と言われ、今年から本格的に意識するようになりました」

Honda鈴鹿・森田駿哉【写真:福岡吉央】

テレビで見る同級生たちの勇姿「負けたくない。自分もその同じ舞台でプレーしたい」

直球、スライダーを中心に、打者から逃げていくボールを混ぜながら組み立てるのが森田のスタイル。最速は151キロだが「そこが全てではない。スピードも求めつつ、制球の中で出していければいいのかなと思っている」と、質にこだわる。

入社1は目立った成績を残すことができず、昨年は公式戦登板なし。そして今年9月に行われた都市対抗野球の東海地区2次予選では先発の役割を担った。JR東海戦に先発し、3回1/3、無失点。だが、第1代表決定戦となったトヨタ自動車戦では、ドラフト1位候補として注目を集める栗林との投げ合いの中、2回2/3、4失点で無念の降板。先発の役割を果たすことはできなかった。

一塁手と投手を兼任していた子供の頃、憧れていたのはカブレラや李承ヨプだった。そして、高校ジャパン入りし、プロへの夢が現実のものになった。あれから6年。今では、かつて同じジャパンのユニホームに袖を通した仲間たちが、プロの世界で活躍している。テレビで同級生たちの勇姿を目にしている森田は「プロ野球を見ていると、単純にすごいなと思うし、負けたくない。自分もその同じ舞台でプレーしたい。まだまだ頑張らなきゃなと思う」と、声を弾ませる。

ドラフトまであと数日。「前日、当日はドキドキすると思うけど、まだ落ち着いています」と話す森田。プロの世界では「チームに必要とされる選手、勝ちゲームでその中心にいられるような選手を目指していきたい」と決意は固い。

「厳しい世界だと思いますけど、選ばれたらこの目標を達成できるよう、戦う準備をしたいと思います」

甲子園出場、高校日本代表選出、大学での左肘の手術、そして再起をかけた社会人と、紆余曲折を経てたどり着いたプロ入りのチャンス。森田は新たな頂きに挑むべく、朗報が届くのを楽しみに待っている。(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)

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