【社会人野球】ドラ1候補・栗林良吏のフォークは「マー君みたい」 元鷹捕手が絶賛する勝負球

トヨタ自動車・栗林良吏【写真:荒川祐史】

横浜、ソフトバンクでプレーしたトヨタ自動車・細山田がドラ1候補・栗林を語る「頭のいい、野球勘がいい選手」

今秋のドラフトで1位指名候補として注目を集めているトヨタ自動車の栗林良吏(りょうじ)投手。チームメートには横浜、ソフトバンクでもプレーした細山田武史捕手がいるが、16年にトヨタ自動車を都市対抗野球初優勝へと導いた元プロ捕手は、栗林のその能力の高さをどう見ているのか。そして女房役として何を教えてきたのか。10月26日のドラフトを前に話を聞いた。

08年のドラフトで横浜から4位で指名され、早大からプロ入りを果たした細山田。09、11年には横浜で主戦捕手としての座をつかんだ。その後、14年に育成選手としてソフトバンクに入団。翌15年に支配下選手登録された。そしてその年のオフに戦力外となると、社会人のトヨタ自動車に入社。今年で5年目を迎える。現在34歳。ベテランの域に達した細山田は、今も縁の下の力持ちとして、ブルペンでトヨタ自動車の投手陣を支えている。

そんな細山田が初めて栗林のボールを見たのは、まだ栗林が名城大でプレーしていた時だった。オープン戦で名城大と対戦した細山田は、打席で見た栗林の直球を、今でもはっきりと覚えているという。

「内角の直球に手が出なくて三振しました。僕、対戦した人の名前ってほとんど覚えないんですけど、その時の投手が栗林だったっていうのは覚えていた。トヨタ自動車に来た時も、球がめちゃくちゃ速いなと思ってブルペンで受けていました。とにかく直球が速いという印象でしたね」

栗林の現在の持ち球はカットボール、カーブ、フォーク。だが、トヨタ自動車に入社した当時はカーブではなくスライダーを投げていた。

「カットボールはいつでもストライクが取れる。スライダーは打たれそうなので、やめた方がいいと言いました。フォークは去年は落ちがあまり良くなかったんですが、今年になってとてつもなく良くなった。今年はいいところからギュンって落ちる。落差がある。直球にカーブがあって、このフォークが加わったので、今年は打たれない、手をつけられないだろうなと思っていました」

1年目から弱点を指摘「アウトローにしっかり投げこめないとプロでは通用しない」

プロでも若手からベテランまで数々の投手の球を受けてきた細山田。プロに行く素材だと感じる栗林に対しては、先を考え、1年目からしっかりとその弱点も指摘していた。

「時々抜いて投げる時があるので、しっかり腕を振って投げるよう言いました。あと、右打者の外角への直球がシュートして中に入ってくることが多かったので、アウトローにしっかり投げこめないとプロでは通用しないよという話はしました」

栗林は「考える力がある」と語る細山田。マウンドでの姿を見ていても、工夫を感じるという。

「クイックで投げたり、長く持って投げたり、嫌なら首を振って投げることができる。間合いを大事にしている。そういう能力が長けている、頭のいい、野球勘がいい選手。プロの方がストライクゾーンは狭いですが、栗林はストライクゾーンの中で勝負できる投手。十分プロで結果は出せると思います」

では、栗林のボールにはどんな特徴があるのだろうか。細山田は栗林のカーブについて、ソフトバンクの守護神・森唯斗のナックルカーブや先発の武田翔太のカーブのような軌道で、打者を打ち取るために大きな役割を担っていると説明する。

「栗林のカーブはカウントも取れるし、打者の目線がぶれる。森や武田みたいに浮く軌道なので、バッターは体を起こされる。左打者は外からくるので、膝下に落ちれば空振りが取れる。浮いてくるカーブに加え、速い直球と、そこから落ちるフォークがあるので、追いかけないといけないが、全部には対応できない。カーブが来て、次、打たなきゃと思って直球に合わせようとすると、フォークがパッと落ちる。だから手がつけられない。カットボールもあるから、打者がボールについていくようなら、カットで詰まらせることもできる。いいことづくしですよ」

トヨタ自動車・細山田武史【写真:荒川祐史】

「マーくんの時は直球かと思って振ったら消えたが、栗林のフォークはそんな感じ。それくらい落ちる」

縦振りのフォームから繰り出されるフォークも140キロを超える。軌道もバリエーションがあり、特に右打者に有効なのだという。「ソフトバンクの千賀滉大ほどお化けフォークではないですが、千賀のちょっと落差がないバージョン。球速的にはスプリットみたいで、右打者の内角にギュンと落ちるので、空振りが取れる。真っ直ぐに落ちたり、斜めにスッと落ちたりして、軌道は1種類ではない。フォークでストライクも取れるし、ストライクゾーンからボールゾーンに落とすこともできます」

そのフォークは、打席に立った印象では「マーくん(ヤンキース・田中将大投手)のスプリットみたいな感じ」だという。細山田は「(当時楽天にいた)マーくんの時は直球かと思って振ったら消えたが、栗林のフォークはそんな感じ。それくらい落ちる。三振が取りたい時に1球で三振が取れるボールです」と絶賛する。

ソフトバンクでは、千賀、東浜、和田、武田、石川ら数多くの優秀な先発陣の球を見てきた細山田は「ホークスの投手はレベルが高いと思ったけど、栗林もそのレベルだと思う。受けた感じでは、ホークスの先発陣の中に入ってもあまり見劣りしないと思う」と話す。「直球はちゃんと指にかかっている時のキレは千賀くらいあると思う。球速はあそこまでないが、パーンと叩いているし、プロでもいけそうな気がする。絶対にローテで投げるでしょうね。直球はえげつなく速く、総合力も高いので、先発だけでなく、後ろでも投げられると思います」。

18年にはドラフト4位で富山凌雅投手がオリックス入り。栗林がプロに入れば、細山田がトヨタ自動車に入社してから、ブルペンでアドバイスを送ってきた投手2人目のプロ誕生となる。

「もちろん富山のことも応援していますし、後輩がプロに行くのは嬉しいこと。栗林も真面目な選手ですし、いい環境で頑張って欲しいですね」

将来を考え、若手捕手を育成しなければならないチーム事情もあり、今年はまだ公式戦出場はないが、どっしりと構えてブルペンで投手陣を支えている細山田。元プロ選手として、そしてチームを支えるベテラン捕手として、細山田は親心を持って、栗林のプロ入りが決まる日を待ちわびている。(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)

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