なぜここまで鷹周東は盗塁を量産? 元コーチが指摘する“不完全でも成功”の妙

初回に9試合連続盗塁を成功させたソフトバンク・周東佑京【写真:藤浦一都】

盗塁王争い独走の45盗塁、球団タイ記録の月間19個目をマーク

■ソフトバンク 7-2 西武(25日・PayPayドーム)

ソフトバンクは25日、本拠地PayPayドームで西武に7-2で快勝し、優勝マジックを「2」とした。「1番・二塁」で先発出場した周東佑京内野手が5打数3安打1打点、初回には2つの球団記録に一気に並ぶ二盗を決めた。今月上旬までロッテと激烈な首位争いを展開しながら怒涛の12連勝などで一気に差をつけたチームにおいて、この24歳の働きは大きい。

周東は初回、中前打で出塁すると、続く2番・中村晃の4球目に二盗成功。パ・リーグ盗塁王争いを独走する今季45盗塁目は、10月に入ってから19個目。広瀬叔功氏が1964年5月にマークした球団記録に並んだ。さらに9試合連続盗塁となり、こちらも73年の島野育夫氏の球団記録タイに。71、74年に当時阪急(現オリックス)の福本豊氏が樹立した日本記録の11試合連続まで、あと「2」に迫った。1死後、柳田の適時打で先制のホームを踏んだ。

ソフトバンクは今月9日時点で、2位ロッテにゲーム差なしと肉薄されていたが、翌10日から破竹の12連勝で、一気に優勝に近づいた。連勝は24日に止まったものの、いまやロッテには9.5ゲームの大差をつけている。周東は10日時点で打率.250にとどまっていたが、11日以降の最近13試合で56打数21安打(打率.375)、出塁率.426と急上昇。今季打率は一気に2分6厘もアップし、.276となっている。

チームの快進撃と周東の活躍には、濃密な関係がある。ダイエー・ソフトバンクで13年間コーチを務めて名伯楽として知られ、その後巨人コーチ、オリックス監督などを歴任した森脇浩司氏は「周東がイニングの先頭で出塁すれば、高い確率で二盗を決め、無死二塁で2番・中村晃、3番・柳田、4番・グラシアルを迎えることができる。得点できる可能性が非常に高くなるのは言うまでもない」と指摘。「今後、打順が変わることもあるだろうが、周東が塁に出ただけで、相手バッテリー、ベンチには相当なプレッシャーがかかる。いずれにしても、こうした得点パターンを確立できたことが、ホークスの快進撃につながっていると思う」と続けた。

「周東と本多コーチの会話やアイコンタクトは、何とも不気味で頼もしく映る」

周東は昨年11月、俊足を買われ国際大会「プレミア12」で日本代表に選出され、大会最多の4盗塁をマーク。にわかに注目を浴びたが、今季初盗塁は開幕から1か月以上たった7月24日の日本ハム戦と遅かった。当初、代走や守備固めでの途中出場が多かった事情もあるが、森脇氏は「盗塁機会が少なかったというより、完璧を求め過ぎるあまり、思い切りが欠けていた」と見る。

周東を二人三脚で指導しているのが、現役時代に盗塁王に2度輝き、現在一塁ベースコーチも務める本多雄一内野守備走塁コーチ。森脇氏はかつてホークスの内野守備走塁コーチとして、その本多コーチの指導に携わった。「現役時代の本多コーチは当初、内野守備では抜群のスタート技術を身に着けた一方で、走者としてのスタートには波があった。そこでスランプの時には、グラブをはめて盗塁練習をして修正したことがある。グラブをはめての走破タイムが、通常を上回ったこともあった。そういう中で、完璧でなく8割のスタートでも成功できることに気付いてくれた」と振り返る。そして、「推測だが、本多コーチは周東の動かし方を知り、周東は完璧なスタートでなくても成功できる感触をつかんだように思う」と語る。「盗塁には投手狙い、捕手狙い、配球狙いなど様々な要素がある。一塁ベース上での周東と本多コーチの会話やアイコンタクトは、何とも不気味で頼もしく映る」とも。

10月に入ってからの周東の走りっぷりは、シーズン72盗塁をマークした64年の広瀬氏、94盗塁を量産した74年の福本氏並み。今季のみならず、来季以降、年間いったい何個の盗塁を決めるのか、楽しみになってくる。もちろん、クライマックスシリーズ、日本シリーズなどの短期決戦でも、周東の存在は相手にとって脅威。当代きっての韋駄天から目が離せない。

【動画】元オリ監督森脇氏が“不完全でも成功”の妙を掴んだと指摘した 周東が今季45個目の盗塁を決めた実際の場面

【動画】元オリ監督森脇氏が“不完全でも成功”の妙を掴んだと指摘した 周東が今季45個目の盗塁を決めた実際の場面(視聴可能期間:2020年11月24日まで) signature

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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