昇給は言ったもの勝ち!?給料が上がらない日本で賃金を増やすには

前回の記事「日本で30年間も賃金が増えなかったのは誰のせいなのか?」では、いつのまにか日本は賃金の安い国になってしまったことを紹介しました。その背景には、企業が熱心に人件費削減に取り組むなかで、労働者がそれを受け入れざるをえない職場風土の存在がありました。

では、これから賃金を上げるために何ができるのでしょうか。今回は国際調査の結果から、新たな賃上げの方法について考えていきます。


賃上げを求める個人、海外7割、日本3割

アメリカやフランスなど、他の先進国では平均賃金が増えているにもかかわらず、日本は30年間変わっていない、この事態を招いた要因のひとつだと思われる国際調査の結果があります。

入社後に賃上げを要望したことがあるかをたずねると、アメリカやフランス、中国は「賃上げを求めたことがない」は3割を切っているにもかかわらず、日本は7割弱が「賃上げを求めたことがない」と回答しているのです。

他の国々では7割以上の個人が、何らかの場面で企業に賃上げを求めており、日本とはほぼ正反対の結果となっています。日本では想像しにくいですが、企業に賃上げを求めるのは海外では普通のことなのです。

声をあげれば叶う確率が高まる

しかも、賃金に関して声をあげれば希望が叶う確率が高まることも、分析によって明らかになっています。

日本、アメリカ、中国、いずれの国でも、入社時に賃金について要望した場合、「希望が叶った」が6~7割、「希望より少なかった」が3~4割となっています。

賃上げの声をあげたからといって必ずしも希望が叶うとは限りませんが、要望しなければ考慮さえされません。声をあげることは簡単ではありませんが、自身に対する評価や企業の許容範囲を見極めながら、まずは要望してみることが大切といえるでしょう。

「賃上げを求めれば、それが叶う確率が高まる」というのは、一見すると当たり前の主張だと感じるかもしれませんが、決してそうではありません。

前回の記事「日本で30年間も賃金が増えなかったのは誰のせいなのか?」で示したように、日本は賃金が自然に増えていく環境になく、さらに海外のように一般的な個人で賃金について交渉するという風土もありません。

これほどまでに賃上げが難しい日本においても、「個人がきちんと要望すれば、賃上げにつながる」というのは重要な発見だと筆者は考えています。

賃金交渉は、労働組合から個人へ

日本ではこれまで、企業に賃上げを求めるのは、もっぱら労働組合の役目だと考えられてきました。しかし、労働組合の組織率は、戦後の56%からいまや17%まで低下しています(厚生労働省「労働組合基礎調査」)。

また、人材の流動化により、働き始めてから一度でも退職したことがある個人は70%に達しています(リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」)。もはや大半の労働者にとって、労働組合も終身雇用もないに等しいのです。

だとすると、伝統的な集団的労使間関係とは異なる、賃金交渉の新たな仕組みが必要です。

転職者や有期社員は「一人春闘」

終身雇用が続いていれば、新卒で企業に入った後は、その企業の賃金等級制度にのっとって賃金が決まっていきます。企業全体で最適化された賃金等級制度に、個人が口をはさむのにも限界があるでしょう。そのため、労働組合がベースアップや昇給を勝ち取ることで、賃上げを実現してきたのです。

しかし、いまや雇用が流動化しています。新卒社員と違い、キャリアの途中で入職してくる転職者や有期社員は、最初にどの等級に位置づけられるかにより、その後の賃金も変わります。

転職者や有期社員はそれぞれ、能力や経験、入社時期が異なるため、新卒社員のように一律で労働条件を決めることはできません。彼らは雇用契約の締結時や更新時に、自分自身で企業と待遇についてすりあわせなければなりません。それはまるで「一人春闘」です。

雇用の流動化によって、賃金交渉は「集団から個人へ」「雇用契約期間中から契約の締結・更新時へ」重要性が移っています。自分自身で賃金について企業とすりあわせていく意識や行動が求められつつあります。

© 株式会社マネーフォワード